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第四章
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オーランは部屋の外でじっと二人の会話を聞いていて、これで少しでもイレーナの心が安らげばと思う。
「陛下もお人好しですね。こんなところにいなくとも一緒にいてあげればよかったのに」
「俺がいては本音を話せんだろう。少しでもイレーナの味方になってくれる人がいてくれてよかった」
オーランは満足して部屋を後にする。
ユーグが廊下を歩きながら少し気まずそうに聞いてきた。
「陛下。姫巫女との結婚はどうなさいますか?」
妃として迎え入れるならそれなりの準備が必要だと、ユーグに言われて戸惑った。
すぐに答えを返せないでいるとユーグは軽く肩を竦めて、気遣いながら話す。
「陛下のお体のこと姫巫女に話さないのですか?」
「ー今のところはな。できれば知らない方がイレーナのためだが」
いつまでも隠せることではないというのは、オーランが一番理解している。
「しばらくはこのままだ。ケーロビアのことが片付くまではな」
オーランはそう自分にいい聞かせて政務に当たった。
※
議会で姫巫女のことを話すと予想していた通り、場は混乱した。
大臣を宥め込むのに時間がかかり、いつも以上に疲れを感じた。
「陛下。今日は部屋でお休みになった方が」
「ああ、そうだなー」
本当はイレーナと一緒にいたかったが体がゆうことを聞かなかった。
このところの激務が祟ったのだろう。オーランの体は限界を超えている。
ユーグの支えがないと歩くことすらままならない。
「陛下、しっかりー」
今にも膝から崩れ落ちそうになった時。
「オーラン!!」
イレーナの声が遠くに聞こえて顔を上げる。廊下の奥で心配そうな顔をしながら駆け寄ってくるイレーナが見えた。
「ーイレーナ……」
こんなに弱っているところを見られたくはないー。
なんとか気丈に振る舞おうとユーグから離れるが、力が入らずにそのまま倒れてしまった。
「陛下!!」
「オーラン!!」
二人の叫び声が重なる。
「オーラン! しっかりして!!」
オーランの頭を抱えてイレーナの膝の上に乗せられる。
「イレーナ、大丈夫だ」
「何言ってるのよ! 体がこんなに熱いのにっ」
「姫巫女、どうしてここに」
ユーグに聞かれてイレーナは、少し恥ずかしそうに頬を染めて言った。
「ーオーランに会いたくて、探してたのよ」
こんな時にそんな可愛いことを言われればたまらない。
「イレーナ」
そっと手を伸ばしてイレーナの頬に触れる。
「お前は冷たいな。廊下を歩いていて、体が冷えただろう?」
「そんなことー」
二人は熱く見つめ合う。そんな二人の間に呆れた声が割って入った。
「陛下。こんな時に何をお考えですか。姫巫女も陛下を煽らないでいただきたい」
「ご、ごめんなさい」
ユーグの厳しい叱責にイレーナは慌ててオーランから離れた。
名残惜しげに感じていたが、ユーグの指摘通り体を動かすのも億劫だった。
「姫巫女。陛下を一緒に支えてもらえますか?」
「え、ええ」
オーランは二人の肩を借りながらなんとか歩く。
すぐにオーランの寝室に運ばれて医師が診察をする。
「今までのご無理が祟ったのでしょう。しばらくは絶対安静です」
とりあえずの薬を飲むと呼吸が幾分か楽になった。
「ーユーグ、しばらくのことは頼む」
「かしこまりました。陛下は気にせずゆっくりとお休み下さい」
イレーナの心配そうな眼差しが心を苦しめる。
「イレーナ。俺は大丈夫だ。お前も、部屋に戻れ」
ユーグにイレーナを任せて、オーランは呼吸を整えながら医師に聞いた。
「一応聞くがー俺を治すことは、できないのだな?」
オーランの問いかけに医師は顔を伏せて申し訳ありません、と謝った。
「長年研究をしていますが、いまだに治療法が見つけられません。不甲斐ない医師で申し訳ありません」
心痛な面持ちで謝罪する医師にオーランは気にするな、と明るく言った。
今まで自分の境遇については理解し一生付き合っていくつもりだったが、イレーナという愛しい人ができて心が変わっていくのを感じる。
自分のためというよりはイレーナのためー。
イレーナに余計な心配をかけたくないという思いが強かった。
