上 下
65 / 123

尾行再び

しおりを挟む
 ミリアside

 ユクトが理事長室でルノリアと話していた頃

 魔法養成学校の授業が終わった後、ボクは鬼ことリリー姉にしごかれて校庭を走っていた。

「ほらミリアちゃん歩いてないで走りなさい!」

 クラス対抗戦でFクラスに負けた翌日からリリー姉は特別メニューを作成し、ボクの体力強化のために付き合ってくれているけど⋯⋯内容がハード過ぎて3日に2日は引きこもっていたボクにはついていけない。

「ひぃ⋯⋯はあ⋯⋯ふう⋯⋯」
「息が乱れてる! もっとリズミカルに呼吸して!」
「ひぃ⋯⋯ひぃ⋯⋯ふう⋯⋯」
「妊婦か!」

 ボクはリリー姉のツッコミを聞いて力が抜けその場に座り込んでしまう。もうダメ⋯⋯足が筋肉痛で痛い。

「ミリアさん立つのよ! 努力すればあの夕陽の向こうにきっと明るい未來が待っているから!」
「はあ⋯⋯はあ⋯⋯リリー姉キャラ違くない?」

 この理事長は何でこんなにやる気になっているの? 何かよろしくない本でもみたんじゃ⋯⋯。

「立って! 立ち上がって昨日の自分を越えるのよ!」
「ダメだこれ⋯⋯」

 どうやら今のリリー姉には熱血の神が憑依しているらしい。
 結局ボクは休憩を諦めて立ち上がり、その後校庭を二週した所で今日の特訓は終了となった。

「はあ⋯⋯はあ⋯⋯これって毎日続くのかな⋯⋯」

「ミリアさんお疲れ様⋯⋯もちろん明日もやる予定だから覚悟してね」

 まだ数日だけどボクはもうギブアップしたくなった。だけど次のパパの授業で「ミリア頑張ったな」って褒めてもらいたいから投げ出すことはしない。

「リリー姉ボク疲れたから帰りにミックスジュース飲みたい~」
「そうね⋯⋯私も声を出してのどが渇いたから一緒に行きましょ」
「やったあ~リリー姉の奢りだあ」
「奢らないわよ! 教師が生徒に奢ったりすると悪い噂が立つから⋯⋯ていうかお金ならミリアさんの方が持っているでしょ? 魔道具を作って売ってるじゃない」
「悲しいことにボクの財布はセレナ姉が握ってるから好きに使えなくて⋯⋯リリー姉はSランク冒険者で魔法養成学校の理事長だからいっぱいお金あるでしょ?」
「まあそれなりに持っているわよ⋯⋯けど忙しくお金を使う暇ないけど⋯⋯」

 やっぱり理事長職は忙しいんだ⋯⋯学校にいないことも多いしね。
 ん? それなら⋯⋯。

「リリー姉! ボク良いこと考えちゃった」
「えっ? 何が?」
「ボク達が手を結べば最強じゃない!」
「どういうこと? ちょっと意味がわからないけど」
「引きこもりで時間があるボクがリリー姉のお金を使えばいいんだよ⋯⋯これはWin-Winの関係だね」

 どやっ!

「わあ⋯⋯それって名案ね⋯⋯とでも言うと思った? それって私が一方的に搾取されるだけじゃない! 却下よ却下!」
「ちぇっ! 良い案だと思ったのに⋯⋯」
「あなたって子は⋯⋯常識を学ばさせるために学校に通わせたけどミリアさんだけもう1年延長した方が良さそうね」
「えぇぇぇッ! 今のは冗談だよ冗談⋯⋯リリー姉も冗談だよね?」

 ボクは学校を卒業したらパパと結婚して魔道具を作るんだ。その夢を邪魔される訳にはいかない。

「さあそれはどうかしら? これからのミリアさんの態度しだいです」
「わかった、わかったからぁぁ! ちゃんとするからぁぁぁ!」

 ボクはリリー姉に許しを乞うため夕陽が照らす校庭で泣き叫ぶのであった。

 そしてボクは制服に着替えてリリー姉と北区画にある果物のジュースが売っている露店へと向かう。

「そ、そういえば⋯⋯ミリアさんは卒業したら何かやりたいことでもあるの?」

 ボク達はセレナ姉やトアのことを話をしながら北区画へ向かっているとリリー姉が周囲をキョロキョロしながら突然ボクの進路のことを聞いてきた。
 何かリリー姉挙動不審なんですけど? ボクの進路ってそんなに聞きづらいことかなあ。

「ボクは魔道具を作りたいなあ」
「そうね⋯⋯帝都で魔道具の需要は大きいから良いと思うわ」
「う~ん⋯⋯帝都に残るかはわからないよ。パパがブルク村に帰るならボクも着いていくし」
「そう。ユクトは⋯⋯ってユクトがいる」

 ボクはリリー姉の声に従い、前方に視線を向けると確かにパパの姿があった。
 パパは今日神聖教会養成学校に行くと言ってた。もうその用事を終わったのかな? 

「どこにいくつもりなのかしら?」
「ボク達と同じフルーツジュースが売ってる露店だったりして」

 けどパパが1人でジュースを買いに行っている姿なんて想像出来ない。
 それにパパが進んでいる方向は⋯⋯スラム街だ。まさかまた前に住んでいたコトさんの家に? でもまたどうして⋯⋯。

「せっかくだからユクトも誘いましょうか」
「リリー姉ちょっと待って! パパがどこに行くか気になるから尾行しよ」

 前は自宅からついていっている所を見られて結局最後にはバレちゃったけど今回は大丈夫⋯⋯だと思いたい。パパだって四六時中気を張っているとは思えないからね。

「尾行! そんなこと⋯⋯やりましょう」
「さっすがリリー姉! 話がわかる」

 パパのことでリリー姉はライバルだけどこういうノリが良いところは嫌いじゃない⋯⋯むしろ好意的に思ってる。

「バレたらバレたで謝ればいいし行くわよミリアさん」

 こうしてボクとリリー姉は露店に行くことを諦め、帝都の北区画を歩くパパを尾行することになった。

 ボクとリリー姉は建物や人に隠れながらパパを追跡する。
 周囲の人は混雑するほどではないけど多く、隠れて尾行するにはもってこいだ。それにこの辺りは区画整理がされていないため建物が乱立して立っていることもあり、ボク達の尾行のプラス要因になっている。

「ミリアさんなら大丈夫だと思うけど一応気をつけてね⋯⋯ここは治安が良くないから」
「もし変なことしてくるような人がいたらボクの魔法でやっつけちゃうよ」
「⋯⋯やりすぎないようにね」

 リリー姉はどこか諦めた表情でボクの方を見てきた。そんな顔しなくても大丈夫だよ⋯⋯ちゃんと手加減するから。
 けどもし誰かに何かされたらそこでパパの尾行が終わってしまう。悪漢なんて怖くないけど今だけはボク達をそっとしていてほしい。
 そして隠れながら5分ほどパパを追跡していると⋯⋯。

「あっ! ユクトがお店の前で誰かと話しているわ」

 ボクとリリー姉はパパが止まったの見て後退り、衣服のお店の陰に隠れる。

「何を話しているのかしら⋯⋯」
「ここからじゃ聞こえないね」

 ボク達とパパまでの距離は20メートルほどあり、ここから先に隠れる所もないため近づくことができないため、ボクとリリー姉は店の物陰から顔を出し、パパの様子を伺う。

「パパ⋯⋯楽しそうに話してるね」
「ええ⋯⋯けど見た目がちょっと怖いわ」

 リリー姉が言っていることにボクは激しく同意する。なぜならパパと話している人はモヒカンで筋肉がムキムキだから⋯⋯もし奴隷商人関係の人と言われても納得すると思う。

「このお店に用事があるのかな? お店の名前は⋯⋯ラファル?」
「ここは酒場ね。ユクトは飲みに来たのかしら?」
「でも飲みに来たならなんでここに⋯⋯酒場なんて家から近い所にもあるよ? はっ! まさか逢い引き!」
「あ、逢い引きですって!」
「そう⋯⋯パパには忘れられない女がいて⋯⋯久しぶりに会い失ったはずの愛の炎が盛り上がり⋯⋯」
「う、嘘よ! パーティーを組んでいた時ユクトに女性の陰はなかったわ」
「という冗談は置いといて⋯⋯パパがお店に入っていったよ」
「えっ? 冗談なの?」

 ノリの良いリリー姉はさておきパパはラファルに入っていったようだ。

「リリー姉⋯⋯ボク達も行くよ」
「わ、わかったわ」

 ボク達はパパを追跡するため、酒場ラファルの前に移動する。
 ボク酒場なんて来たことないよ⋯⋯未成年だから止められちゃうかな? けどリリー姉が一緒なら大丈夫だよね。
 しかしボクの甘い考えはすぐに打ち砕かれることになる。

「おい、嬢ちゃん達、ここは一見さんはお断りだ」

 パパが話していたモヒカンの人が酒場に入ろうとしたボク達を静止してくる。

 ひぃ! やっぱり近くで見るとちょっと⋯⋯いや、かなり怖いかも。
 しかもこの人さっきからボク達の身体をじろじろと見てきて視線が気持ち悪い。

「え~と⋯⋯私達ここに知り合いがいて⋯⋯それでも入ったらダメですか?」
「ダメだ。この店に入れる客は全て俺が判断する。嬢ちゃん達が来る場所じゃねえ」
「そんなあ⋯⋯」

 まさか酒場に入ることができないなんて⋯⋯これじゃあパパを尾行することができない⋯⋯。もう今日は帰るしかないの? ボクは酒場に入ることを諦めかけたその時。

「こんばんは~」

 派手やかでセクシーな衣装を着た人達が挨拶だけして酒場へと素通りで入っていく。

「おう! 今日も情熱的なダンスを頼むぜ」

 モヒカン女性達に挨拶をする。この時のモヒカンの顔と言ったら⋯⋯鼻の下を伸ばしてだらしなくて生理的に受け付けられない表情をしていた。
 けど今のやり取り⋯⋯酒場に入る攻略の鍵になるんじゃ⋯⋯。
 これはボクじゃ成功しない⋯⋯頼りになるのは⋯⋯。

「リリー姉帰ろ」
「えっ? ちょっと?」

 ボクは驚くリリー姉の手を取り、すぐ近くにあった衣装のお店へと向かうのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...