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熊の末路

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 今日は1日室内プールでハーレムを堪能することとなり、俺は御満悦なまま夕食へと突入する。

「本日は珍しい食材が入りましたのでご堪能下さい」

 珍しい食材?
 食堂ではソフィアさんの命令でメイドさん達がテーブルの上に何かを置いていく。

「鍋?」

 テーブルの上に置かれたのはどう見ても鍋だ。洋風な建物である食堂には似つかわない物なので少し驚いた。

 そして土鍋の蓋が開けられ、ソフィアさんの手で中身がお椀によそわれていく。
 お椀の中身を見ると白菜、ネギ、舞茸、もやし、ニンジン、そして肉だ。
 この中で特別珍しい食材は見られないような気がするけどスープに秘密があるのかな? スープは黄味を帯びた淡色をしていることから信州味噌が入っている気がする。ここが山の中で珍しい食材ということはまさかミスター○っ子でスープに使われた幻の冬虫夏草でも使われているのか!
 俺はドキドキしながらスプーンを取り、スープを口に入れる。
 しかし美味しいけどスープは味噌を使った一般的な味だった。
 そうなると具材が珍しい食材なのかな?
 俺は箸で肉を取りよく観察して見る。

「赤身? その割には油が多そうだが⋯⋯」

 肉質が違い過ぎる点から鳥でないことは間違いないな。牛? 豚? いや、その2つとも違うような気がする。

 今まで見たことがない肉だな。どうやらこれがソフィアさんの言う珍しい食材で間違いなさそうだ。

 俺は肉を箸で掴み躊躇いなく口の中へと運ぶ。

「う、旨い。食べた瞬間に肉の旨味が口の中に広がっているぞ。油分を多く含んでいるがまったくしつこさがないし、食欲をそそる香りがしている。これは牛? いや牛に近い味がするがこれはまさか⋯⋯」

 何となく察しがついた。確かにこれは珍しい食材だな。

「リウトちゃん、このお肉美味しいね。お家でも作ってみようかな」
「いや~たぶん無理なんじゃないかなあ」
「きっとこの別荘にいる凄腕のシェフさんが作った秘伝の味だからお姉ちゃんじゃ無理かな」

 違うと思うけどとりあえずコト姉は納得しているからそのままにしておくか。

「明日は午後にここを出発する予定だけど午前中は湖の方で遊びましょうか」

 アリアが俺の考えを読んだのか突然明日のスケジュールを話し始める。

「えっ? でもまだ熊がいるんじゃ⋯⋯」
「さすがに熊と戦うのは異世界だけでお願いしたい所です」

 ユズと瑠璃は不安そうな表情でアリアに問いかける。

「もう熊はいないから安心して。それに明日はお父様が私兵プライベート部隊トゥループスを用意してくれているから安全よ」
「私兵部隊って⋯⋯」

 まさかアリアのお父さんって武器商人とか? ソフィアさんみたいにすぐナイフをちらつかせる護衛もいるしあり得ない話じゃないな。

「アリアさんのお父さんって何をしている人なの?」 

 ちひろが好奇心からなのか、怖いもの見たさなのかわからないが、聞きにくいことを質問する。

「お父様はただの社長よ。色々幅広く手掛けているみたいだけど子供の私には関係ないわ」
「そうなんだ」

 その色々が聞いてみたい所だけどあまり踏み込んで質問するのも失礼だからこれ以上聞くことはできないな。

「お姉ちゃん、それじゃあ熊さんは森に帰ったからもう会うことはないんだね」

 紬ちゃんは少し残念そうな表情をしているが実はもう既に会っていることに気づいていない。なぜならその熊さんは目の前にある土鍋の中だからな。
 だがそんな残酷なことを紬ちゃんに言うことはできない。

「この鍋は美味しいなあ」

 俺は亡くなった熊の死を無駄にしないためにも土鍋の料理を残さず全て食べるのであった。


 翌日の午前中。
 別荘でゆっくり過ごす者、湖の近くを散策する者、ボートを乗ったりする者と各々のやりたいことをしている。ちなみに俺は1人で釣りをして過ごしていた。

 そして別荘で昼食を取り、来たときと同じようにバスに乗って羽ヶ鷺市へと戻る。

「西条さん。今回は別荘に誘って頂きありがとうございました」

 神奈さんがちらりと俺に寄りかかりながら寝ている紬ちゃんに視線を向けて、アリアに感謝の言葉を述べていた。

「いいのよ。私も楽しかったしまた一緒に遊びましょ」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「けどごめんなさいね。熊が別荘の近くにいるとは思わなかったわ。紬には怖い思いをさせてしまったわね」
「大丈夫ですよ。紬は熊と会えて喜んでいましたから」
「そうなの? それなら良かったけど」

 確かに紬ちゃんはワンワンだと思っていたものが熊だと知って、滅茶苦茶喜んでいたからな。まあけどその後ユズに言われて熊が危険なものだと学べたし、結果的に良かったのかな?

「ハプニングはありましたけど本当に楽しかったです」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。でも私はこの旅行に不満があるけどね」
「不満⋯⋯ですか?」

 アリアもこの休みを楽しそうにしていると思っていたが、どうやら俺の勘違いだったようだ。

「ええ⋯⋯とっても不満よ。だって結が私のことを名前で呼んでくれないから」
「そ、それは⋯⋯」
「少しは仲良くなれたと思ったんだけどそれは私の勘違いかしら」
「そんなことないです⋯⋯アリア」

 神奈さんがアリアの名前で呼ぶと、アリアは満面の笑顔になった。

「今、この瞬間から私もこの旅行は最高に楽しいものだと言えるようになったわ。これからもよろしくね⋯⋯結」
「こちらこそよろしくお願いします⋯⋯アリア」

 こうして見るとアリアって本当に良い奴だな。金持ちなのに気さくだし。俺は改めてアリアのことを見直すと共に、過去に俺と会ったことがあるのかさらに気になり始めた。
 だが今のは俺は旅行の疲れがあり、バスの揺れが誘う眠気に逆らうことができず、夢の中へと旅立つのであった。
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