上 下
19 / 127

クーデターの首謀者

しおりを挟む
「びっくりしてしまいました」
「そうだね。オゼアさんも人が悪い」

 わざわざ別れ際に言わなくてもいいじゃないか。
 明らかに俺達を驚かせるタイミングを計っていたな。

「でも協力してくれる人がいるのは嬉しいね」
「そうですね。私達は国を維持することが出来ませんでした。見限ってもおかしくありません。果たして今のムーンガーデン王国で私に協力して下さる方がどれくらいいるか⋯⋯」

 余程の強い力がなければ、リズは王女に返り咲くことは出来ないだろう。
 そういえば他国はクーデターに関してどう対処するんだ? 内政干渉になるから手を出さないのか、これを機に攻め込むのか、それとも既に新しい国王が他国と対話を始めているのか?
 そういえば肝心なことを聞き忘れていたな。

「クーデターの首謀者は誰なんだ? それなりの地位がある奴だと思うけど」

 そのあたりにいる一般人が起こせるものじゃない。少なくとも法律を無視して武力で国を取った奴だ。まともな人物ではないだろう。

「それは⋯⋯お父様の弟であるリスティヒ公爵です」
「弟?」

 なるほど。これなら他国は干渉してこない可能性が高い。兄弟ならクーデターと言うより、お家騒動として見られているかもしれないな。

「お父様とリスティヒ公爵はいつも国の政策でぶつかっていました。リスティヒ公爵の口癖は、自国の民を生かさず殺さず、民は国に奉仕すべきだと。国民を優先するお父様とは相容れない方でした」

 だから国を手に入れるためにクーデターを起こしたという訳か。もし今聞いた思想をそのまま実行しているなら、ムーンガーデン王国は相当ヤバいことになってるんじゃないか?
 リズが国民を第一に心配する気持ちが理解できるな。

「ともかく今は考えても仕方ない。ムーンガーデン王国へ急いで向かおう」
「はい」

 こうして俺達はラインベリーから馬車に乗せてもらい、東にあるムーンガーデン王国へと向かった。
 そして夕方になり国境付近にある街であるサルトリアに到着し、今は宿屋の一室にいる。
 本当はリズと別の部屋にするため、二部屋借りようと思っていた。しかし本人から同じ部屋で大丈夫と言われたので、一部屋しか借りていない。まあマシロとノアもいるから問題ないだろう。

「今日中に街に到着して良かったです。硬い寝床は勘弁して欲しいですからね」
「私は野宿というのを一度して見たかったです」

 王女様として過ごしたリズは、野外で寝るなど無縁の人生だったのだろう。
 どうやらリズは、初めての体験を恐れるのではなく、楽しむタイプかもしれない。

「野宿をしても良いことなんて一つもないですよ」
「満点のお星さまの中で寝ることが出来るなんて、素敵じゃないですか」

 確かに俺もこの世界の夜空には感動した。地球では見ることが出来ない、まさにリズが言う満点の星空が拡がっていたからだ。

「虫は出るし夜は寒い日だってありますよ」
「虫はよくわかりませんが、寒い日はほら⋯⋯こうすればいいじゃないですか」

 リズはマシロとノアを抱き上げる。
 なるほど。確かに寒い日に二人を抱きしめれば温かそうだ。
 しかし抱きしめられた二人は、とても迷惑そうにしている。

「暑苦しいです! やめてください!」
「く、苦しいです⋯⋯息が⋯⋯」

 リズは二人が嫌がっているのを見て解放する。その顔はとてもしょんぼりしていた。

「うぅ⋯⋯ユート様。私⋯⋯二人に嫌われているみたいです」
「そんなことないと思うけど」

 俺は二人に視線を向けると、ノアが慌てて弁明し始める。

「僕はリズさんのこと好きですよ」
「本当ですか?」

 泣いたカラスがもう笑ったではないが、リズは嬉しそうに笑顔を浮かべる。そして自分のことをどう思っているのか知りたいのか、チラチラとマシロにも視線を向けていた。

「わ、私も別に嫌っている訳じゃないですよ」
「そうなの? それなら私のこと好きってことですか? 私も二人が大好きです!」

 再びリズが二人を抱きしめる。だが嬉しさも相まってか力強く、二人はさっきより苦しそうだ。

「リ、リズさん息が⋯⋯」
「やっぱり嫌いです! 離れなさい!」
「そんな心にもないこと言わないで下さい。もっと仲良くなるためにお風呂も一緒に入りますか?」
「入りません! 一人で入って下さい!」
「残念です⋯⋯」

 リズは残念そうな表情をして風呂場へと向かった。
 リズが王女様ということもあり、今回は室内にお風呂がついているちょっと金額が高めの部屋を選んだのだ。
 まあ猫は水に濡れるのが嫌いだから仕方ないよな。
 俺もリズが風呂から出たら入ろうかな。
 そして俺は旅で疲れた身体を休めるために、ベッドに横になる。
 すると突然先程リズが入っていった風呂場のドアが開いた。

「ユート様、これはどのようにしてお湯を出すのでしょうか? お恥ずかしいのですが、今までは侍女がやってくれたので勝手がわからなくて⋯⋯」

 俺は反射的に声がする方に目を向けると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

処理中です...