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褒賞で求める物は

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 皇帝陛下の部屋へ向かうと、扉の前には以前見た兵士がいた。

「どうぞ、お通り下さい」

 今回は皇帝陛下の言付けもあったのか、すんなり扉を通ることが出来た。
 そして扉の向こうにある廊下を進んでいると、部屋の前には護衛の騎士がいた。この二人はルドルフに殺されかけて瀕死の状態だったが、回復魔法で何とか助けることが出来た。

「「ユート殿!」」

 二人は俺達の姿を見つけると、駆け足で近寄ってきた。
 そして俺の手を取ると、感激した表情で捲し立てる。

「命を助けていただきありがとうございます! このご恩は一生忘れません!」
「そしてあの時起こった奇跡については、誰にも口外致しません! この命に代えても!」
「いや、さすがに命がかかっていたら喋ってもいいよ」

 この様子だと、二人から回復魔法について漏れる心配はなさそうだ。

「皇帝陛下が皆様方をお待ちです。どうぞ中にお入り下さい」

 俺達は護衛の騎士の案内で、皇帝陛下の部屋へと入る。

「おお! よく来てくれた! さあさあこちらに座ってくれ」 

 皇帝陛下は笑顔で出迎えてくれ、俺達はソファーに座る。
 何だかすごくフレンドリーな感じだな。今まで厳格なイメージが強かったが、これが本当の顔かもしれない。

「ユートよ。我が命を救ってくれたことに礼を言う。そしてリリシア王女⋯⋯愚息が迷惑をかけた。改めて謝罪する。もちろんこの場だけで終らすつもりはない。この件はスロバスト帝国からフリーデン王国に正式謝罪させてもらう」
「そのようにしていただけるのであれば、私からは何も言うことはありません」
「俺はリリシア王女を守るために動いただけです」
「そう言ってくれると助かる」

 リリシアは今回の事件を大事にするつもりはないようだ。この世界は徐々に滅びの道へと向かっているから、両国が友好関係を築いてくれることは俺に取っても望ましい。

「それにしてもユートはどうやってルドルフ兄貴の企みを知ったんだ? 親父の部屋で起きることを、予測していたように見えたぞ」

 アルドリックが嫌な所をついてくる。
 だけどおそらくそのことについては、アルドリックから質問されると思っていたので、答えは考えていた。

「玉座の間から出てきたルドルフ皇子が、皇帝の座は俺の者だ⋯⋯リリシア王女に罪を擦り付けてやると呟いている姿を見ていたので、警戒していました。俺がリリシア王女を守ればいいと思っていましたが、皇帝陛下の部屋の中まではさすがに行くことは出来ないと考えて、念のためアルドリック皇子にお願いした所存です」
「ああ⋯⋯ルドルフ兄貴がリリシア王女に振られた時か。確かにあの時の兄貴は滅茶苦茶機嫌が悪かったな」
「だからと言って何をしてもいいということではない。前はそのようなことをする奴ではなかったのだが⋯⋯」
「確かにルドルフ兄貴は変わったな。皇帝という地位がそうさせたのかそれとも⋯⋯」

 ルドルフを近くで見ていた二人は、違和感を感じているようだ。金や権力というのは人を惑わせやすい。だがルドルフが変貌した本当の理由は他にある。
 そのことを伝えるために、俺は皇帝陛下の部屋に来たのだ。
 だが俺が口を開く前にザインが口を開いた。

「それであのルドルフとかいう皇子はどうなるんだ?」
「⋯⋯余程の理由がない限り死罪は免れない」

 帝国のトップを斬りつけたのだ。操られでもしない限りその裁量は当然のことだろう。

「それより今日お主達を部屋に呼んだのは褒賞についてだ。何か望む物はあるか?」
「俺専用のハーレム宮殿を⋯⋯いてっ! 何をするんだ!」

 ザインがバカなことを口にしようとしたので、頭を殴って止めた。
 お前なら絶対に言うと思ったよ。

「真っ先にその願いを口にするとは⋯⋯お前とは仲良くなれそうだ」

 そしてアルドリックもザインの願いに肯定を示したため、俺と皇帝陛下は頭をかかえる。

「え~と⋯⋯私はユート様にお任せ致します。そもそも皇帝陛下が助かったのも、ルドルフ皇子を捕まえることが出来たのもユート様のお陰ですから。ザインさんもそれでよろしいですか?」
「⋯⋯わかったよ。今回だけはリリシアちゃんに従うぜ」

 まあ正直な話、帝都に来てからザインはあまり活躍していないからな。本人もそのことがわかっているから引き下がったのだろう。

「そうか⋯⋯それではユートよ。そなたは何を望む。アルドリックに聞いたがユートはフリーデン王国に仕えている訳ではないらしいな。世界でただ一人の回復魔法使いは是非とも欲しい人材だ。余に仕えるというなら侯爵の地位を授けるぞ」

 侯爵といえば上級貴族だ。おそらく一生遊んで暮らすことが出来る金が手に入る。
 世界が滅びの道を行くと知らなければ、喜んで引き受けただろう。
 そのような未来を考えていたら、突然俺の手に温もりを感じた。

「ユート様⋯⋯」

 どうやら隣に座っているリリシアが、俺の手に自分の手を重ねてきたようだ。
 これは帝国には行って欲しくないってことなのか?
 安心してくれ。貴族になって国に縛られてしまったら俺の目的を果たせなくなってしまう。

「その申し出はありがたいですが、今はどこの国にも仕えるつもりはありません」

 皇帝陛下の問いに答えると、リリシアがホッとしたような表情を浮かべる。

「それは残念だな。ゆくゆくは余の娘との婚姻も考えていたのだが⋯⋯」
「そ、それは絶対にダメです!」

 突然リリシアが立ち上がり、皇帝陛下の言葉を否定する。
 びっくりした。リリシアがあんなに大きな声を出す所、初めて見たぞ。

「どうやらユートを勧誘すると、フリーデン王国との友好関係にひびが入りそうだ」
「あっ! いえ、その⋯⋯」

 大きな声を出して恥ずかしかったのか、リリシアの顔が真っ赤になっていく。

「お、お父様とお兄様から、ユート様と一緒に王国へ帰ってくるように言われていますから。ですからユート様を帝国にお渡しすることは出来ません」
「ふっ⋯⋯若さとは良いものだな。そういうことにしておくか」

 自分で言うのも何だけど、王国も俺を必要としているからリリシアの言葉は納得できる。
 それにしても皇帝陛下がそこまで俺を買ってくれているとは。皇帝陛下の娘か⋯⋯実は前の時間軸では会ったことがないんだよな。どんな人物か気になるといえば気になる。

「すみません。ですが何か窮地の場合は、必ず駆けつけると約束します」
「わかった。今はその答えが聞けただけで十分だ。だがユートを手に入れることを諦めた訳ではないぞ」

 困ったな。皇帝陛下に相当気に入られたようだ。高く評価してくれるのは嬉しいけど、その願いに答えることは出来ないので、申し訳なく思う。

「話が逸れたな。それで願いは決まったのか」
「はい。俺の願いは⋯⋯」

 そして俺は褒賞で貰いたいものを口にするのであった。
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