95 / 147
連載
ドルドランドの長い夜(5)
しおりを挟む
「な、何をしている! 立て! 立つんだ!」
クーサイはウィスキー侯爵の兵達によって、羽交い締めにされながら喚き始める。
「む、無理です。クーサイ様は御存知ないのですか? 元勇者パーティーのリック様と言えばジルク商業国の英雄ですよ」
「英雄⋯⋯だと⋯⋯」
クーサイが驚くのもわかる。
皇帝陛下との戦いは非公開だったし、俺はつい先日までハインツ王子に勇者パーティーを追放された無能力者だからな。
「クーサイ、お前は知らないのか? リックくんは千を越える魔物からズーリエを守った英雄だぞ」
「そ、そんなこと聞いてないぞ!」
それは情報を仕入れていなかった自分が悪い。現に同じ立場であるウィスキー侯爵は俺のことを知っていたからな。
「だが英雄だろうがなんだろうが関係ない! 命を睹して私を助けるのがお前達ゴミくずの役目だろ!」
初めは丁寧な物言いだったけど、段々と本性を表してきたな。
大抵の貴族は一般市民を見下している。クーサイもその類に漏れなかったようだ。
「いえ、私達はもうあなたの命令は聞けません」
「なんだと!」
「もう悪事に手を染めるのはごめんです」
「ふざけるな! 貴族であるこの私に逆らうのか!」
兵士達は根っから悪い人達ではないようだ。
領主であり、貴族であるクーサイの命令に逆らうことが出来なかったと言った所か。
「今のセリフは二度と使うことは出来ませんよ⋯⋯あなたはすぐに貴族の地位を剥奪されますから」
「こ、この私が平民に落ちると言うのか⋯⋯」
「いえ、平民ではなくただの犯罪者です」
俺の言葉で現実を知ったのかクーサイは黙り項垂れる。
これでここは何とかなったな。後は⋯⋯
「リック殿」
「ウィスキー侯爵大丈夫ですか?」
「ああ、君のおかげで助かったよ。ありがとう」
「いえ、ドルドランドも関係していることですから」
「だがまだ終わった訳ではない。早く街へ向かわなくては!」
「あ~⋯⋯たぶん街は大丈夫です。むしろやり過ぎないか不安ですね」
「ん? どういうことだ? 街はクーサイが放った無法者達のせいで燃えているだぞ!」
「それは――」
俺はウィスキー侯爵に何故街が燃えているか、どうして急ぐ必要がないのか説明するのであった。
貧民街side
「どこへ行くつもりなの?」
突然一人の少女⋯⋯いや、エミリアが現れ、荒くれ者達の逃げ道を塞ぐ。
「何だよ。人がいるじゃねえか」
「しかもかなりの上玉だ」
「これは高く売れる! 戦利品として持ち帰るぞ!」
荒くれ者達はエミリアの美しい容姿を目にして沸き立つ。
「バカね。よく見なさい。後ろに兵士達がいるのがわからないの?」
「兵士だと? 確かにいるな」
「それにもう一人上玉がいるじゃねえか!」
ドルドランドの兵士達の中にいるリリを見つけ、荒くれ者達はさらに沸き立つ。
「あの視線⋯⋯気持ち悪い」
リリは荒くれ者達の舐めるような視線に不快感を示す。
「少しの間そこで待っていなさい。すぐに終わらせてあげるから」
「お願い」
「それと兵士達! 私一人でやるからあなた達はおとなしくリリを守っていなさい」
「「「承知しました」」」
兵士達は敬礼をして、命令通りエミリアの行動を見守ることにする。
「バカじゃねえか! 一人でやるだと!」
「こっちは三十人近くいるんだぞ!」
「すぐに裸にひん剥いてやるから、そこで見ていやがれ!」
荒くれ者達はエミリアの服を引きちぎる未来を想像しているのか、下卑た笑みを浮かべていた。
「死にたい奴からかかってきなさい」
エミリアは腰に差した剣を抜き構える。
「エミリア様! 殺してはいけないとリック様からの言付けが⋯⋯」
「わかってるわ! 雰囲気で言っただけよ!」
エミリアは兵士に言い返しながら荒くれ者達の元へと突撃する。
「くそっ! 舐めやがって!」
「野郎共! やっちまえ!」
そして荒くれ者達も武器を手にエミリアへと向かい、両者が激突するのであった。
