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第四章
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オーランはその後も高熱で苦しみ続けた。
こんな時、姫巫女の力があればオーランを助けてあげられるのにー。
(早くー模様が浮かび上がって)
イレーナはオーランのベッドの前で祈った。
オーランもイレーナが毒を飲まされて意識がない間、こんな風に辛い思いをしていたのだろうか。
オーランは時折、声を上げて苦しみ出してその度に不安になった。
顔に浮かぶ汗を拭っても、すぐに汗が噴き出る。
ただの高熱にしては苦しみ方が尋常じゃなかった。
今まで何回かこんな風に苦しむオーランを見たことがあるけれど、今までで一番辛そうで見ていられなくなる。
本当に助かるのだろうかと一抹の不安が頭を過るけれど、オーランの手をぎゅっと握って上げることしかできなかった。
「姫巫女。あなたも少し休まれた方がいい。食事もろくに取っていないと侍女が嘆いていたぞ」
「平気よ。これくらいー」
少しでもオーランのそばにいたい。
断固としてそこを動かないイレーナにユーグはため息を吐いた。
「姫巫女。話がある。陛下のことだ」
「話ー?」
ユーグの重苦しい顔つきにイレーナは不安になる。
オーランの寝室を後にして、誰もいない小さなサロンに案内される。
椅子に腰掛けてユーグは徐に話し始めた。
イレーナは机を挟んで向かい側の椅子に腰掛けて、ユーグの話に耳を傾ける。
「陛下は幼い頃に猛毒を飲まされた。その毒は死に至ることはないが時折症状が現れて、一度その症状が出ると耐え難い苦痛で心身ともにすり減る。解毒剤も色々と試したが、いまだにその治療法はない」
「ーそんな……」
思いも寄らない告白にイレーナは驚愕の色を見せる。
「陛下の中に毒があるということは、私と限られたものしか知らないことだ。皆を動揺させないようにと陛下の望みで伏せている」
自身が毒に苦しみその怖さを十二分に理解している。その脅威をまた国に持ち込ませないようにするため、懸命に努めていた。
「この国はかつてケーロビアに侵略された。毒という凶器を使いあっという間に兵や市民に広まり大勢の民が亡くなった。陛下はその時まだ子供だったが標的にされて毒を飲まされた」
オーランは物心ついた時から毒の耐性の訓練をしていて、なんとか一命をとりとめる。
「陛下は二度と同じ過ちは繰り返さないと亡くなった先代の陛下ーつまりお父様に誓った。そして色々と調べてあなたのことにたどり着いた」
姫巫女の存在に目を向けたのも、万が一また毒で市民が侵された場合治癒の力で治すことが出来ると踏んだため。
オーランは自分の体のことを思って誰とも親しくなろうとしなかった。
「今までにも友好関係のある国から王女を妃にしてほしいというー政略結婚の話は後を絶たずにあったが、陛下は自身の体のことを思って妃を娶らなかった。ずっと孤独に生きてきた」
そんなオーランが憐れで懸命に側で支えるとユーグはオーランに硬く誓った。オーランを救えるのは自分しかいないと思ったとユーグは切なげに吐露し、呆然としているイレーナにきつい口調でなげかける。
「私はあなたを妬んでいた。陛下はあなたと出会い確かにお変わりになられた。しかし、あなたの存在がさらに陛下を苦しめていることに憤りを感じた」
やり場のない気持ちにユーグは葛藤したという。
イレーナはなんと言っていいのか分からなかった。押しだまるイレーナにユーグはふっと笑う。
「ですが今、陛下があなたのことを本気だとおっしゃるのであれば、私は陛下の意思を尊重して受け入れます。その代わり陛下が毒で苦しんでいるときは必ず側で支えてやってください」
ユーグの切実な思いにイレーナは神妙に頷いた。
きっとまだオーランについて知らない過去がある。今まで見てきたのは皇帝陛下としてのオーランで、思いが通じ合ってからは少しずつ心をみせるようになってきたけれど、それはまだ表面の一部でしかないのかもしれない。
もっと、もっとオーランのことが知りたくなった。いいところも悪いところも全部知りたい。辛い時はずっと隣で支えていきたいという強い気持ちが心に表れる。
ふとイレーナは気にかかってユーグに聞いてみた。
「今は私の模様が消えてしまってるけれど、私の治癒の力でオーランの毒を治せないのかしら?」
またいつか模様が浮かび上がるかもしれないという望みは微かで期待はできないけれど、一縷の望みを賭けて聞くとユーグは肩を落とす。
「出来るならとっくに試していた。だが陛下は姫巫女の力は使わないと一貫していた。姫巫女を攫ったのは自分のためではなく国のためだとー」
姫巫女を連れ去ったことをオーランはひどく気にしていた。
国のためだから手段は選ばなかったが一人の女の人生を変えさせて、国を滅ぼした罪は重く受け止めていくと。
「本当は心優しい方なのです。姫巫女に辛い思いをさせないよう配慮をと命じたのも陛下でした」
イレーナは囚人にしては縛りがなく監視はついていたものの優雅に城で生活をしていた。最初こそオーランに手ひどく抱かれたけれど、それでも初めて外に出たイレーナに最大限の配慮をオーランはしてくれていたのだと知り、胸が熱くなる。
オーランの力になりたい。
