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失敗は成功の元
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「あら? 2人とも抱き合っちゃって仲が良いわね」
突如背後から母さんの声が聞こえ、俺は縮地を使って(使った気でいるだけ)ユズから離れる。
「ユ、ユズ! 火傷はどうだ! 大丈夫か?」
「は、はい! 兄さんが水道で冷やしてくれたからもう大丈夫です!」
俺は母さんに、けしてやましいことはしていないというアピールのため、大きな声で状況を説明する。
「あら? 柚葉ちゃん大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
「そう⋯⋯それにしても美味しそうな匂いね。上手くケーキが焼き上がったんじゃない?」
「そうだといいけど」
「お母さんちょっと出かけるからお昼は2人で食べてね」
「コト姉は?」
「琴音ちゃんは新入生歓迎会のことで生徒会が忙しいみたい」
大変だなコト姉も。休みの日まで働かなきゃいけないなんて。何か手伝えることがあったら手伝うか。
「親父は?」
「お父さんは昨日の夜から仕事。何もなければ午前中には帰ってくるって言ってたわ。それじゃあお母さん出かけるから。じゃあね~」
母さんは矢継ぎ早に喋ると玄関を出てそのまま家の外へと行ってしまった。
ふう⋯⋯母さんも心臓に悪いことをするぜ。これが親父だったら発狂して俺に襲いかかってくる所だ。
そして俺達は再びこの部屋に⋯⋯というか家に二人っきりとなる。
き、気まずい。なぜ俺はユズの火傷を水道で冷やす時、後ろから抱きしめるようなことをしてしまったんだ。だけどあの時はユズのことがただ心配で⋯⋯。
とにかくこの空気を何とかしたい。俺は甘い匂いが鼻をくすぐったこともあり、オーブンの中身についてユズに聞いてみる。
「ケーキでも焼いていたのか?」
「は、はい! 新入生歓迎会のために練習を⋯⋯」
普段の俺とユズの空気ではなく、どこかぎごちない感じがするが、無言の方が気まずいので俺はこのまま話を続ける。
「旨そうだな」
「それでしたら完成したら試食して下さい。元々兄さんのために作りましたから」
俺のため? 何だかいつもより嬉しく感じるのは気のせいなのか?
「あ、ああ。それじゃあ出来上がる頃に呼んでくれ」
「わかりました」
そしてユズは再びケーキ作りをするため、オーブンへと向かう。
ふう⋯⋯とりあえず普通に会話するくらいは出来るようになったかな。
それにしても休みの日までケーキ作りの練習をするなんて⋯⋯天城家の姉妹は勤勉だなあ。何だか10時までグータラ寝ていた自分が申し訳なく思えてきた。
「そういえば新入生歓迎会には何のケーキを出すんだ?」
「シフォンケーキ、カップケーキ、パンケーキで当日焼いて、なるべく出来立てを出すつもりです」
「それって大丈夫か? カップケーキはともかくシフォンケーキとパンケーキを上手く作るのは少し難しいぞ。もっと前日から作れるチーズケーキとかスポンジケーキ系の物を用意しておくのもありだと思うが」
「大丈夫です。私は練習中ですが、クラスで5人作ることの出来る子がいるので。一応お店のコンセプトが出来立てのケーキですから」
「うちのクラスなんて基本朝作って終わりだ。ユズ達のクラスはやる気が違うな」
「兄さん達は私達新入生を歓迎する気があるんですか?」
「も、もちろんあるさ」
これはけして、Dクラスのメイド喫茶に行くために楽なやつにしたなど、口が裂けても言えないな。
そして30分程時間が経つとテーブルにはホイップクリームがかけられたシフォンケーキが置かれる。
外からの見た目はいいが⋯⋯。
俺はシフォンケーキにフォークを入れると中には空洞が見られた。
「うぅ⋯⋯失敗してしまいました」
「メレンゲを混ぜてる時に空気が入ったか、それとも型に流し込む時に入ったか。もしくは焼き方が悪かったのかもしれないな」
「そうかもしれません」
「後、出来れば1度学園のオーブンで焼いてみた方がいい。オーブンの使用年数とかによって温度が微妙に変わって、焼き上がりが思っていたのと違うことになるかもしれないからな」
「わかりました⋯⋯」
ユズは上手く出来なかったことが悔しかったのか、肩を落としている。
「だけど味は良い。後は今言った所を注意して焼けばもっと良いものが出来るさ」
「兄さん⋯⋯次こそはもっと良いものを焼いてみせます。また少し時間を下さい」
えっ? 少し時間をってことはこれからまた焼くの? だけど甘い物をそんなに食べれないぞ。
「もちろん兄さんは付き合ってくれますよね?」
