上 下
18 / 37

2

しおりを挟む
   グリードが目を覚ますと見慣れない天井が映った。


   体を動かそうにも力が入らない。


(迂闊だった……)


   女だからと警戒せずにいたら、この有様だ。


   なんとかして逃げなければーと半身を起こそうとしてグリードは目を見開いた。


「あら、お目覚めになりまして?   グリード様」


   ドロワーズ姿のシンシアが楽しそうに笑みを浮かべていた。


「貴様、なんのつもりだ?」


「あら、怒った顔も素敵ですわね?   ますます離すのが惜しいわ」


   シンシアが楽しそうに笑いながら歩み寄ってきて、寝台に乗りかかる。

   
   女を組し抱くことはあっても、組し抱かれた経験はない。


「こんなことして、ただですむと思っているのか?」


「今夜が楽しければそれでいいのよ。グリード様もたまには奥様以外の女性と楽しみたいでしょう?」


   ゾッとするほどの猫なで声で言われて、グリードは寒気がした。


   シンシアは着ていたドロワーズを躊躇いもなく脱ぎ捨てた。


   自分から男を誘うだけあって、豊かな胸としなやかな肉体が露わになる。


「私が欲しいでしょう?   グリード様の好きにしてもよろしいんですのよ?」


   グリードの手をとってシンシアの胸に触れさせる。


   弾力のある乳房に触れて、グリードは違和感を覚えた。


   顔を顰めたグリードにシンシアがくすくすと小鳥のように笑う。


「ようやく効いてきましたわね。さっきグリード様が飲み込んだもの、何かお教えしましょうか?   痺れ薬と媚薬の入った錠剤ですのよ」


   グリードは自分の失態に舌打ちをした。


   体の奥底から抑えられない欲情が湧き上がる。


   どんなに理性が拒んでも、媚薬の力には敵わない。


   グリードは荒い息を吐きながらシンシアの乳房を揉みしだいた。


「あ、んっ、あ、あ、嬉しい、グリード様っ」


   シンシアの尖った乳首を乱暴に摘むと、誘うように腰を揺らして艶やかに喘ぐ。


「あ、ん、もっと、ひどくしてっ、グリード様っー」


「く、そっ……」


「あっ、はっ、ぐ、グリード様のもの、もう、硬くなって……」


   シンシアがグリードの下半身に触れて、ジッパーを開き硬く張り詰めたそれに躊躇なく触れ、握った。


「これが、私の中にっ」


   うっとりとした相貌でそれを眺めるシンシアに、グリードは鼻で笑った。


「これが、そんなにほしいか?   シンシア」


「え、ええ。欲しいわ、グリード様、早く、これをください」


    グリードの塊を握りしめて必死に懇願する。


    リアと出会う前。


    グリードはシンシアのような女性ばかりを相手にしていた。


    身体は満たされても、心は満たされたことがない。


   リアを抱くようになり廃れていた心が、清らかになっていった。


   こんなことでしか相手をつなぎとめることができないシンシアを、哀れだと思う。


   グリードはシンシアの手首を取って力一杯握りしめた。


「い、たっ……」


   シンシアの顔が苦痛に歪む。


   グリードは額に汗を浮かべながら必死で暴れ狂う欲望と戦った。


   リアのことを思い浮かべれば、薬だろうがなんだろうが、跳ね除けられるー。


   そう自分に言い聞かせ、頭の中にリアの笑顔を思い浮かべた。


「二度と、俺の前に姿をみせるな」


   渾身の力を込めて払いのけると、シンシアは勢いよくベッドから落ちた。


「きゃあっ……」


「お待ちください!   お客様!!」


   切羽詰まった声が廊下で聞こえて、グリードは静かにほくそ笑んだ。


   シンシアは裸のまま、呆然とした表情でグリードを見据える。


「なんで、あの媚薬は、強力だって……」


   痺れの残る体で何とか乱れた衣服を元に戻し、ベッドから立ち上がる。


「お前には分からないだろうな。本当に愛しい人がいれば、どんなことにも打ち勝てるんだ」


   柔らかな顔色でそう告げると、シンシアが悔しそうに歯噛みした。


   勢いよく扉が開かれ、老齢の男性とバディスが駆け寄ってきた。


「ああ、シンシア様っ!   大丈夫でございますか!?」


   シンシアは駆け寄ってきた男を苛立ちげに押しのけ、床に脱ぎ捨てたネグリジェを拾い軽く羽織った。


「誰も通すなと言わなかったかしら?」


   鬼のような形相で男を睨み付けるシンシアに、顔を引きつらせながら謝罪する。


「も、申し訳ありません!   お止めしたのですが……」


   二人のやりとりを冷めた目で見つめ、バディスに眼を向ける。


   ずっとバディスには外で待機をしてもらっていた。


   何か変化があれば駆けつけるよう事前に通告していて、タイミングよく来てくれた出来た執事に労いを掛ける。


「相変わらず、いい仕事するな、バディス」


「ありがとうこざいます。グリード様?   顔色が……」


   額に汗をかき、肩で息をするグリードに心配そうな顔を見せる。


   本当は自力で立っているのも辛かったが、せめてここを出るまでは気丈でいたかった。


「問題ない。屋敷に帰るぞ」


   シンシアの横を無言で通り過ぎようとするグリードに、シンシアは興味を失った声で言った。


「強がっていても、その媚薬が強力なのは変わりないですわ。せいぜい苦しみなさい。私に恥をかかせた罰ですわ」


   どこまでも救えない女だと内心笑いながら、グリードは無言で部屋を出た。 


「次の候補の方に手紙を書いてちょうだい」


「は、はい、かしこまりました」


   シンシアの心に新たな怨みが生まれたことを、グリードは気づかなった。


「このままではすまさないわよ、グリード様?」


   怨根を滲ませた形相で、バディスの肩を借りながら馬車に乗り込もうとするグリードを、部屋の窓から凝視したー。


  



   


   


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

[R18]引きこもりの男爵令嬢〜美貌公爵様の溺愛っぷりについていけません〜

くみ
恋愛
R18作品です。 18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。 男爵家の令嬢エリーナ・ネーディブは身体が弱くほとんどを屋敷の中で過ごす引きこもり令嬢だ。 そのせいか極度の人見知り。 ある時父からいきなりカール・フォード公爵が婚姻をご所望だと聞かされる。 あっという間に婚約話が進み、フォード家へ嫁ぐことに。 内気で初心な令嬢は、美貌の公爵に甘く激しく愛されてー?

【完結】堕ちた令嬢

マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ ・ハピエン ※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。 〜ストーリー〜 裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。 素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。 それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯? ◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。 ◇後半やっと彼の目的が分かります。 ◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。 ◇全8話+その後で完結

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...