もしまた模様が浮かび上がれば、オーランを治癒の力で楽にさせてあげたいと強く想った。
こんな時、姫巫女の力があればオーランを助けてあげられるのにー。
(早くー模様が浮かび上がって)
イレーナはオーランのベッドの前で祈った。
オーランもイレーナが毒を飲まされて意識がない間、こんな風に辛い思いをしていたのだろうか。
オーランは時折、声を上げて苦しみ出してその度に不安になった。
顔に浮かぶ汗を拭っても、すぐに汗が噴き出る。
ただの高熱にしては苦しみ方が尋常じゃなかった。
今まで何回かこんな風に苦しむオーランを見たことがあるけれど、今までで一番辛そうで見ていられなくなる。
本当に助かるのだろうかと一抹の不安が頭を過るけれど、オーランの手をぎゅっと握って上げることしかできなかった。
「姫巫女。あなたも少し休まれた方がいい。食事もろくに取っていないと侍女が嘆いていたぞ」
「平気よ。これくらいー」
少しでもオーランのそばにいたい。
断固としてそこを動かないイレーナにユーグはため息を吐いた。
「姫巫女。話がある。陛下のことだ」
「話ー?」
ユーグの重苦しい顔つきにイレーナは不安になる。
オーランの寝室を後にして、誰もいない小さなサロンに案内される。
椅子に腰掛けてユーグは徐に話し始めた。
イレーナは机を挟んで向かい側の椅子に腰掛けて、ユーグの話に耳を傾ける。
「陛下は幼い頃に猛毒を飲まされた。その毒は死に至ることはないが時折症状が現れて、一度その症状が出ると耐え難い苦痛で心身ともにすり減る。解毒剤も色々と試したが、いまだにその治療法はない」
「ーそんな……」
思いも寄らない告白にイレーナは驚愕の色を見せる。
「陛下の中に毒があるということは、私と限られたものしか知らないことだ。皆を動揺させないようにと陛下の望みで伏せている」
自身が毒に苦しみその怖さを十二分に理解している。その脅威をまた国に持ち込ませないようにするため、懸命に努めていた。
「この国はかつてケーロビアに侵略された。毒という凶器を使いあっという間に兵や市民に広まり大勢の民が亡くなった。陛下はその時まだ子供だったが標的にされて毒を飲まされた」
オーランは物心ついた時から毒の耐性の訓練をしていて、なんとか一命をとりとめる。
「陛下は二度と同じ過ちは繰り返さないと亡くなった先代の陛下ーつまりお父様に誓った。そして色々と調べてあなたのことにたどり着いた」
姫巫女の存在に目を向けたのも、万が一また毒で市民が侵された場合治癒の力で治すことが出来ると踏んだため。
オーランは自分の体のことを思って誰とも親しくなろうとしなかった。
「今までにも友好関係のある国から王女を妃にしてほしいというー政略結婚の話は後を絶たずにあったが、陛下は自身の体のことを思って妃を娶らなかった。ずっと孤独に生きてきた」
そんなオーランが憐れで懸命に側で支えるとユーグはオーランに硬く誓った。オーランを救えるのは自分しかいないと思ったとユーグは切なげに吐露し、呆然としているイレーナにきつい口調でなげかける。
「私はあなたを妬んでいた。陛下はあなたと出会い確かにお変わりになられた。しかし、あなたの存在がさらに陛下を苦しめていることに憤りを感じた」
やり場のない気持ちにユーグは葛藤したという。
イレーナはなんと言っていいのか分からなかった。押しだまるイレーナにユーグはふっと笑う。
「ですが今、陛下があなたのことを本気だとおっしゃるのであれば、私は陛下の意思を尊重して受け入れます。その代わり陛下が毒で苦しんでいるときは必ず側で支えてやってください」
ユーグの切実な思いにイレーナは神妙に頷いた。
きっとまだオーランについて知らない過去がある。今まで見てきたのは皇帝陛下としてのオーランで、思いが通じ合ってからは少しずつ心をみせるようになってきたけれど、それはまだ表面の一部でしかないのかもしれない。
もっと、もっとオーランのことが知りたくなった。いいところも悪いところも全部知りたい。辛い時はずっと隣で支えていきたいという強い気持ちが心に表れる。
ふとイレーナは気にかかってユーグに聞いてみた。
「今は私の模様が消えてしまってるけれど、私の治癒の力でオーランの毒を治せないのかしら?」
またいつか模様が浮かび上がるかもしれないという望みは微かで期待はできないけれど、一縷の望みを賭けて聞くとユーグは肩を落とす。
「出来るならとっくに試していた。だが陛下は姫巫女の力は使わないと一貫していた。姫巫女を攫ったのは自分のためではなく国のためだとー」
姫巫女を連れ去ったことをオーランはひどく気にしていた。
国のためだから手段は選ばなかったが一人の女の人生を変えさせて、国を滅ぼした罪は重く受け止めていくと。
「本当は心優しい方なのです。姫巫女に辛い思いをさせないよう配慮をと命じたのも陛下でした」
イレーナは囚人にしては縛りがなく監視はついていたものの優雅に城で生活をしていた。最初こそオーランに手ひどく抱かれたけれど、それでも初めて外に出たイレーナに最大限の配慮をオーランはしてくれていたのだと知り、胸が熱くなる。
オーランの力になりたい。
もしまた模様が浮かび上がれば、オーランを治癒の力で楽にさせてあげたいと強く想った。
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