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グリードの試練 1
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グリードは約束時間より少し前に待ち合わせの場所に来ていた。
リアには仕事で遅くなるから先に寝てていい、と今朝伝えたら何の疑いもなく頑張ってください、と笑顔で見送られてしまった。
それだけでグリードの胃は痛む。
なぜ妻に嘘をついてまでこんなことをしなければならないのか、甚だ納得し難いがフロンタンと約束した手前、無下にはできなかった。
視線の先に一台の馬車が止まる。
扉が開いて降りてきたのは、一人の老齢男性だった。
「足元にお気をつけくださいませ、お嬢様」
男性が手を添えると、ほっそりとした手がその上に重ねられる。
グリードはその光景を興味なさげに見つめていたが、馬車から降りた女性が頬を赤らめてうっとりとした相貌で見詰めてきた。
「もう帰っていいわ」
「かしこまりました、お気をつけて」
つんと冷たく言い放って女性はグリードの前まで歩み寄る。
濃い紫色のドレスを着こなし、首元にはダイヤが散りばめられた重そうなネックレスが飾られていて、耳元にも大振りな紫色のダイヤが揺れていた。
(そういえば、リアにダイヤを贈っていなかったな)
令嬢よりもアクセサリーに目がいってふとそんなことを思う。
リアには小ぶりでピンク色のアクセサリーが似合うだろうかと考えていたら、目の前に女性が詰め寄ってきてグリードはぴくりと眉根を寄せた。
「はじめまして、グリード様。お会いできて嬉しく思います。お話のとおりとっても素敵な方ですわね」
「はじめまして。グリードと申します」
グリードは薄く笑みをみせて答え、それとなくシンシアを観察する。
肌はしっかりと手入れされているのか透き通るように白く、薄い青色をした瞳は大きくて、すっと伸びた鼻筋は高い。
ふっくらとした唇は紅色の唇が塗られていて、妖艶な雰囲気を存分に出していた。
(どこが、弱っているんだ?)
とても食事が喉を通らないような、華奢な令嬢には見えず、褐色のいい健康そのものの顔色をみながら冷めた気持ちになる。
適当にレストランで食事をして、いかに妻との生活が幸せかを聞かせれば諦めもつくだろう。
と安易に考え、シンシアという女性を甘くみていた自分を思い知ることになるとは、この時は微塵も思っていなかったー。
「私ずっとグリード様とお会いすることを楽しみにしてましたのよ? 私いい奥さんになろうと頑張って花嫁修行をしてましたのに……」
「それは申し訳ないことをしました。だがすでに私は愛しい妻と一緒に住んでいます。気持ちにお答えすることができなくて申し訳ありません」
「その奥様はルード家の娘ですよね? グリード様の隣に立つには少々物足りないのではありませんか? 舞踏会にも顔を出していなかったとお聞きしましたが」
あからさまに敵対心を丸出しにするシンシアに、グリードは冷めた視線を投げかけた。
「内向的な性格ですからね。それに兄が過保護であまり外に出していなかった。私は社交的な女性よりもおしとやかな女性を妻にしたい、とずっと思っていましたから彼女は私の理想そのものでしたよ」
わざとニッコリと満面の笑みを浮かべつつ、シンシアを牽制する。
シンシアはぐっと喉を詰まらせて酒を煽って、目に涙を溜めながら言った。
「グリード様……。私、どうしても諦めきれないんです。何も奥さんから奪おうなんておいそれたことは致しません。今のグリード様はもう奥様しか見えてないんですもの」
悲痛な顔つきで訴えるが、 どの言葉もグリードには響かなかった。
金切り声に近い高音が頭に響く。
最近はずっとリアの心地よくちょうどいい可愛らしい声ばかりを聞いていたから、よけい耳障りに感じた。
「せめて今夜だけ、今夜だけでも甘い夢を見させてください、グリード様……」
世間一般からすればシンシアの美貌は相当なものだろう。
こんな美貌の女性にそんなことを言われれば、大半の男は落ちるということをシンシア自身心得ている。
潤んだ瞳で媚びるシンシアに、グリードは強かな女だと思った。
だが、どんな言葉を投げかけられようが、泣かれようがグリードには効かない。
「すまないが、妻が待っているのでこれで失礼する」
直接会って断るという義務は果たした。
これ以上一緒にいる必要はないとグリードが席を立って帰ろうとしたとき。
シンシアが勢いよく立ち上がってグリードの腕を掴んだ。
「いいえ、帰しませんわ! グリード様!!」
「っつ、離せ」
以外にも強い力で止められて、グリードは一瞬目を見開いた。
「このまま、行かせない……」
シンシアは怒りを露わにしてグリードのそばまで寄ってくる。
自分の口にシンシアは何かを放り込んで、そのままグリードを引き寄せてキスをしてきた。
「っつ……」
瞠目してシンシアを離そうと懸命に力を込める。
「きゃっ……!」
シンシアは突き飛ばされて床に尻餅をついた。
丸い何かが喉仏を通ってそれを飲み込んでしまう。
(なんだ? 何を飲ませた……?)
ぼやけた視界に上機嫌に笑うシンシアの顔が映る。
立たなければーと力を込めるが体が痺れて足に力が入らない。
「さ、早く馬車にお連れして」
「かしこまりました」
いつのまにか屈強な体つきをしたスーツ姿の男二人が後ろに控えていて、両脇を抱えられる。
「何をするっ! 離せっ」
「この私を振っておいて、このままですませるわけないわ。行きましょう? グリード様」
シンシアがくすくすと声を立てて妖艶に笑む。
ぐったりとしたグリードはそのまま、意識を失った。
リアには仕事で遅くなるから先に寝てていい、と今朝伝えたら何の疑いもなく頑張ってください、と笑顔で見送られてしまった。
それだけでグリードの胃は痛む。
なぜ妻に嘘をついてまでこんなことをしなければならないのか、甚だ納得し難いがフロンタンと約束した手前、無下にはできなかった。
視線の先に一台の馬車が止まる。
扉が開いて降りてきたのは、一人の老齢男性だった。
「足元にお気をつけくださいませ、お嬢様」
男性が手を添えると、ほっそりとした手がその上に重ねられる。
グリードはその光景を興味なさげに見つめていたが、馬車から降りた女性が頬を赤らめてうっとりとした相貌で見詰めてきた。
「もう帰っていいわ」
「かしこまりました、お気をつけて」
つんと冷たく言い放って女性はグリードの前まで歩み寄る。
濃い紫色のドレスを着こなし、首元にはダイヤが散りばめられた重そうなネックレスが飾られていて、耳元にも大振りな紫色のダイヤが揺れていた。
(そういえば、リアにダイヤを贈っていなかったな)
令嬢よりもアクセサリーに目がいってふとそんなことを思う。
リアには小ぶりでピンク色のアクセサリーが似合うだろうかと考えていたら、目の前に女性が詰め寄ってきてグリードはぴくりと眉根を寄せた。
「はじめまして、グリード様。お会いできて嬉しく思います。お話のとおりとっても素敵な方ですわね」
「はじめまして。グリードと申します」
グリードは薄く笑みをみせて答え、それとなくシンシアを観察する。
肌はしっかりと手入れされているのか透き通るように白く、薄い青色をした瞳は大きくて、すっと伸びた鼻筋は高い。
ふっくらとした唇は紅色の唇が塗られていて、妖艶な雰囲気を存分に出していた。
(どこが、弱っているんだ?)
とても食事が喉を通らないような、華奢な令嬢には見えず、褐色のいい健康そのものの顔色をみながら冷めた気持ちになる。
適当にレストランで食事をして、いかに妻との生活が幸せかを聞かせれば諦めもつくだろう。
と安易に考え、シンシアという女性を甘くみていた自分を思い知ることになるとは、この時は微塵も思っていなかったー。
「私ずっとグリード様とお会いすることを楽しみにしてましたのよ? 私いい奥さんになろうと頑張って花嫁修行をしてましたのに……」
「それは申し訳ないことをしました。だがすでに私は愛しい妻と一緒に住んでいます。気持ちにお答えすることができなくて申し訳ありません」
「その奥様はルード家の娘ですよね? グリード様の隣に立つには少々物足りないのではありませんか? 舞踏会にも顔を出していなかったとお聞きしましたが」
あからさまに敵対心を丸出しにするシンシアに、グリードは冷めた視線を投げかけた。
「内向的な性格ですからね。それに兄が過保護であまり外に出していなかった。私は社交的な女性よりもおしとやかな女性を妻にしたい、とずっと思っていましたから彼女は私の理想そのものでしたよ」
わざとニッコリと満面の笑みを浮かべつつ、シンシアを牽制する。
シンシアはぐっと喉を詰まらせて酒を煽って、目に涙を溜めながら言った。
「グリード様……。私、どうしても諦めきれないんです。何も奥さんから奪おうなんておいそれたことは致しません。今のグリード様はもう奥様しか見えてないんですもの」
悲痛な顔つきで訴えるが、 どの言葉もグリードには響かなかった。
金切り声に近い高音が頭に響く。
最近はずっとリアの心地よくちょうどいい可愛らしい声ばかりを聞いていたから、よけい耳障りに感じた。
「せめて今夜だけ、今夜だけでも甘い夢を見させてください、グリード様……」
世間一般からすればシンシアの美貌は相当なものだろう。
こんな美貌の女性にそんなことを言われれば、大半の男は落ちるということをシンシア自身心得ている。
潤んだ瞳で媚びるシンシアに、グリードは強かな女だと思った。
だが、どんな言葉を投げかけられようが、泣かれようがグリードには効かない。
「すまないが、妻が待っているのでこれで失礼する」
直接会って断るという義務は果たした。
これ以上一緒にいる必要はないとグリードが席を立って帰ろうとしたとき。
シンシアが勢いよく立ち上がってグリードの腕を掴んだ。
「いいえ、帰しませんわ! グリード様!!」
「っつ、離せ」
以外にも強い力で止められて、グリードは一瞬目を見開いた。
「このまま、行かせない……」
シンシアは怒りを露わにしてグリードのそばまで寄ってくる。
自分の口にシンシアは何かを放り込んで、そのままグリードを引き寄せてキスをしてきた。
「っつ……」
瞠目してシンシアを離そうと懸命に力を込める。
「きゃっ……!」
シンシアは突き飛ばされて床に尻餅をついた。
丸い何かが喉仏を通ってそれを飲み込んでしまう。
(なんだ? 何を飲ませた……?)
ぼやけた視界に上機嫌に笑うシンシアの顔が映る。
立たなければーと力を込めるが体が痺れて足に力が入らない。
「さ、早く馬車にお連れして」
「かしこまりました」
いつのまにか屈強な体つきをしたスーツ姿の男二人が後ろに控えていて、両脇を抱えられる。
「何をするっ! 離せっ」
「この私を振っておいて、このままですませるわけないわ。行きましょう? グリード様」
シンシアがくすくすと声を立てて妖艶に笑む。
ぐったりとしたグリードはそのまま、意識を失った。
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