上 下
122 / 127

疲れたなんて言えない

しおりを挟む
「ここがエルフの里よ」

 俺達はフィーナの案内の元、里に張ってある結界を通る。
 するとムーンガーデン王国の人達は驚きの声を上げた。

「先程まで何もなかったはず!」
「突然大きな木が現れてびっくりしたわ」

 俺が初めてエルフの里に来た時は夜だったため、神樹の存在に気づかなかった。まあいきなり大きな木が現れれば誰だって驚くよな。

「あの木は神樹と言って、エルフが最も大切にしているものよ。そして神樹から生まれたと言われる剣が、ユートの持っている神剣、ディバインブレードなの! 五千年もの間、誰も抜けなかったんだから」

 フィーナが胸を張り、上機嫌で話す。

「ですから何故フィーナ様が得意気に語るのですか?」
「いちいちうるさいわね。別にいいでしょ!」

 そして何故かヨーゼフさんが事実を指摘したら怒られていた。り、理不尽だ。

「それより神樹の向こう側にある城まで行きますが、疲れていませんか?」
「私は大丈夫だ」
「私も大丈夫よ」

 国王陛下も王妃様もエルフの里に来るまでそこそこ歩いているのに、疲れた様子を見せない。 
 二人とも日頃から鍛練でもしていたのかな? 

「それではこのまま進みますね。早ければ夕方前には城に着くと思うわ」

 再び俺達フィーナを先頭に歩き出す。だけどここまでの旅で、一人気になる子がいたので話しかけた。

「ルルは大丈夫か?」
「だ、大丈夫です⋯⋯このくらい何ともないですよ。今の私ならあの神樹にだって⋯⋯よ、余裕で昇れます」

 軽口をたたいているが額には大量の汗をかいているし、今日のルルは口数が少なかった。
 今気づいたが、たぶん疲労が溜まっているんだ。
 やれやれ。やせ我慢をするなんてルルらしくないな。
 おそらく国王陛下と王妃様が大丈夫と言った手前、疲れたなんて言えないのだろう。

 俺はルルの前でしゃがむ。

「ほら、疲れているんだろ?」
「ユートさん⋯⋯」
「俺の背中で良ければ乗ってくれ」

 俺はまだまだ疲れてはいない。ルルの一人くらい背中に乗せるのは簡単だ。こうすればルルも休めるし、歩みを止めることもない。

「ま、まさかユートさん⋯⋯おんぶをして私のお尻を堪能するつもりですか!」

 俺は善意で行動したつもりだったが、まさかのルルの言葉に驚いてしまう。

「人聞きの悪いことを言うな! 嫌なら別に俺はいいんだぞ」
「嘘です嘘ですごめんなさい。疲れたからユートさんの背中に乗りたいです」
「最初から素直にそう言えばいいんだ。ほら」

 俺は再度背中に乗るように促す。
 しかしルルはもじもじしていて、背中に乗る気配がない。

「どうした?」
「あの⋯⋯私、汗をいっぱいかいているから⋯⋯」

 なるほど。確かに女の子としては、汗をかいたまま男の背中に乗るのは抵抗があるという訳か。ルルも可愛らしいところがあるじゃないか。

「俺もけっこう汗をかいててさ。むしろ俺の汗が嫌ならやめておくか?」
「いえ、せっかくユートさんが申し出てくれたから、今回はおぶらせてあげます」
「何で上から目線なんだ?」
「だってこんな美少女をおんぶするなんて、一生に一度あるかどうか」
「はいはい。そうですね」
「汗フェチのユートさんに背負わせてあげるのだから、感謝して下さい」

 なんだかんだ文句を言いながら、ルルは俺の背中に乗ったので立ち上がる。
  うっ! 俺は気づいてしまった。
 ルルに指摘されたので、お尻は絶対に触れないように持ち上げたが、お尻よりもっと凶悪な物に俺は気づいてしまった。
 せ、背中に柔らかいものが⋯⋯
 わ、忘れていた。ルルには大きな胸があることを。

「どうしました? ユートさん顔が赤いですけど」
「べ、別になんでもない。それよりちょっとくっつき過ぎじゃないか? ほら、さっきも言ったように汗をかいているから、もう少し離れてくれた方が⋯⋯」

 首に手を回し、明らかに密着させているよな。
 俺が理性を保つためにも、離れてほしい。  

「バランスを崩して落ちたら嫌なので、このままでいます」

 こ、こいつは⋯⋯絶対に胸が背中に当たっていることに気づいているし、そのことで俺が恥ずかしがっているのもわかっているな。
 こうなったら背中から降ろしてやろうか。そんな考えが頭に過ったが、俺達の横にいたメイドさんの言葉で考え直した。

「あら? ルル様、顔がすごく赤いですよ。ユート様に背負ってもらって照れちゃいましたか?」
「そそそ、そんなことないですよ! これは夕陽のせいです!」

 夕陽って⋯⋯今はまだ昼間ですけど。
 どうやら恥ずかしいのは俺だけじゃないようだ。そう考えるとルルの弄り攻撃も微笑ましく思えて来た。

「あっ! ユートさん。何を笑っているんですか!」
「いや、別に」
「その俺はわかっている的な顔がなんか嫌です」
「ほら、歩くからしっかり捕まってろよ」
「ちょっと聞いてますか」

 背中でルルが何やら喚いているけど、俺は無視して進むのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その無能、実は世界最強の魔法使い 〜無能と蔑まれ、貴族家から追い出されたが、ギフト《転生者》が覚醒して前世の能力が蘇った〜

蒼乃白兎
ファンタジー
15歳になると、人々は女神様からギフトを授かる。  しかし、アルマはギフトを何も授かることは出来ず、実家の伯爵家から無能と蔑まれ、追い出されてしまう。  だが実はアルマはギフトを授からなかった訳では無かった。  アルマは既にギフト《転生者》を所持していたのだ──。  実家から追い出された直後にギフト《転生者》が発動し、アルマは前世の能力を取り戻す。  その能力はあまりにも大きく、アルマは一瞬にして世界最強の魔法使いになってしまった。  なにせアルマはギフト《転生者》の能力を最大限に発揮するために、一度目の人生を全て魔法の探究に捧げていたのだから。  無能と蔑まれた男の大逆転が今、始まる。  アルマは前世で極めた魔法を利用し、実家を超える大貴族へと成り上がっていくのだった。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...