クーサイはウィスキー侯爵の兵達によって、羽交い締めにされながら喚き始める。
「む、無理です。クーサイ様は御存知ないのですか? 元勇者パーティーのリック様と言えばジルク商業国の英雄ですよ」
「英雄⋯⋯だと⋯⋯」
クーサイが驚くのもわかる。
皇帝陛下との戦いは非公開だったし、俺はつい先日までハインツ王子に勇者パーティーを追放された無能力者だからな。
「クーサイ、お前は知らないのか? リックくんは千を越える魔物からズーリエを守った英雄だぞ」
「そ、そんなこと聞いてないぞ!」
それは情報を仕入れていなかった自分が悪い。現に同じ立場であるウィスキー侯爵は俺のことを知っていたからな。
「だが英雄だろうがなんだろうが関係ない! 命を睹して私を助けるのがお前達ゴミくずの役目だろ!」
初めは丁寧な物言いだったけど、段々と本性を表してきたな。
大抵の貴族は一般市民を見下している。クーサイもその類に漏れなかったようだ。
「いえ、私達はもうあなたの命令は聞けません」
「なんだと!」
「もう悪事に手を染めるのはごめんです」
「ふざけるな! 貴族であるこの私に逆らうのか!」
兵士達は根っから悪い人達ではないようだ。
領主であり、貴族であるクーサイの命令に逆らうことが出来なかったと言った所か。
「今のセリフは二度と使うことは出来ませんよ⋯⋯あなたはすぐに貴族の地位を剥奪されますから」
「こ、この私が平民に落ちると言うのか⋯⋯」
「いえ、平民ではなくただの犯罪者です」
俺の言葉で現実を知ったのかクーサイは黙り項垂れる。
これでここは何とかなったな。後は⋯⋯
「リック殿」
「ウィスキー侯爵大丈夫ですか?」
「ああ、君のおかげで助かったよ。ありがとう」
「いえ、ドルドランドも関係していることですから」
「だがまだ終わった訳ではない。早く街へ向かわなくては!」
「あ~⋯⋯たぶん街は大丈夫です。むしろやり過ぎないか不安ですね」
「ん? どういうことだ? 街はクーサイが放った無法者達のせいで燃えているだぞ!」
「それは――」
俺はウィスキー侯爵に何故街が燃えているか、どうして急ぐ必要がないのか説明するのであった。
貧民街side
「どこへ行くつもりなの?」
突然一人の少女⋯⋯いや、エミリアが現れ、荒くれ者達の逃げ道を塞ぐ。
「何だよ。人がいるじゃねえか」
「しかもかなりの上玉だ」
「これは高く売れる! 戦利品として持ち帰るぞ!」
荒くれ者達はエミリアの美しい容姿を目にして沸き立つ。
「バカね。よく見なさい。後ろに兵士達がいるのがわからないの?」
「兵士だと? 確かにいるな」
「それにもう一人上玉がいるじゃねえか!」
ドルドランドの兵士達の中にいるリリを見つけ、荒くれ者達はさらに沸き立つ。
「あの視線⋯⋯気持ち悪い」
リリは荒くれ者達の舐めるような視線に不快感を示す。
「少しの間そこで待っていなさい。すぐに終わらせてあげるから」
「お願い」
「それと兵士達! 私一人でやるからあなた達はおとなしくリリを守っていなさい」
「「「承知しました」」」
兵士達は敬礼をして、命令通りエミリアの行動を見守ることにする。
「バカじゃねえか! 一人でやるだと!」
「こっちは三十人近くいるんだぞ!」
「すぐに裸にひん剥いてやるから、そこで見ていやがれ!」
荒くれ者達はエミリアの服を引きちぎる未来を想像しているのか、下卑た笑みを浮かべていた。
「死にたい奴からかかってきなさい」
エミリアは腰に差した剣を抜き構える。
「エミリア様! 殺してはいけないとリック様からの言付けが⋯⋯」
「わかってるわ! 雰囲気で言っただけよ!」
エミリアは兵士に言い返しながら荒くれ者達の元へと突撃する。
「くそっ! 舐めやがって!」
「野郎共! やっちまえ!」
そして荒くれ者達も武器を手にエミリアへと向かい、両者が激突するのであった。
81
お気に入りに追加
4,756
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。