上 下
29 / 46

村から村へと走りました。

しおりを挟む
 翌朝、飲み屋のお姉さんが納屋に起こしに来てくれた。

「おはよう。朝食は店で食べるかい?」
「あ、はい」

 夢の名残りで少しぼんやりしながら、私はお姉さんに返事をした。
 お姉さんは笑って、「井戸は裏にあるから、顔を洗っといで」と言ってくれた。
 私は言われた通りに井戸に行き、顔を洗った。
 レイのことは気になるけど、現実では会えないのだし、これからは夢の中で思いっきり甘やかそうと思う。
 そう考えて頭をすっきりさせてから、私はレオンと一緒にお店に向かったのだった。


 朝食の後、お姉さんにお礼を言ってから村を出た。
 街道を走ってしばらくすると、商隊が列を成していたので、私は街道から逸れて商隊から見えない所まで行った。
 そして走って彼らを追い越した。
 今日はレオンは抱えている。本気で走って少し距離を稼ごうと思ったのだ。
 しばらく走ってから街道に戻り、また人が見えるとスピードを緩めて追い越し、見えなくなった所で本気で走った。
 そして村が見えて来ると走るのをやめて歩いた。

 村に入り食堂を見つけたので、ちょっと休憩しようと思ってレオンを抱いたまま入った。

「いらっしゃいませ!」

 店の従業員が元気よく迎えてくれる。
 私はレオンが一緒でも大丈夫か訊いてから、果汁と水を注文し代金を払った。

「はい、どうぞ」

 注文した品はすぐに運ばれて来て、私は席に着きレオンに水を与えた。
 レオンは美味しそうに飲んでいる。
 私も果汁をひと口飲んだ。乾いた喉にレモンに似た味が心地いい。

 果汁を少しずつ飲んでいると、レオンを見つめる熱い視線に気がついた。
 見ると、扉の影から小さな女の子が覗いている。
 私は苦笑すると果汁を飲み干し、レオンと共に扉に向かった。
 女の子はサッと隠れてしまったけど、私達が食堂から出ると陰から顔を出してこっちを見ていた。
 私が女の子を手招きすると、おずおずと近づいて来た。
 そして私とレオンを交互に見て「触ってもいい?」と小さな声で言った。

「どうぞ。この子はレオンというの」
「レオン……」

 女の子はそっと手を伸ばしてレオンの背中の毛に触れた。
 そのうち触り方は大胆になり、しまいには抱きついてわしゃわしゃと撫で回していた。
 レオンは困惑したように私を見ている。

 しばらくすると満足したのか、女の子はレオンから離れた。

「おねーさん、ありがとう」
「……どういたしまして」

 どうして女だってわかったんだろう?
 内心首を傾げながら、ぺこりとお辞儀して去って行く女の子を見送った。
 そして私は村を出て、再び走り出すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...