118 / 142
天城家と愉快な仲間達後編
しおりを挟む
何とか弾けてるよな?
久しぶりに弾くギターだったが身体は覚えていたようだ。
そしてイントロが終わりAメロに入るとユズはマイクを持ち歌い始める。
透き通るような澄みきった声で、この大舞台でも震えることもなく、音感がずれることもなく、そして何よりユズの歌には気持ちが込められていると俺は強く感じた。
それにしても何故ユズはいきなり歌うなどと言い始めたのだろうか。
先程瑠璃が言っていたようにユズは皆の前で歌うようなタイプではない。
それなのにこの熱く感じる想いはなんだ?
まるでユズがこのアニメの主人公の女の子になったかのように思える程だ。
確かこのアニメは、邪神を封印することができる幼なじみで年上の男の子と主人公で勇者の女の子が旅をする物語で、女の子は男の子に日頃の感謝を伝えようとするがツンデレで、いつも逆の言葉を言ってしまうことが印象的だった。
だが旅が順調に進んでいく中で、邪神を封印するには、聖剣を使って男の子の命を犠牲にしなくてはならないことを知る。そして女の子は世界の平和か男の子のどちらかの選択を迫られ、女の子は世界中の人を敵に回すとわかっていて男の子の命を選び、最後は人々に迫害されながらも邪神を倒す方法を見つけ、世界が平和になるという話だった。
今思うとユズの覚悟はこの時の女の子に少し似ている気がした。それならこのアニメの男の子のことを俺に見立てているのだろうか?
そして「世界の平和よりあなたが大切」といった歌詞の部分でユズは俺の方へと視線を向けてきた。
うっ!
その時のユズの笑顔に俺はドキっとさせられる。
俺とユズは兄妹だ。もし血が繋がっていないとわかっていても、恋人になったら周囲から奇異の目で見られることは間違いないだろう。
ユズには俺が養子でも養子じゃなくてもそれだけの覚悟があるってことなのか? 俺は何故だかわからないが、ユズの歌からそのような想いを感じた。
もしその時が来たのなら、ユズとはしっかりと向き合わないとダメかもしれない。それが今勇気を出して歌っているユズに対する礼儀だ。
そしてエンドロが終わり、会場からは溢れんばかりの拍手が何時までも鳴りやまなかった。
「いや~滅茶苦茶盛り上がりました! 飛び入り参加、天城家と愉快な仲間達でした」
「俺達はおまけか!」
「ひどい司会者さんですね。後で呪いをかけるしか⋯⋯」
司会者の落ちが決まり、こうして俺達は野外ステージを降りるのであった。
「みなさん演奏ありがとうございました」
ステージを降りるとユズが皆に向かって頭を下げる。
「俺も楽しかったから全然いいぜ」
「私もドラムの達人の腕前を見せれたので問題ないです」
「お姉ちゃんも楽しかったから大丈夫だよ~」
「俺は⋯⋯」
この時の俺はユズのことを考えていて上手く言葉が出てこなかった。
「そういえばユズちゃんは何で歌おうと思ったのかな?」
コト姉が俺達全員が思っている疑問を口にする。
「それは⋯⋯た、楽しい思い出にしたかったからです。今日はケーキ作りで材料がなかったり、お姉ちゃんや兄さんに手伝ってもらうことになってしまって良いところが全然なかったので、せめて最後くらいはと思い、がんばりました」
「そうなんだ。お姉ちゃんもユズちゃんのお陰で良い思い出が出来たよ~」
何となくユズが言ったことは嘘ではないが、全てを語っていないように思えた。まあツン気味のユズが皆の前で本心を語るわけないか。
こうして後夜祭も無事に終わり、変わらない日常が戻ってくると思ったが、今回の新入生歓迎会での俺の行動により、神奈さんとの時間が再び動き出すとは今の俺は思いもしなかった。
―――――――――――――――
【読者の皆様へお願い】
作品を読んで少しでも『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、作品フォロー、応援等もして頂けると嬉しいです。
久しぶりに弾くギターだったが身体は覚えていたようだ。
そしてイントロが終わりAメロに入るとユズはマイクを持ち歌い始める。
透き通るような澄みきった声で、この大舞台でも震えることもなく、音感がずれることもなく、そして何よりユズの歌には気持ちが込められていると俺は強く感じた。
それにしても何故ユズはいきなり歌うなどと言い始めたのだろうか。
先程瑠璃が言っていたようにユズは皆の前で歌うようなタイプではない。
それなのにこの熱く感じる想いはなんだ?
