上 下
73 / 142

動けない時はやりたいほうだいだ

しおりを挟む
俺とコト姉はICカードを使って、羽ヶ鷺駅の改札を通る。
 辰川駅まで電車で8駅、20分程で到着する。途中には国立の公園もあって、休日でもそこそこ電車は混むが、学生がいる平日程ではない。

 しかし駅のホームに着いた俺達の周囲には多くの人がおり、むしろ平日より混雑しているように見える。

「今日は電車混んでるね」
「何かイベントでもあるのかな?」

 俺は急いでスマートフォンで調べてみると⋯⋯。

「今日は国立の公園で食べ物のイベントがあるのと、辰川ステージガーデンのホールでアイドルのライブがあるみたい」
「そうなんだあ⋯⋯それじゃあ電車の中は混み混みかもしれないね。お姉ちゃんは通勤ラッシュを経験したことないから大丈夫かなあ」
「俺も経験したことないけどね」

 正直帰りたい衝動に駆られるが、コト姉はデート? を諦める気はないようだし、このまま行くしかないよな。

 そして待つこと10分、快速辰川行きの電車が来てたので、俺達は電車に乗り込む。
 しかし想像通り、いや想像以上に電車は混んでいたので、俺はコト姉の手を取り、ドア付近へと移動する。
 そして俺は両手をドアに手をついてスペースをつくり、そこにコト姉を入れる。
 これだけ混んでいるとコト姉は人波に押されかねないし、何よりよからぬ奴らに痴漢をされる可能性がある。家族の俺が言うのも何だが、この姉にはそれだけの魅力が備わっている。
 そして羽ヶ鷺から次の駅に到着すると、さらに多くの人が電車に乗ってきた。

「くっ!」

 背中に食らう圧がより強くなり、思わず呻き声を上げてしまう。

「リウトちゃん大丈夫?」

 コト姉は俺が呻き声を上げてしまったからか、上目遣いで心配そうに語りかけてくる。

「全然大丈夫」

 本当は背中もドアを押さえている手も痛いし、全然大丈夫じゃないが、コト姉に心配をかけたくないから強がって見せる。

「ごめんね。お姉ちゃんのために⋯⋯」
「何のこと?」

 たぶんコト姉のためにスペースを作っているのがバレバレだと思うが、何だが恥ずかしくて俺は知らない振りをする。

「男の子だね」

 コト姉は頬を紅潮させ、優しい笑顔を向けてきた。
 やっぱりばれてるか。俺はその顔を直視することができずそっぽを向くと、不意に胸の所に暖かいものを感じた。

「コ、コト姉」

 あろう事かコト姉は俺の胸に顔を埋めてきたため、俺は驚いてしまう。

「ふふ⋯⋯リウトちゃん成分を充電中。いつもなら逃げられちゃうけど今なら充電し放題だね」

 いやいや、この姉は甘い匂いを振り撒いて何をやっちゃってくれてるの! もう背中や腕が痛いなんて言ってる場合じゃない。こんなことされたら俺の理性が壊れそうなんだけど。

 辰川駅まで後7駅、堪えられるか。
 そして俺はコト姉の甘い誘惑に堪えながら、何とか辰川駅まで到着することができた。しかしまだデート前にも限らず、俺の精神は既に息絶え絶えになってしまうのだった。

 辰川市⋯⋯都心へのアクセスをしやすいということで近年栄えてきた都市。商業施設も充実しており、モノレールが通っている半面、緑豊な所も残っていることから、住みやすい地域とされ人気がある。

 俺達は電車を降りて改札口を出るが、俺は先程のコト姉の誘惑攻撃に疲労困憊だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~

いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。 橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。 互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。 そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。 手段を問わず彼を幸せにすること。 その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく! 選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない! 真のハーレムストーリー開幕! この作品はカクヨム等でも公開しております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

悩んでいる娘を励ましたら、チアリーダーたちに愛されはじめた

上谷レイジ
恋愛
「他人は他人、自分は自分」を信条として生きている清水優汰は、幼なじみに振り回される日々を過ごしていた。 そんな時、クラスメートの頼みでチアリーディング部の高橋奈津美を励ましたことがきっかけとなり、優汰の毎日は今まで縁がなかったチアリーダーたちに愛される日々へと変わっていく。 ※執筆協力、独自設定考案など:九戸政景様  高橋奈津美のキャラクターデザイン原案:アカツキ様(twitterID:aktk511) ※小説家になろう、ノベルアップ+、ハーメルン、カクヨムでも公開しています。

陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。

電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。 ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。 しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。 薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。 やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。

高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう

電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。 そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。 しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。 「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」 そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。 彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...