上 下
50 / 66

3

しおりを挟む
    身体が重かった。


    このところ昼夜関係なく抱かれているため、一日中ベッドの上にいることが多い。


    この小屋での生活も一月以上が過ぎた。


    カールは屋敷に帰ろうとしない。心配してそれとなく促そうとするけれど、すぐにキスで誤魔化されてしまう。


 「奥様、もうお食事はよろしいのですか?」


    マリエットに声をかけられてエリーナはほとんど手づかずな食事に目を向ける。


「ええ。ごめんなさい。食欲なくて」


「夜は何かスープでもお作りしましょうか?」


「ありがとう」


    申し訳ないと思いつつもエリーナはフォークを置いた。


「ねえ、マリエット」


「なんでしょうか?」


「お屋敷の方は大丈夫なのかしら」


    エリーナの問いに洗い物をしながら淡々と答えた。


「さあ、私はあまり詳しいことまでは分かりませんけれど、旦那様はいつも通りお仕事をこなしていらっしゃるようですね」


    何度か明け方に帰ってきたこともあった。エリーナはすでに眠ってしまって、朝目が覚めるとエリーナを抱いてまた仕事に行く。


    いくら丈夫なカールでもそんな生活が続けば体に負担がかかるのではないだろうか。


    その日の夜、エリーナはマリエットの作ってくれた温かいスープを飲んですぐに眠ってしまった。


 「お帰りなさいませ、旦那様」


「マリエット、まだいたのか?」


「ええ、実は旦那様にお伝えしたいことがありまして。奥様の体調があまりよろしくないように思います。一度医者に診せた方がよろしいかと」


「っ。そうか。分かった。明日、医者と一緒に来てくれ」


「承知致しました。失礼致します」


    二人の会話をエリーナはぼんやりと聞いていた。


    またカールに心配を掛けてしまう。


    これ以上カールに不安な思いをさせてはいけないと思い、エリーナは重い瞼を開いた。


「おかえりなさい、カール様」


「エリーナ!」


    カールがベッドまで駆け寄ってきて、エリーナの頬にキスをする。


「大丈夫か? 明日の朝一にでも医者に診てもらおう」


    いつも自信たっぷりなカールが不安げに瞳を揺らす。


 「カール様、私は大丈夫ですよ? いつもの事じゃないですか」


    元々病弱なエリーナだ。少しのことで体調を崩してしまうのは日常茶飯事。今回もただ疲れが出たのだろうとエリーナは思っている。


    自分の事は自分が一番よくわかるのだ。


    でもカールはまるで重病人を診ているかのような目でエリーナを見詰めている。


    どうすればいいか分からずに途方に暮れて、気鬱な表情をしていた。


    その夜、カールはエリーナに寄り添うようにして眠った。


    お互い衣服を身につけたまま眠るのは、この小屋に来てはじめてだ。


「エリーナ。私の愛は、重いだろうか?」


    カールの呟きはエリーナには聞こえなかった。


    すぐに睡魔が訪れて深い眠りについた。


    翌朝、マリエットが医者を連れて小屋にやってくる。


    医者の診察を終えて、カールは切羽詰まったように聞いた。


「どうなんだ? どこか悪いところでも」


「環境の変化と、精神的疲労が体に負担がかかっているのでしょう」


「それで? どうすればいい?」


「十分な栄養と睡眠、それから日差しを浴びる事ですね。ずっと閉じこもっていては衛生的にも悪い」


    ずばりと言い当てられてエリーナは返す言葉がない。


    カールは心痛な面持ちで医者の話しを聞くエリーナを見詰めていた。





    


    


    


    


    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

清廉潔白な神官長様は、昼も夜もけだもの。

束原ミヤコ
恋愛
ルナリア・クリーチェは、没落に片足突っ込んだ伯爵家の長女である。 伯爵家の弟妹たちのために最後のチャンスで参加した、皇帝陛下の花嫁選びに失敗するも、 皇帝陛下直々に、結婚相手を選んで貰えることになった。 ルナリアの結婚相手はレーヴェ・フィオレイス神官長。 レーヴェを一目見て恋に落ちたルナリアだけれど、フィオレイス家にはある秘密があった。 優しくて麗しくて非の打ち所のない美丈夫だけれど、レーヴェは性欲が強く、立場上押さえ込まなければいけなかったそれを、ルナリアに全てぶつける必要があるのだという。 それから、興奮すると、血に混じっている九つの尻尾のある獣の神の力があふれだして、耳と尻尾がはえるのだという。 耳と尻尾がはえてくる変態にひたすら色んな意味で可愛がられるルナリアの話です。

