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嵌められたリリシア

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 廊下を進むと、皇帝陛下の部屋が見えてきた。

「護衛の騎士がいないぞ!」

 アルドリックが驚いた様子で声を上げる。
 どうやら普段は皇帝陛下の部屋の前に騎士がいるようだ。

「悲鳴というのは本当だったのか」
「皇帝陛下はご無事なのか!」

 そして護衛の騎士がいないことで、アルドリックや二人の兵士に、何かが起きていると理解してもらえたようだ。
 俺は部屋の前にたどり着くと、勢いよくドアを開ける。
 すると目に入ってきたのは床に倒れている三人の男と、その場に座り込むリリシアとルルだった。
 一人は昨日パーティーで見た皇帝陛下だ。残る二人は護衛の騎士で間違いないだろう。
 そして三人に共通しているのは、いずれも血まみれだということだ。

「あっ⋯⋯ああ⋯⋯」

 リリシアはゆっくりこちらを振り向く。
 予想外の出来事にショックを受けているのか、言葉を上手く話せず、目の焦点が合っていないように見える。

「まさかリリシア王女が皇帝陛下を!」
「絶対に逃がすな!」

 二人の兵士は手に持った剣をリリシアへと向ける。
 兵士の一人が、この部屋にいるのは皇帝陛下と護衛の騎士二人、それとリリシアだけだと言っていた。この部屋に入るには、兵士達が守っていた扉を通らなくてはならない。
 そして生き残っているのはリリシアだけ。状況証拠だけで考えると、誰が見ても犯人はリリシアと断定するだろう。
 兵士達がリリシアを警戒するのも理解出来る。

(王女が部屋に入った時には⋯⋯)
(わかっている)

 ルルが頭の中で話しかけてくるが、俺には全てがわかっている。
 犯人は既にこの場にはいない。
 だから俺は躊躇いもなく、リリシアと皇帝陛下の元へと近づく。

「リリシア、大丈夫だ。後は任せてくれ」
「は、はい⋯⋯」

 リリシアを安心させるために問いかけるが、皇帝陛下はピクリとも動いていないように見える。

「状況的にリリシア王女が危害を加えた可能性が高いです」
「近づくと危険です! 下がってください!」

 兵士が忠告してくるが、俺は無視して掌を皇帝陛下へとかざす。

「貴様! 皇帝陛下に何をするつもりだ!」
「その手をすぐに下ろせ!」

 俺が再度の忠告も無視したためか、兵士達は声を荒げてきた。
 だが今は兵士に構っている暇はない。
 もし兵士達が強引に拘束してきたら、ザインに止めてもらうしかないな。
 しかしこの後、兵士達が俺の行動を阻止することはなかった。
 何故ならアルドリックが再び兵士達を止めたからだ。

「全ての責任は俺が取ると言ったはずだ。ユートに手を出すな」
「「しょ、承知しました」」

 またしてもアルドリックに助けられてしまった。
 それならここは皇帝陛下を治すことで恩を返すことにしよう。
 俺は魔力を左手に集め、回復魔法を唱える。

完全回復魔法パーフェクトヒール

 魔法が発動した瞬間、目を開けられない程の眩しい光が、皇帝陛下を包み込む。

「魔法⋯⋯だと⋯⋯だがこんな魔法見たことないぞ」

 アルドリックが驚くの無理もない。
 回復魔法を使えるのはこの世界でただ一人、俺だけだからな。
 ちなみにこれは回復魔法ヒールより強力な魔法で、生きてさえいれば、どのような傷も治してしまう魔法だ。
 もし完全回復魔法パーフェクトヒールで皇帝陛下の傷が治らないようなら、既に命が失われているということになってしまう。
 そして俺は護衛の騎士達にも完全回復魔法パーフェクトヒールを使う。
 最悪この中の誰かが意識を取り戻してくれれば、三人を殺害しようとした犯人の証人になってくれるはず。
 もちろん俺には誰の犯行かわかっている。
 しかし未来から来たので犯人を知っているなんて言っても、信じてもらえないし、頭がおかしいと思われるだけだ。
 一応三人が亡くなってしまった場合でも、犯人を追い詰める方法はあるが、出来れば助かってほしい。
 俺は祈るような気持ちで、三人が目を開けるのは待つのであった。
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