【完結】この悪役令息は、僕が育てました!

きたさわ暁

文字の大きさ
上 下
3 / 66

1話

しおりを挟む




 悪役令息とは、物語やゲームなどでヒーローやヒロインの恋のエッセンスとなるライバル的存在である。

 そのライバルが強力で、恋が前途多難であればある程、ヒーローとヒロインの恋やストーリーは盛り上がるものだ。

 僕の恋のライバル的存在、ルーファス・キンケイド侯爵令息は眉目秀麗、成績優秀、無口無表情であるが、下の者を闇雲に見下す事もなく、平等で公平な人間と評判だ。我が国では第三位以下の王子には後継者問題もあり、男の婚約者をつけるという伝統の為、第三王子の婚約者として、幼い頃からその地位についている。

 お約束のBLゲーム設定だ。

 王子の婚約者であり幼なじみでもあるルーファス・キンケイド侯爵令息の美しい黒髪は襟足が長く、ひとつに括っていて片側の肩から流している。切れ長の瞳は吸い込まれそうな空の青で、詩人がそれで歌を創ったという逸話まであった。

 手足が長く高身長であるが、ひょろりとした印象はなく、きっちり筋肉もついていて、剣技の授業では負け知らず。その為、肌は日焼けしているが美しさを損なうどころが美の底上げしている。

 その均整の取れた体の上についている顔は、神が采配したとしか思えないほど見目麗しく、幼い彼を見た著名な画家がキンケイド家の当主に土下座して肖像画を描かせて欲しいと懇願したという。
 初めて彼を見た時僕は「イケメン滅びろ」と呟いていた。

 ……はっきり言って、なんで僕のライバル的存在にこんなイケメンを配置したの! と神様に文句を言いたい。
 僕こと、サッシャ・ガードナーは平民だ。それも孤児。親の顔なんて知らない。産まれたばかりの頃、孤児院の前に捨てられ、身を証明するものなど何一つなかった紛うことなき孤児だ。

 まあ、それはいい。僕にはこんな生まれでものし上がることが出来るアドバンテージ、いわゆる優位性……前世の記憶を持っている。個人的な記憶もある程度はあるが、なにより覚えているのがゲームの内容だった。

 そう、この国は前世でやったBL恋愛ゲームの世界にそっくりだった。
 そして、僕はこのゲームの中でヒロイン(♂)である。ベビーピンクの髪は緩く巻いた猫っ毛で、毎朝必死に手ぐしで整えている。赤みの強い紫色の瞳を持ち、ぱっちりした二重の可愛い系の顔だ。誰もが振り向く極上の美少年というわけではないが、まあ、可愛いねという感じで可もなく不可もない。

 容姿は普通だし、孤児だし、努力はしてるけど、頭だってそんなに良くない。誰だって、ルーファスと比べたらどちらを選ぶかわかりきっていた。

(でも僕は、ヒロイン(♂)ポジなんだから!)

 十六歳から十八歳まで通うここで、楽しい学園生活を送り、恋をするのが僕の長年の夢だ。そして孤児である僕がこの学園に通えているのはひとえに自分の努力と、国の施策の賜物である。

 王立学園「ニーラサ」は学びたい者に広く門戸を広げている。様々な分野の学問を王国中どころか世界中から集めており、教師陣は優秀で、近隣諸国からの留学生も多い。

 この学園の入学試験に合格すれば、貴族はもとより平民、孤児と呼ばれる者まで平等に学ぶことが出来る場所だ。
 しかも特待生になれば成績上位の維持は必要だが、十六歳で入学し、十八歳で卒業するまでの学園生活に必要な費用は国が負担してくれる。

 その後、王城の文官を目指したり、国の研究機関に就職したりとさまざまな未来が開かれる。特権階級にいる貴族の子息令嬢はともかく、ここで学ぶ平民は、皆未来を見据えて勉学に励んでいた。

 僕もその一人だ。ここで成績優秀のまま卒業すれば、孤児の僕でも王城の文官になることだって夢じゃない。この国の中枢が平民にも門戸を開き、優秀な人材確保するのに、血筋は不要としたのは、三代前の王様でそれは今も続いている。

 生活様式は近代的とはまだ言えないが、その前衛的な考え方をゴリ押しして浸透させてくれたのはありがたかった。おかげで他国の追随を許さないほど、この国の教育機関は発展していっている。

 そうでなければ僕はここに通うことも出来なかっただろう。さすがに国の要職につく人物はまだ貴族が多いが、それでもかなりの平民が国の中枢で働いている。

(まあ、僕もそんな文官狙いだけど……)

 そんな平民がこの学園には沢山いて、切磋琢磨している。裕福な平民や貴族の子息もうかうかしていられないのか、真面目に取り組む者が多い。
 まあ、特権階級に胡座をかいて、成績優秀だが貧乏な平民を貶めようとする者もいる。そんな相手には近づかないのが良策だ。それに僕にはそんな事に巻き込まれている暇はない。

 幼い頃から学ぶ環境を整えられていた者と、必死にならなければ学ぶことすら出来なかった孤児の自分では土台が違う。

 気を抜けばすぐに成績を追い抜かれるので、日頃から予習復習は欠かせないし、わからないことは恥ずかしいなんて考えず、わかる人に理解出来るまで質問する。でも学園生活はそれだけではない。

 とある場所を目指して歩いていた僕は、目当ての人を見つけて、息を整え可愛く見えるように口を笑みの形にする。

「王子~~! 今日も会えて嬉し、げっ!」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑) 本編完結しました! 『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル 『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びに来る、舞踏会編はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 舞踏会編からお読みいただけるよう、本編のあらすじをご用意しました! おまけのお話の下、舞踏会編のうえに、登場人物一覧と一緒にあります。 ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載中です。もしよかったらどうぞです! 第12回BL大賞10位で奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。 心から、ありがとうございます!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

処理中です...