俺はユズから「はい」か「イエス」しか許さない問いに対して、もちろん「はい」と言うしかなかった。
突如背後から母さんの声が聞こえ、俺は縮地を使って(使った気でいるだけ)ユズから離れる。
「ユ、ユズ! 火傷はどうだ! 大丈夫か?」
「は、はい! 兄さんが水道で冷やしてくれたからもう大丈夫です!」
俺は母さんに、けしてやましいことはしていないというアピールのため、大きな声で状況を説明する。
「あら? 柚葉ちゃん大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
「そう⋯⋯それにしても美味しそうな匂いね。上手くケーキが焼き上がったんじゃない?」
「そうだといいけど」
「お母さんちょっと出かけるからお昼は2人で食べてね」
「コト姉は?」
「琴音ちゃんは新入生歓迎会のことで生徒会が忙しいみたい」
大変だなコト姉も。休みの日まで働かなきゃいけないなんて。何か手伝えることがあったら手伝うか。
「親父は?」
「お父さんは昨日の夜から仕事。何もなければ午前中には帰ってくるって言ってたわ。それじゃあお母さん出かけるから。じゃあね~」
母さんは矢継ぎ早に喋ると玄関を出てそのまま家の外へと行ってしまった。
ふう⋯⋯母さんも心臓に悪いことをするぜ。これが親父だったら発狂して俺に襲いかかってくる所だ。
そして俺達は再びこの部屋に⋯⋯というか家に二人っきりとなる。
き、気まずい。なぜ俺はユズの火傷を水道で冷やす時、後ろから抱きしめるようなことをしてしまったんだ。だけどあの時はユズのことがただ心配で⋯⋯。
とにかくこの空気を何とかしたい。俺は甘い匂いが鼻をくすぐったこともあり、オーブンの中身についてユズに聞いてみる。
「ケーキでも焼いていたのか?」
「は、はい! 新入生歓迎会のために練習を⋯⋯」
普段の俺とユズの空気ではなく、どこかぎごちない感じがするが、無言の方が気まずいので俺はこのまま話を続ける。
「旨そうだな」
「それでしたら完成したら試食して下さい。元々兄さんのために作りましたから」
俺のため? 何だかいつもより嬉しく感じるのは気のせいなのか?
「あ、ああ。それじゃあ出来上がる頃に呼んでくれ」
「わかりました」
そしてユズは再びケーキ作りをするため、オーブンへと向かう。
ふう⋯⋯とりあえず普通に会話するくらいは出来るようになったかな。
それにしても休みの日までケーキ作りの練習をするなんて⋯⋯天城家の姉妹は勤勉だなあ。何だか10時までグータラ寝ていた自分が申し訳なく思えてきた。
「そういえば新入生歓迎会には何のケーキを出すんだ?」
「シフォンケーキ、カップケーキ、パンケーキで当日焼いて、なるべく出来立てを出すつもりです」
「それって大丈夫か? カップケーキはともかくシフォンケーキとパンケーキを上手く作るのは少し難しいぞ。もっと前日から作れるチーズケーキとかスポンジケーキ系の物を用意しておくのもありだと思うが」
「大丈夫です。私は練習中ですが、クラスで5人作ることの出来る子がいるので。一応お店のコンセプトが出来立てのケーキですから」
「うちのクラスなんて基本朝作って終わりだ。ユズ達のクラスはやる気が違うな」
「兄さん達は私達新入生を歓迎する気があるんですか?」
「も、もちろんあるさ」
これはけして、Dクラスのメイド喫茶に行くために楽なやつにしたなど、口が裂けても言えないな。
そして30分程時間が経つとテーブルにはホイップクリームがかけられたシフォンケーキが置かれる。
外からの見た目はいいが⋯⋯。
俺はシフォンケーキにフォークを入れると中には空洞が見られた。
「うぅ⋯⋯失敗してしまいました」
「メレンゲを混ぜてる時に空気が入ったか、それとも型に流し込む時に入ったか。もしくは焼き方が悪かったのかもしれないな」
「そうかもしれません」
「後、出来れば1度学園のオーブンで焼いてみた方がいい。オーブンの使用年数とかによって温度が微妙に変わって、焼き上がりが思っていたのと違うことになるかもしれないからな」
「わかりました⋯⋯」
ユズは上手く出来なかったことが悔しかったのか、肩を落としている。
「だけど味は良い。後は今言った所を注意して焼けばもっと良いものが出来るさ」
「兄さん⋯⋯次こそはもっと良いものを焼いてみせます。また少し時間を下さい」
えっ? 少し時間をってことはこれからまた焼くの? だけど甘い物をそんなに食べれないぞ。
「もちろん兄さんは付き合ってくれますよね?」
俺はユズから「はい」か「イエス」しか許さない問いに対して、もちろん「はい」と言うしかなかった。
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