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42話
しおりを挟む「サッシャ」
名前を呼ばれてびくりと反応する。僕はそろそろと振り返りその相手がルーファスだったことに安堵する。
「ルーファス……じゃなかった、キンケイド侯爵令息様」
その名で呼べばルーファスがほんの少しだけ嫌そうな顔をするのも見慣れた。でもここはまだ学園内だし、誰が見ているかわからないから仕方ない。寮の部屋の中だけは自由に話すことが出来た。
「どうかしたのか?」
「何がでしょうか?」
ルーファスは本当に鋭い。その青い空色の瞳は何も見逃さない。けれど僕はなんのこと? というように、首を傾げる。
「顔色か悪い。やはり無理して登校したのが良くなかったかもしれないな」
頬に手を伸ばしたルーファスはそう言って、また眉間に皺を寄せる。美貌には大した影響はないけれど、それでもルーファスにそんな顔をさせたくない。
「ルーファスこそ、眉間に皺が出来てるよ」
背の高いルーファスの顔に届くように背伸びすれば、体を曲げて顔を近づけてくれた。
行動がイケメン過ぎる! 僕は内心嬉しいやらムッとするやら忙しかった。だってこの行動は僕じゃなくても誰にでもしてあげることだ。ルーファスはとても優しいから。
「あのさ、ルーファス」
「ん?」
「いつもこんな行動してたら、絶対誤解されるからね! 僕は大丈夫だけど、他の人にしたら一発で相手はルーファスに恋するから気をつけた方が良いよ!」
僕は親切にもアドバイスしてあげた。だってこんな風に優しさを安売りしてたら、あっという間にルーファスの周りは恋する乙女だらけだ。ルーファスが浮気をしたり二股をかけたりするような人間じゃないとわかっているけれど、人の心は縛れない。よくよく言い聞かせておけば、そんな不幸な出来事が未然に防ぐことが出来るかもしれない。
「サッシャ、心配は無用だ」
「そおー?」
「誤解するような相手はいないし、誤解して欲しい相手は誤解してくれない」
「はー? なにそれ」
誤解して欲しい相手と、ルーファスは言った。ということは、ルーファスには恋する相手がいるということだ。もしかして、と希望が膨らんだが、それならルーファスが僕の悪役令息計画に乗るはずがない。
その好きな人の為にルーファスは僕の悪役令息計画に協力してくれたのだ。穏便に婚約者を降りることができれば、その人の手を取れるから。その事実に僕は自分でも驚くほど落ち込んでしまう。
「ルーファス、もう悪役令息なんてやらなくて良いよ!」
「え?」
「僕、恋なんてしたくなくなった! だからもう必要ない!」
「だが、サッシャ……」
「いらないったら、いらないの!」
ルーファスが好きな人と並んで歩いている姿なんて見たくない。王子との婚約が解消されない限りルーファスの恋は進まないだろう。
自分の都合でルーファスを振り回すことに吐き気がする。
「本当にいらないから!」
僕は逃げるようにルーファスを置いてそこから走り出す。
ルーファスが恋した相手とはいったい誰だろう。僕はルーファスみたいに喜んで協力なんて出来そうもない。あんなに僕を大切にしてくれたルーファスを、僕は裏切ってしまったような気持ちになる。
「僕は全然ヒロイン(♂)じゃないよ……」
ヒロイン(♂)とは天真爛漫できゃるるんで、優しくて人の為に、努力を惜しまない。そんなヒロイン(♂)なのに、全然違う。僕は自分のことばっかりだ。
落ち込んだ僕は、また食事を抜き、ルーファスに部屋まで夕食を持ってこられ、明日は休みだと脅されるのだった。
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