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19話 転落の開始 その4

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 今世紀最大級の驚愕の表情を見せてくれたルデルテ公爵は、完全に沈黙していた。まさか、自分の配下であるマルクスが裏切るとは考えていなかったって感じね。そうこうしている間に、サウス王子殿下の元に部下の人が現れた。


 どうやら、研究部門、調合部門の部屋から何かが出てきたようね……。


「サウス王子殿!」

「どうした、何か見つかったか?」

「はい、これを発見いたしました!」


 まず、部下が渡したのは紫色のポーション数点。それから、調合部門で働いていた人が書いていたと思われる日誌だった。


「よし、ご苦労だった。引き続き、証拠になる物を探してくれ」

「畏まりました!」


 部下の人はサウス王子殿下や護衛、私に礼をすると、そのまま勢いよく走って行った。


「それって……なんでしょうか?」

「どうやら、調合部門で働いていた者の手記のようだ。少し見ただけだが……はは、これは面白いな」


 そう言いながら、サウス王子殿下は私にも日誌を見せてくれる。内容は、簡単に言うと愚痴や不満の連続、といったところだった。いかに労働環境が悪かったかを物語っているわね。


 ルデルテ公爵たちに見つかったら大変な問題だったはずなのに……それでも我慢できずに書いたとなれば、それは相当なことなのかもしれないわ。


「レミュラ、君はこのポーションの鑑定に当たってくれないか?」

「はい、わかりました」


 サウス王子殿下はそう言うと、今度は差し押さえた紫色のポーションを渡してくれた。鑑定っていう言葉は少し照れてしまうわね……確かに間違ってはいないんっだけど。早速、効果などのチェックに入った。ルデルテ公爵は今まで固まっていたけれど、私がポーション鑑定に入った途端、我に返ったみたい。


 でも、これといって抵抗の意志を見せることはなかったけれど。




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 私の鑑定を数点のポーション全てで実行し、その効果はどの程度なのかを見てみた。同じ紫色のポーションでも効果・効力には差があるわね……。私が精製するポーションは基本的に効果に差はなく、回復から状態異常、病気の治療も可能にしている。

 切り傷の場合、なぜか切られた服まで元に戻ったっていう噂もあるようだけど、そのあたりは深く考えないようにしよう。私のポーションの価格は1000ゴールド……他の薬屋さんへの配慮もあったんだけど、やっぱり経営的にはニャンコクラブがダントツになりかけているみたい……。


 で、この紫色のポーションなんだけど……なにこれ? これらは効果・効力が半分どころか2割以下ってところかしら? 下手をすれば、傷薬や回復薬よりも効果が低いかもしれない。50ゴールドくらいで買える商品より効果が低い物が、仕入れ値で3000ゴールドもするなんて……なにかがおかしい。


「どうだ、レミュラ?」

「はい……これらのポーションの効果はさらに低いです。状態回復効果もなければ、風邪などに対しての効果も薄い。下手をすると、飲んで毒状態になるなんて可能性もあるかもしれません」

「そこまで劣悪なポーションなのかこれは……。しかし……君の鑑定能力の高さは本当にすごいな。なにより速度が」

「い、いえ、そんな……ありがとうございます」


 サウス王子殿下に褒められると、なんだか顔が赤くなってくる……今の状況では不謹慎かもしれないけれど。でも、確かに鑑定能力は高いような気がする。証明自体は機械に通さないと無理だけど、たぶん全部当たっているだろうし。

 今までは通常の回復薬などの鑑定は行ったことがなかったけれど、もしかしたら応用が可能かもしれないわ。これって、ポーションメーカー以外の仕事で専門職の幅が広がることに繋がるかも。


「と、いうことだルデルテ公爵……このような劣悪品を強制的に仕入れさせ、国民に売っていた……。これがどういう罪に該当するかは、聡明な公爵殿であれば嫌でも分かるな?」


 断罪の時かしら? 従業員の日誌だって参考になるし、何よりもこの紫色のポーションが決め手だし。ルデルテ公爵も観念するはず。なんて私も思っていたんだけど……。


「この責任は私ではない。そもそもの問題として、マルクス管理の元で行われていたのだ。私は知らなかった!」

「な、なんと……! ルデルテ公爵? どういうことですか……! あなた様は……最初から私を切り捨てるおつもりで……?」


 なんだか、とんでもないことを言いだしているような。マルクスも驚いているし……。


「安心しろ、マルクス。別にお前だけの責任ではないさ。他の部門を任せていたチームリーダーも全て同じ罪だ! ああ、あと……このような調合技術を生み出させた元凶のレミュラにも責任を取ってもらおうか」

「な、なんですって……!?」

「ルデルテ公爵……」


 ルデルテ公爵の最終抵抗というやつかしら? なりふり構っている状況じゃない……だから、自分以外の配下の管理者に全ての責任を負わせ、自分は逃げ切る腹積もりね。そして、なぜか私にも責任問題が飛び火しているし……。
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