上 下
15 / 37

2

しおりを挟む
   リアが目覚めたとき、まだ辺りは暗闇に包まれていた。


(私、どうしたのかしら……)


   記憶が混沌としていて、思考が定まらない。


   起き上がろうとしたけれど、頭痛がして頭を抑える。


   ふと隣をみればいつもいるはずのグリードがいなくて、シーツも冷たい。


   ドレスもいつのまにかネグリジェに着替えさせられていたらしい。それすらも気づかないほど熟睡をしていたのだろうか。


   寝惚け眼のまま記憶を探り、はっと数時刻前の出来事を思い出した。


「わ、私……そ、そうだ、グリード様と、お、お父様はっ……」 


   痛みも忘れ、慌てて寝台から起き上がろうとして足を踏み外し、派手に転んでしまった。


「い、たた……」


   思い切り尻餅をついて自分の情けなさに涙がでてくる。


   妻として、夫の父と会うーという大事なときに酔っ払って、寝てしまうなんてー。


(きっと、グリード様にもお父様にも呆れられたわ)


   まだお酒が残っているのか、情緒不安定になっているのか、絨毯の上に座り込みながらしやくり上げるようにして泣く。


「リアー? どうした?」


   突然扉が開いてグリードが慌てて駆け寄ってきた。


「グリード、様……」


   グリードが戻ってきてくれて安堵するのと同時に、恥ずかしさが込み上げてきて顔を上げることができない。


「あ、あの……お、お父様は?」


「帰ったよ。楽しかった、リアによろしくと」


   呆れた嫁だと、罵ってくれてもいいのにーフロンタンの優しさが嬉しくてまた涙がこみ上げた。


「リア、どうした? まだ気分が悪いのかー?」


   グリードが心配そうな顔で覗き込んできて、リアは顔を上げた。


「ごめんなさいっ! グリード様っ!!」


「……」


    いきなり頭を下げたリアに、グリードは困惑の表情をみせる。


「私、とんだ失態を……大事な席なのに、お酒を飲んで、酔っ払ってしまって……、私……」


「リア、落ち着いてー」


    嗚咽を漏らすリアを抱きしめ、グリードが優しい手つきで撫でてくるから、また涙が出る。


「お前が謝ることは何もない。それだけ、お前に緊張させていたんだろう。気づいてやれなくてすまなかった」


「グリード様は、優しすぎます、もっと、叱ってください……」


   グリードと一緒になってからリアは甘やかされっぱなしだ。


   このままではどんどん自分に甘くなって、駄目な女性になってしまうー。


「リア、正直に言うと俺とリアの結婚を父上は許していなかった。 父上は今夜もそのことを伝えにきたんだと思う」


「え……」


   グリードの告白にリアは戸惑いの色を見せる。      


   確かにグリードと結婚した流れは唐突だった。


  流されるままに結婚したけれど、今は幸せでなんの問題もないと思っていたー。 


  リアの父には手紙をだして報告し喜んでくれたけれど、フロンタンは激怒したらしい。


「父上は、仕事で懇意にしている侯爵の令嬢と俺を結婚させようとしていた。父上は頑固な人でな。何としても俺とその女性を結婚させようとしていた。でも……」


   ふとグリードの視線が甘い色味を帯びて、リアの頬に手を添える。


「そのとき俺の中にはすでにリアしかいなかった。ずっと、初めて会った時からー。だから俺は無理矢理にでもリアを抱いて、強硬手段をとって先に結婚した」


   改めてグリードの想いを聞かされて、胸が熱くなった。


「父上はリアに会って、ようやく諦める決心がついたらしい。俺のことよりも、リアのことを悲しませることはしたくないそうだ」


「お父様に、認めてもらえたって、ことですか?」


   震える声で聞くとグリードも嬉しそうに微笑んで頷いた。


「よ、よかったー……、私、お父様に、失望させて、私を選んだグリード様のことも悪く思われるんじゃないかって、思って……」


  リアは緊張の糸が切れて、子供のようにしゃくりあげて泣いた。


  グリードは泣きじゃくるリアを力一杯抱きしめる。


「リア、これからは堂々と、俺の妻として俺の隣にいてほしい」


「はい、はい……、グリード様」


   笑顔で頷いたリアにグリードは思い出したように付け足した。


「……夫として、お前に一つだけ忠告する」


  ふいに厳しい視線を向けられて、リアは身を固くする。


「俺のいないところで二度と酒は飲むな」


「……ごめんなさい」


  もっともな忠告を受けてリアは神妙に謝った。


「酔ったリアが可愛すぎて困った。あんな姿、誰にも見せたくないんだー」


「え……」


  予想を覆す言葉にリアは不意打ちを突かれる。


「確かにお前のことを甘やかしすぎているという自覚はあるが、こればかりは仕方がない。自分でも抑えられないくらいお前のことを愛してるんだ」


「グリード様……」


  どこまでも甘いグリードにリアは戸惑ってしまう。


「こんなところに座り込んでいたら風邪を引く」


「え、グ、グリード様っ!?」


  グリードがいきなりリアの膝裏を持ち上げ、抱き上げた。


  お姫様だっこをされながら寝台の上にそっと下ろされる。


「一日張り詰めていて疲れただろ? 今からたっぷりとお前のことを癒してやる」


「グリード様‥‥‥」


  軽い口づけを繰り返すうちに、じんわりと身体が熱くなってくる。


「私、もうお酒飲みません‥‥‥」


   後悔を滲ませて宣言すると、グリードは苦笑して言った。


「お前は酒を飲んだことなかったんだろ? あの酒は父上の好みの酒で度数はかなり強いんだ。いきなりあんな酒を飲めばああなるのは仕方ない。倒れなかっただけよかったよ」


「口の中が熱かったです」


  そんなに強い酒だとは知らなかった。自分の不注意にリアはまた落ち込みそうになる。


「まあ、少しは酒に免疫があった方がいいのは確かだな。今度から少しずつ俺と飲もう」


「はい」


  しゅんとして頷くリアの頭を、グリードはやさしく撫でた。


「キスしたくなるくらい、酔っているお前が可愛かった。二人きりのときは思う存分酔っぱらっていいからな?」


「も、もうっ。また、グリード様ってばっ」


  恥ずかしくなって照れ隠しに顔を背けるけれど、グリードに顎を持ち上げられて熱い視線が交差する。


「今からは違う意味で酔わせてやる」


  意味深に微笑んだグリードの唇が近づいてきて、キスをされる。


  やっぱりグリードは甘いと思いながらも、甘い口づけにリアは身体が熱くなっていくのを感じたー。


 

    


 




   


   


  


  

   


   


   


  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

[R18]引きこもりの男爵令嬢〜美貌公爵様の溺愛っぷりについていけません〜

くみ
恋愛
R18作品です。 18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。 男爵家の令嬢エリーナ・ネーディブは身体が弱くほとんどを屋敷の中で過ごす引きこもり令嬢だ。 そのせいか極度の人見知り。 ある時父からいきなりカール・フォード公爵が婚姻をご所望だと聞かされる。 あっという間に婚約話が進み、フォード家へ嫁ぐことに。 内気で初心な令嬢は、美貌の公爵に甘く激しく愛されてー?

【完結】堕ちた令嬢

マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ ・ハピエン ※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。 〜ストーリー〜 裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。 素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。 それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯? ◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。 ◇後半やっと彼の目的が分かります。 ◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。 ◇全8話+その後で完結

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...