異世界転生者のリトライ~これから起こることは全てわかっている。世界でただ一人の回復術師はとても有能でした~

マーラッシュ

文字の大きさ
上 下
22 / 49

迷いの森

しおりを挟む
(あなた⋯⋯この街に来た時、迷いの森に入ったら二度と出てこれないって考えていましたよね?)

「とりあえずこの部屋には俺しかいないから普通に話さないか」
「わかりました。それでどういうつもりですか? まさか可愛らしい私を迷いの森に連れて行って⋯⋯前からお前のことを独り占めしたいと思っていたんだ。もう逃げられないぞ。ここで俺と二人だけで一生暮らすんだ、ゲヘヘとか猟奇的なことを言うつもりですか」

 この駄猫は何を言ってるんだ? 口に出した途端、勝手な妄想を言うのをやめてほしい。

「自分から着いていくって言ったのに理不尽だ。そんなに猟奇的なことが好きなら、リリシアと二人で迷いの森に行くか?」
「ひぃっ! ご、ごめんなさい」

 あれ程強気だったルルが、震えて謝罪してきた。
 リリシアと二人っきりになるのがどれだけ恐怖なのか気になる所だ。

「とりあえず時間もないから行くぞ」
「わかりました。忙しいですが私も着いていってあげます」

 一日十六時間寝ているルルに忙しい言われても⋯⋯

「今何か失礼なことを考えましたか?」
「いや、考えてないです」

 考えていることを読まれるのは、本当に厄介だな。とりあえず余計なことは考えるのはやめよう。
 ルルは俺の肩に乗り部屋を出ると、そこにはリリシアの姿があった。

「ユート様? どこかに行かれるのですか?」
「あ、ああ。時間が空いたからちょっと散歩にね」
「でしたら私も御一緒してもよろしいですか?」
「えっ?」

 リリシアの提案に間抜けな声を出してしまう。危険ではないけど出来れば一人で行きたい。俺は断りの言葉を口にしようとするが⋯⋯

「私、王都以外の場所はほとんど行ったことがありませんので、とても楽しみです」

 リリシアが目を輝かせてそのようなセリフを言うため、断りづらい。

(優柔不断な人ですね。男らしくないです)
(断るのに男らしいもらしくないもあるか) 

 だけどこういう時、どうしても前の時間軸で不幸な人生を過ごしたリリシアのことが頭に思い浮かんでしまう。
 出来れば楽しいことを経験させてあげたい。そう思ったら答えは決まっていた。

「街の外に行くつもりだけどいいか?」
「はい!」

 リリシアは嬉しそうに返事をする。

(はあ⋯⋯)

 そして俺の甘い答えにため息をつくルルであった。

 俺達は宿を出て街の北門へと向かう。

「ユート様とお出かけできるのは嬉しいですけど、ザインさんのことが少し心配ですね」

 どうやらリリシアはまだザインが仮病だとわかっていないようだ。とても悲しそうな表情をしていた。
 その様子をみて罪悪感が芽生えてくる。

「さ、さっきザインの様子を見てきたけど、体調はかなり良くなってきたって言ってたから大丈夫だと思うぞ」
「そうですか。それなら良かったです」

 人を騙すのって辛いな。それもリリシアみたいに心が綺麗な子なら尚更だ。

(それなら私にも嘘をつくことが出来ないですね)
(ソウダナ)

 俺は心にもないことを思い浮かべていると、ちょうど北門にたどり着いた。そしてそのまま門を出て北に歩きだす。

「そういえばユート様はどちらに行くご予定なのですか? この先は確か迷い森と言われて中に入ると出てこれないとか⋯⋯」

 さすがに自国のことだから知っていたか。まあ何も言わずに森に案内するのは無理があるか。

「ちなみにフリーデン王国では、未開の地にあった宝物って誰の物になるんだ?」
「見つけた方の物か、もしくは国の物になりますね」
「もし森で宝物を見つけたら、俺がもらってもいいかな?」
「わかりました。ですが⋯⋯もしかしてこの先に宝物があるのですか!」
「あ、ああ⋯⋯」

 リリシアはワクワクした様子で、散歩に行く時以上に目を輝かせている。

「私、宝探しなんて初めてです! この先に何があるのですか? あっ! いえ、言わないで下さい。先に何があるか知ってしまいましたら楽しみが減ってしまいますね」

 本当に楽しそうだな。まあ宝探しにテンション上がるのは皆一緒か。

「ユート様、早く参りましょう」

 そしてリリシアに急かされながら、俺達は迷いの森の前へと到着する。
 さすがは名前負けしない程の広大な森林が拡がっているが、それだけではない。

「これは⋯⋯霧ですか」
「そうだな。ただでさえ森の中では方向を見失いやすいのに、一寸先も見えない霧まで広がっていたら、普通なら誰も入ろうとしないだろう」

 ここに入ってしまったら、二度と出ることはできないと言うのも頷ける。

(やはり私とこの王女を迷いの森に閉じ込めるつもりですか!)

 ルルがまた妄想を頭の中で考え始めた。

「ユート様⋯⋯この中に入るおつもりですか?」

 宝探しでワクワクだったリリシアも、さすがにこの霧を見て不安な表情を浮かべていた。

「大丈夫。俺を信じてくれ」
「わ、わかりました。ユート様を信じます。ですが少し怖いのでルルちゃんを抱っこしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ」

(いいよじゃないですよ! もし迷ったらこの王女と運命を共にすることになるじゃないですか! せめてあなたが私を⋯⋯)

 ルルはリリシアの手から逃れようとするが、捕まってしまう。

「ルルちゃん、そんなに暴れて怖いのですね。大丈夫⋯⋯私がずっと一緒にいますから」

(それが一番怖いのよ!)

 だがルルの心の叫びはリリシアに届くことはなく、俺達は迷いの森に足を踏み入れるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...