ハズレ令嬢の私を腹黒貴公子が毎夜求めて離さない

扇 レンナ
恋愛
旧題:買われた娘は毎晩飛ぶほど愛されています!? セレニアは由緒あるライアンズ侯爵家の次女。 姉アビゲイルは才色兼備と称され、周囲からの期待を一身に受けてきたものの、セレニアは実の両親からも放置気味。将来に期待されることなどなかった。 だが、そんな日々が変わったのは父親が投資詐欺に引っ掛かり多額の借金を作ってきたことがきっかけだった。 ――このままでは、アビゲイルの将来が危うい。 そう思った父はセレニアに「成金男爵家に嫁いで来い」と命じた。曰く、相手の男爵家は爵位が上の貴族とのつながりを求めていると。コネをつなぐ代わりに借金を肩代わりしてもらうと。 その結果、セレニアは新進気鋭の男爵家メイウェザー家の若き当主ジュードと結婚することになる。 ジュードは一代で巨大な富を築き爵位を買った男性。セレニアは彼を仕事人間だとイメージしたものの、実際のジュードはほんわかとした真逆のタイプ。しかし、彼が求めているのは所詮コネ。 そう決めつけ、セレニアはジュードとかかわる際は一線を引こうとしていたのだが、彼はセレニアを強く求め毎日のように抱いてくる。 しかも、彼との行為はいつも一度では済まず、セレニアは毎晩のように意識が飛ぶほど愛されてしまって――……!? おっとりとした絶倫実業家と見放されてきた令嬢の新婚ラブ! ◇hotランキング 3位ありがとうございます! ―― ◇掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ

【R18】ヤンデレ侯爵は婚約者を愛し過ぎている

京佳
恋愛
非の打ち所がない完璧な婚約者クリスに劣等感を抱くラミカ。クリスに淡い恋心を抱いてはいるものの素直になれないラミカはクリスを避けていた。しかし当のクリスはラミカを異常な程に愛していて絶対に手放すつもりは無い。「僕がどれだけラミカを愛しているのか君の身体に教えてあげるね?」 完璧ヤンデレ美形侯爵 捕食される無自覚美少女 ゆるゆる設定

【完結】鳥籠の妻と変態鬼畜紳士な夫

Ringo
恋愛
夫が好きで好きで好きすぎる妻。 生まれた時から傍にいた夫が妻の生きる世界の全てで、夫なしの人生など考えただけで絶望レベル。 行動の全てを報告させ把握していないと不安になり、少しでも女の気配を感じれば嫉妬に狂う。 そしてそんな妻を愛してやまない夫。 束縛されること、嫉妬されることにこれ以上にない愛情を感じる変態。 自身も嫉妬深く、妻を家に閉じ込め家族以外との接触や交流を遮断。 時に激しい妄想に駆られて俺様キャラが降臨し、妻を言葉と行為で追い込む鬼畜でもある。 そんなメンヘラ妻と変態鬼畜紳士夫が織り成す日常をご覧あれ。 ୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧ ※現代もの ※R18内容濃いめ(作者調べ) ※ガッツリ行為エピソード多め ※上記が苦手な方はご遠慮ください 完結まで執筆済み

【R18】婚約破棄に失敗したら王子が夜這いにやってきました

ミチル
恋愛
婚約者である第一王子ルイスとの婚約破棄に晴れて失敗してしまったリリー。しばらく王宮で過ごすことになり夜眠っているリリーは、ふと違和感を覚えた。(なにかしら……何かふわふわしてて気持ちいい……) 次第に浮上する意識に、ベッドの中に誰かがいることに気づいて叫ぼうとしたけれど、口を塞がれてしまった。 リリーのベッドに忍び込んでいたのは婚約破棄しそこなったばかりのルイスだった。そしてルイスはとんでもないこと言い出す。『夜這いに来ただけさ』 R15で連載している『婚約破棄の条件は王子付きの騎士で側から離してもらえません』の【R18】番外になります。3~5話くらいで簡潔予定です。

【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。

水樹風
恋愛
 とある事情から、近衛騎士団々長レイナート・ワーリン伯爵の後妻となったエルシャ。  十六歳年上の彼とは形だけの夫婦のはずだった。それでも『家族』として大切にしてもらい、伯爵家の女主人として役目を果たしていた彼女。  だが結婚三年目。ワーリン伯爵家を揺るがす事件が起こる。そして……。  白い結婚をしたはずのエルシャは、伯爵夫人として一番大事な役目を果たさなければならなくなったのだ。 「エルシャ、いいかい?」 「はい、レイ様……」  それは堪らなく、甘い夜──。 * 世界観はあくまで創作です。 * 全12話

政略結婚した夫の恋を応援するはずが、なぜか毎日仲良く暮らしています。

野地マルテ
恋愛
借金だらけの実家を救うべく、令嬢マフローネは、意中の恋人がすでにいるという若き伯爵エルンスト・チェコヴァの元に嫁ぐことに。チェコヴァ家がマフローネの家を救う条件として出したもの、それは『当主と恋人の仲を応援する』という、花嫁側にとっては何とも屈辱的なものだったが、マフローネは『借金の肩代わりをしてもらうんだから! 旦那様の恋のひとつやふたつ応援するわよ!』と当初はかなり前向きであった。しかし愛人がいるはずのエルンストは、毎日欠かさず屋敷に帰ってくる。マフローネは首を傾げる。いつまで待っても『お飾りの妻』という、屈辱的な毎日がやって来ないからだ。マフローネが愛にみち満ちた生活にどっぷり浸かりはじめた頃、彼女の目の前に現れたのは妖艶な赤髪の美女だった。 ◆成人向けの小説です。性描写回には※あり。ご自衛ください。

処理中です...