まるでユズがこのアニメの主人公の女の子になったかのように思える程だ。
確かこのアニメは、邪神を封印することができる幼なじみで年上の男の子と主人公で勇者の女の子が旅をする物語で、女の子は男の子に日頃の感謝を伝えようとするがツンデレで、いつも逆の言葉を言ってしまうことが印象的だった。
だが旅が順調に進んでいく中で、邪神を封印するには、聖剣を使って男の子の命を犠牲にしなくてはならないことを知る。そして女の子は世界の平和か男の子のどちらかの選択を迫られ、女の子は世界中の人を敵に回すとわかっていて男の子の命を選び、最後は人々に迫害されながらも邪神を倒す方法を見つけ、世界が平和になるという話だった。
今思うとユズの覚悟はこの時の女の子に少し似ている気がした。それならこのアニメの男の子のことを俺に見立てているのだろうか?
そして「世界の平和よりあなたが大切」といった歌詞の部分でユズは俺の方へと視線を向けてきた。
うっ!
その時のユズの笑顔に俺はドキっとさせられる。
俺とユズは兄妹だ。もし血が繋がっていないとわかっていても、恋人になったら周囲から奇異の目で見られることは間違いないだろう。
ユズには俺が養子でも養子じゃなくてもそれだけの覚悟があるってことなのか? 俺は何故だかわからないが、ユズの歌からそのような想いを感じた。
もしその時が来たのなら、ユズとはしっかりと向き合わないとダメかもしれない。それが今勇気を出して歌っているユズに対する礼儀だ。
そしてエンドロが終わり、会場からは溢れんばかりの拍手が何時までも鳴りやまなかった。
「いや~滅茶苦茶盛り上がりました! 飛び入り参加、天城家と愉快な仲間達でした」
「俺達はおまけか!」
「ひどい司会者さんですね。後で呪いをかけるしか⋯⋯」
司会者の落ちが決まり、こうして俺達は野外ステージを降りるのであった。
「みなさん演奏ありがとうございました」
ステージを降りるとユズが皆に向かって頭を下げる。
「俺も楽しかったから全然いいぜ」
「私もドラムの達人の腕前を見せれたので問題ないです」
「お姉ちゃんも楽しかったから大丈夫だよ~」
「俺は⋯⋯」
この時の俺はユズのことを考えていて上手く言葉が出てこなかった。
「そういえばユズちゃんは何で歌おうと思ったのかな?」
コト姉が俺達全員が思っている疑問を口にする。
「それは⋯⋯た、楽しい思い出にしたかったからです。今日はケーキ作りで材料がなかったり、お姉ちゃんや兄さんに手伝ってもらうことになってしまって良いところが全然なかったので、せめて最後くらいはと思い、がんばりました」
「そうなんだ。お姉ちゃんもユズちゃんのお陰で良い思い出が出来たよ~」
何となくユズが言ったことは嘘ではないが、全てを語っていないように思えた。まあツン気味のユズが皆の前で本心を語るわけないか。
こうして後夜祭も無事に終わり、変わらない日常が戻ってくると思ったが、今回の新入生歓迎会での俺の行動により、神奈さんとの時間が再び動き出すとは今の俺は思いもしなかった。
―――――――――――――――
【読者の皆様へお願い】
作品を読んで少しでも『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、作品フォロー、応援等もして頂けると嬉しいです。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~
いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。
橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。
互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。
そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。
手段を問わず彼を幸せにすること。
その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく!
選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない!
真のハーレムストーリー開幕!
この作品はカクヨム等でも公開しております。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。
電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。
ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。
しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。
薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。
やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。
悩んでいる娘を励ましたら、チアリーダーたちに愛されはじめた
上谷レイジ
恋愛
「他人は他人、自分は自分」を信条として生きている清水優汰は、幼なじみに振り回される日々を過ごしていた。
そんな時、クラスメートの頼みでチアリーディング部の高橋奈津美を励ましたことがきっかけとなり、優汰の毎日は今まで縁がなかったチアリーダーたちに愛される日々へと変わっていく。
※執筆協力、独自設定考案など:九戸政景様
高橋奈津美のキャラクターデザイン原案:アカツキ様(twitterID:aktk511)
※小説家になろう、ノベルアップ+、ハーメルン、カクヨムでも公開しています。
高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう
電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。
そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。
しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。
「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」
そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。
彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる