上 下
54 / 123

予期せぬ再会

しおりを挟む
 まさか神聖教会養成学校でコトに再会するとは。もしコトの所在がわかっても会うつもりはなかったので俺は突然の出来事に驚きを隠せない。

「コト⋯⋯久しぶりだな。その⋯⋯あの時は⋯⋯」

 俺はどうしても15年前にあったことを思い出してしまう。

「ええ⋯⋯あなたのせいでパパは⋯⋯パパは⋯⋯」

 この帝都でコトの父親であるおやっさんが俺を施設から拾ってくれた。そして俺はおやっさんから生きるためのあらゆる手段を教わり、これから3人でいつまでも幸せに暮らしていくことを疑わなかった。
 しかし暗闇の中冷たい風が吹き雪が舞っていたあの日⋯⋯おやっさんは他国の密偵容疑で城に連れてかれ二度と家に帰って来なかった。
 兵士に連行されるおやっさんを見て泣き叫ぶコトの姿を今も俺は鮮明に覚えている。そしてその後俺に向けてきた憎しみを宿した目は今のコトにそっくりだった。

 なぜならあの時おやっさんが他国の密偵だと兵士に通報したのは⋯⋯俺だからだ。

「私はこの15年間あなたのことを考えなかった日はなかった! パパに引き取ってもらったくせに恩を仇で返すようなことを⋯⋯⋯⋯」

 コトの叫ぶような声が辺りに響き渡る⋯⋯このままだと周囲にいる生徒達から注目を浴びてしまう。
 今日はトアの学校での様子を聞きに来ただけだからなるべく騒ぎになるようなことをしたくないんだが今のコトは俺が何を言っても聞いてくれなそうだ。

「何? 何の騒ぎ?」
「痴情のもつれ?」
「いや、あの理事長のコネで入った講師が何か騒いでるんだ」

 まずい⋯⋯騒ぎを聞きつけてか生徒が集まり始めている。
 それにしてもコネ講師とはコトのことを言っているのか? 
 だが今はそんなことを考える暇はない。とりあえずコトを落ち着かせないと⋯⋯。

「いい? もう二度と私の前に現れないで!」

 コトもこの状況を好ましく思っていなかったのか急ぎ足で校舎の中へと入っていく。そして入れ替わりでトアが戻ってきた。

「あれ? パパ何かあったの?」

 周りにいる学生達がヒソヒソと話している様子を見てかトアが首を傾げ問いかけてくる。

「コトがいた⋯⋯どうやら神聖教会養成学校の講師をしているみたいだ」
「えっ? コトさんってパパと一緒に暮らしていた?」
「ああ」

 まさかコトがこんな所にいたとは⋯⋯確かに神聖魔法を使うことが出来たしここにいてもおかしくはないが。
 俺は突然の再会に動揺したが、どんな形であれコトが無事に過ごしていたことに安堵する。

「コトさんってもしかして2年生の先生かな?」
「知ってるのか?」
「ううん⋯⋯私は直接教わったことがないけど⋯⋯」

 どうやらトアはコトのことをあまり詳しくは知らないらしい。

「とりあえず今日は理事長先生に会いに来たんだ⋯⋯トア行こうか」
「う、うん⋯⋯でもパパいいの? パパにとって妹みたいな存在だったって⋯⋯積もる話もあるんじゃ⋯⋯」

 元々コトの居場所を知ることが目的だったんだ⋯⋯元気にしてることが分かればそれでいい。コトだって家族を裏切った俺には会いたくないだろう。

「大丈夫だ。居場所がわかったからこれからはいつでも会うことが出来るだろ?」

 トアに本当のことを知られたくない俺は本心とは違う言葉を口にするのであった。


 コトと別れた後俺はトアの案内で理事長室の前にいる。

「トアは教室に行くね」
「がんばれよ」

 そしてトアは授業があるため自分の教室へと戻っていった。
 正直な話コトとの再会には驚いたが今日は娘の父親として魔法養成学校に来たんだ。
 俺は目を閉じ深呼吸をして心を落ち着かせてから理事長室のドアをノックする。

「失礼します。本日お約束させて頂いたトアの父親ですが⋯⋯」
「どうぞ中へ入って下さい」

 俺は女性らしき声が聞こえてきたのでドアを開け理事長室へと入ると部屋の奥にある黒塗りの重厚な机の前に30代前半くらいの綺麗な女性が立っていた。
 この方が神聖教会養成学校の理事長か⋯⋯騎士養成学校や魔法養成学校の時も感じたが理事長職は若い人ばかりだな。リリーやゴードンは20代⋯⋯普通こういう役職はある程度経験を積んだ人間が行うものだと思っていた。

「私はルノリアと申します。あなたがユクトさんね⋯⋯会いたかったわ」

 理事長と思わしき人がニコッと優しい笑顔で俺を迎えてくれる。会いたかったというのは聖女の称号を持つトアの父親がどんな人物か気になっているという所か。

「初めましてトアの父親のユクトです。いつも娘がお世話になっております」
「そんなにかしこまらなくてもいいですよ。トアさんは成績優秀ですしクラスメートとも仲良くしてますから⋯⋯聖女という称号は持つべき者が持ったと私は考えています」
「そう言って頂けると父親としても嬉しいです」
「これもユクトさんのおかげね」
「いえ⋯⋯私はそんな⋯⋯」
「私の滅多に人を褒めない古い知人もそう言っていたわ」

 コトのことだろうか。それとも別の⋯⋯俺は誰なのか気になったのでルノリア理事長に聞いてみる。

「それはどなたでしょうか?」

 俺の友人など数えるほどしかいない。そしてトアと俺が娘だと知る人物となると――。

「それは⋯⋯秘密よ。女はミステリアスの方が美しくなれると言うからね」

 ルノリアさんは左手の人差し指を口に持ってきて右目をウインクをしながら茶目っ気に言ってきた。

「そう言われてしまうと追及できませんね」
「そうしてくれると助かるわ」

 う~ん⋯⋯ルノリアさんの容姿は俺と同じくらいの年齢に見えるが何か濃密な人生経験を送っているような気がする。これは下手に詮索をすると手痛いしっぺ返しを受けるかもしれないから何も言わない方がいいな。

「他に何か聞きたいことはありますか?」

 トアの学校生活は問題ないみたいだし他には⋯⋯1つだけあるな。

「コト⋯⋯講師をしているコトさんは理事長のお知り合いでしょうか?」

 先程学生がコトのことを理事長のコネでと話していたので俺は気になって聞いてみる。

「ええ⋯⋯彼女のお父さんとは友人で事情があって昨年から預かっているのよ。今は2年生のSクラスを担当してもらっているわ」

 えっ? ルノリアさんがおやっさんの友人? もしかしたらルノリアさんって30代に見えて実はおやっさんと同じくらいの年齢なのか? いや年が離れた友人という可能性もあるよな。気になるが女性に年齢を聞くのはちょっとな。

「ふふ⋯⋯ユクトさんは聡明な人ね」

 そう言って先程まで優しい雰囲気を醸し出していたルノリアさんの目が怪しく光る。
 これは知らぬが花というやつか。

「そうそう⋯⋯そんな話よりこれからトアさんの授業を見学しますか?」

 俺としてはルノリアさんとおやっさんのことも気になるけどこれ以上詮索すると自分の身を滅ぼしそうなのでこの提案に頷くことにするのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~

平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。 しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。 パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

処理中です...