(俺も相当溺れてるなー)
自分で呆れて苦笑いを溢す。
またかすかに胸の奥の痛みを覚えてオーランは顔を顰めた。
「陛下もお人好しですね。こんなところにいなくとも一緒にいてあげればよかったのに」
「俺がいては本音を話せんだろう。少しでもイレーナの味方になってくれる人がいてくれてよかった」
オーランは満足して部屋を後にする。
ユーグが廊下を歩きながら少し気まずそうに聞いてきた。
「陛下。姫巫女との結婚はどうなさいますか?」
妃として迎え入れるならそれなりの準備が必要だと、ユーグに言われて戸惑った。
すぐに答えを返せないでいるとユーグは軽く肩を竦めて、気遣いながら話す。
「陛下のお体のこと姫巫女に話さないのですか?」
「ー今のところはな。できれば知らない方がイレーナのためだが」
いつまでも隠せることではないというのは、オーランが一番理解している。
「しばらくはこのままだ。ケーロビアのことが片付くまではな」
オーランはそう自分にいい聞かせて政務に当たった。
※
議会で姫巫女のことを話すと予想していた通り、場は混乱した。
大臣を宥め込むのに時間がかかり、いつも以上に疲れを感じた。
「陛下。今日は部屋でお休みになった方が」
「ああ、そうだなー」
本当はイレーナと一緒にいたかったが体がゆうことを聞かなかった。
このところの激務が祟ったのだろう。オーランの体は限界を超えている。
ユーグの支えがないと歩くことすらままならない。
「陛下、しっかりー」
今にも膝から崩れ落ちそうになった時。
「オーラン!!」
イレーナの声が遠くに聞こえて顔を上げる。廊下の奥で心配そうな顔をしながら駆け寄ってくるイレーナが見えた。
「ーイレーナ……」
こんなに弱っているところを見られたくはないー。
なんとか気丈に振る舞おうとユーグから離れるが、力が入らずにそのまま倒れてしまった。
「陛下!!」
「オーラン!!」
二人の叫び声が重なる。
「オーラン! しっかりして!!」
オーランの頭を抱えてイレーナの膝の上に乗せられる。
「イレーナ、大丈夫だ」
「何言ってるのよ! 体がこんなに熱いのにっ」
「姫巫女、どうしてここに」
ユーグに聞かれてイレーナは、少し恥ずかしそうに頬を染めて言った。
「ーオーランに会いたくて、探してたのよ」
こんな時にそんな可愛いことを言われればたまらない。
「イレーナ」
そっと手を伸ばしてイレーナの頬に触れる。
「お前は冷たいな。廊下を歩いていて、体が冷えただろう?」
「そんなことー」
二人は熱く見つめ合う。そんな二人の間に呆れた声が割って入った。
「陛下。こんな時に何をお考えですか。姫巫女も陛下を煽らないでいただきたい」
「ご、ごめんなさい」
ユーグの厳しい叱責にイレーナは慌ててオーランから離れた。
名残惜しげに感じていたが、ユーグの指摘通り体を動かすのも億劫だった。
「姫巫女。陛下を一緒に支えてもらえますか?」
「え、ええ」
オーランは二人の肩を借りながらなんとか歩く。
すぐにオーランの寝室に運ばれて医師が診察をする。
「今までのご無理が祟ったのでしょう。しばらくは絶対安静です」
とりあえずの薬を飲むと呼吸が幾分か楽になった。
「ーユーグ、しばらくのことは頼む」
「かしこまりました。陛下は気にせずゆっくりとお休み下さい」
イレーナの心配そうな眼差しが心を苦しめる。
「イレーナ。俺は大丈夫だ。お前も、部屋に戻れ」
ユーグにイレーナを任せて、オーランは呼吸を整えながら医師に聞いた。
「一応聞くがー俺を治すことは、できないのだな?」
オーランの問いかけに医師は顔を伏せて申し訳ありません、と謝った。
「長年研究をしていますが、いまだに治療法が見つけられません。不甲斐ない医師で申し訳ありません」
心痛な面持ちで謝罪する医師にオーランは気にするな、と明るく言った。
今まで自分の境遇については理解し一生付き合っていくつもりだったが、イレーナという愛しい人ができて心が変わっていくのを感じる。
自分のためというよりはイレーナのためー。
イレーナに余計な心配をかけたくないという思いが強かった。
(俺も相当溺れてるなー)
自分で呆れて苦笑いを溢す。
またかすかに胸の奥の痛みを覚えてオーランは顔を顰めた。
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