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傾く方へ。
フワフワと身体を支配される。
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凛さんとの出会いはいつかの喫煙室。
「コーヒー買ってくるから先に入ってて。」
そう言ってタバコとライターを私に持たせ壱哉は自販機の方へ消えていった。
言われるままに一人で入室し、壁沿いに置かれた長椅子の端っこに腰掛けて待つ。
私以外には事務所勤務のスーツの男性が一人と、社食の従業員さんが一人、それぞれ逆側の端っこの方に座ってタバコをふかしている。
手持ち無沙汰で、膝に置いたタバコの箱を弄びながら俯いていると、突然フワッと良い匂いをさせた女性がすぐ隣に座ってきた。
顔を上げそちらを見ると、ほんの10センチ程の距離に知らない顔があり私は飛び上がった。
その女性はハード目なロックファッションに身を包み、左側はサイドを大胆に刈り上げたベリーショートで、右側はサラサラロングヘアーという奇抜な髪型をしている。
「あはは。ごめんごめん。そんなに驚くと思わなくてさ。」
そんな人が間近で大口を開けて笑っているのだ。
驚愕以外の感情が姿を消した。
「吸わないの?それ…。」
「え…、あ、ああ。これは…私のじゃないので…。」
「へー…、じゃあ男のだ?」
見た目の奇抜さとバグった距離感。
それなのに不思議と嫌悪感はなかった。
寧ろ匂い、仕草、声のトーンなどの全てをもって、この女性が『イイ女』だと訴え掛けてくる。
刈り上がって露出している左側の首筋にバーコードのタトゥーが見えた。
こちらの視線を理解した女性は、私の手を取ると、そのバーコードの上に指をなぞらせる。
「これ気になる?」
首に指を触れさせたまま至近距離で合う目線。
ガッツリとアイラインを引いたキツいメイクなのに、少し垂れ気味の大きな目が透き通っていて優しい印象を持たせた。
心臓が強く鳴る。
促されるままバーコードの上の指をつつっと動かすと、「ふふっ…。」っと、擽ったそうに女性は笑った。
吸い込まれそうに惹き付けられ目が離せない。
ずっと見ていたい。
そう思っていると不意に手が放され、女性との間に距離が生まれた。
こんな距離は偶然居合わせた他人としては当然の距離で。
それなのに名残惜しいと感じてしまい、そんな自分に戸惑った。
何でもない感じで女性はタバコに火を点ける。
「前にさ、コンビニの店員が好みだったから『これもスキャンしてみる?』って誘ってお持ち帰りしたことあるよ。便利なの、このタトゥー。」
そして煙を吐き切ると今度は豪快に笑い出す。
先程までの妖艶な雰囲気が幻に思え、釣られて私も笑った。
急にぶっ込まれたとんでもない逸話。
出会って3分程なのに、もうこの人を好きだと思った。
「ねぇ、名前は?」
「池田ユリです。」
「ユリね。4階の靴屋の子でしょ?可愛いなって目付けてたから知ってるよ。」
「え…。」
思いがけない言葉。
ニヤけそうになる顔を必死に抑えて誤魔化した。
「私は凛でいいよ。ユリ。」
「凛さん…。」
「うん。」
ムズムズと胸の辺りに不快感とは違う違和感が溢れる。
じっとして居られないくらいの感情の波がソワソワと身体を支配して、踊り出したくなった。
この時から私は凛さんが好きなんだ。
「コーヒー買ってくるから先に入ってて。」
そう言ってタバコとライターを私に持たせ壱哉は自販機の方へ消えていった。
言われるままに一人で入室し、壁沿いに置かれた長椅子の端っこに腰掛けて待つ。
私以外には事務所勤務のスーツの男性が一人と、社食の従業員さんが一人、それぞれ逆側の端っこの方に座ってタバコをふかしている。
手持ち無沙汰で、膝に置いたタバコの箱を弄びながら俯いていると、突然フワッと良い匂いをさせた女性がすぐ隣に座ってきた。
顔を上げそちらを見ると、ほんの10センチ程の距離に知らない顔があり私は飛び上がった。
その女性はハード目なロックファッションに身を包み、左側はサイドを大胆に刈り上げたベリーショートで、右側はサラサラロングヘアーという奇抜な髪型をしている。
「あはは。ごめんごめん。そんなに驚くと思わなくてさ。」
そんな人が間近で大口を開けて笑っているのだ。
驚愕以外の感情が姿を消した。
「吸わないの?それ…。」
「え…、あ、ああ。これは…私のじゃないので…。」
「へー…、じゃあ男のだ?」
見た目の奇抜さとバグった距離感。
それなのに不思議と嫌悪感はなかった。
寧ろ匂い、仕草、声のトーンなどの全てをもって、この女性が『イイ女』だと訴え掛けてくる。
刈り上がって露出している左側の首筋にバーコードのタトゥーが見えた。
こちらの視線を理解した女性は、私の手を取ると、そのバーコードの上に指をなぞらせる。
「これ気になる?」
首に指を触れさせたまま至近距離で合う目線。
ガッツリとアイラインを引いたキツいメイクなのに、少し垂れ気味の大きな目が透き通っていて優しい印象を持たせた。
心臓が強く鳴る。
促されるままバーコードの上の指をつつっと動かすと、「ふふっ…。」っと、擽ったそうに女性は笑った。
吸い込まれそうに惹き付けられ目が離せない。
ずっと見ていたい。
そう思っていると不意に手が放され、女性との間に距離が生まれた。
こんな距離は偶然居合わせた他人としては当然の距離で。
それなのに名残惜しいと感じてしまい、そんな自分に戸惑った。
何でもない感じで女性はタバコに火を点ける。
「前にさ、コンビニの店員が好みだったから『これもスキャンしてみる?』って誘ってお持ち帰りしたことあるよ。便利なの、このタトゥー。」
そして煙を吐き切ると今度は豪快に笑い出す。
先程までの妖艶な雰囲気が幻に思え、釣られて私も笑った。
急にぶっ込まれたとんでもない逸話。
出会って3分程なのに、もうこの人を好きだと思った。
「ねぇ、名前は?」
「池田ユリです。」
「ユリね。4階の靴屋の子でしょ?可愛いなって目付けてたから知ってるよ。」
「え…。」
思いがけない言葉。
ニヤけそうになる顔を必死に抑えて誤魔化した。
「私は凛でいいよ。ユリ。」
「凛さん…。」
「うん。」
ムズムズと胸の辺りに不快感とは違う違和感が溢れる。
じっとして居られないくらいの感情の波がソワソワと身体を支配して、踊り出したくなった。
この時から私は凛さんが好きなんだ。
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