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椅子の背もたれに身体を預け、思い切り仰け反らせて伸びをする。
「んー…。」
ポキポキと小気味良い音が肩や背中から耳に届く。
今日も一日頑張った。
着替えも済ませ後は帰るだけの状態で、なかなか腰を上げられずにいる。
「一花さん、疲れてるの?」
背後から海くんの声がし、ガバッと身を起こす。
会いた過ぎて幻聴でも聞いているのかと思ったが、振り向けばちゃんと海くんの姿が目の前にあった。
「え?海くん?今日入ってないよね?」
気持ち悪くニヤけそうになる顔を必死に取り繕いつつ、なるべく自然に振る舞う。
「昨日ユニフォーム持って帰るの忘れてて…。洗わないと明日着るのないから取りに寄った。」
今日は会えないと思っていた分喜びが大きい。
無駄にグダグダしていて良かった。
海くんは休憩室奥へ向かうと、ロッカーからユニフォームを取り出した。
ろくに畳まず無造作にリュックに放り込んでいる。
几帳面そうに見えてちょっとズボラなところが可愛い。
そして白い項がちょっとエロい。
後ろから抱きついて項に舌を這わせながら、耳後ろの匂いを肺いっぱいに吸い込みたい。
海くんはどんなことをされるのが好きなんだろう?
きっとまだ誰にもされていないだろうことを私が沢山してあげたい。
ジャッと勢いよく海くんがリュックのジッパーを閉める音で我に返る。
海くんには誠実に接するって決めたばかりなのに。
欲求不満が過ぎるな。
不埒な妄想は止めよう。
現実的に真面目に適度なコミュニケーションを図ろう。
そう自分に言い聞かせて正攻法で接触を図る。
「海くん、すぐ帰るの?」
「うん。洗濯しなきゃ。」
「そっか…。」
ロッカーの中を軽く整理しながら支度している海くんを見詰める。
これから自分が口にすることを脳内で速やかにシミュレーションして鼓動が高鳴った。
「あのさ、良ければ一緒に帰らない?」
海くんはピッタと動きを止めるとこちらを見た。
「…。俺は良いけど…。」
「ホント?じゃあ準備出来たら一緒に帰ろう?」
余りの嬉しさに自然と満面の笑みになる。
海くんは涼しい顔で頷くとロッカーに視線を戻した。
この温度差。
それでも拒否されなかっただけ良しとしよう。
「そう言えば、一花さんてどの辺に住んでるの?…あ、いや、別に家を知りたいとかじゃないけどね…。」
出た、海くんの一歩近づいてきて三歩くらい下がるやつ。
いつも距離を取られるのは寂しいが、この控えめな感じが意地らしくてまた可愛いところでもある。
「一緒に帰ろって言ったの私なのに、家知られたくないとか言わないから、普通に聞いてよ。」
笑いながら軽く言う。
「布和市との境の方だから歩きでここから15分くらい。海くんは?」
「俺も布和の方。」
実は知っている。
知っているからこそ誘った。
海くんがこの店に入って間もない頃、自宅の近所にあるアパートに入って行くところを見かけたことがあった。
まだ好きになる前の話で、決してストーカーした訳ではない。
「んじゃ、結構ご近所さんなのかもね。一緒に帰れるね。」
我ながら白々しいと思う。
海くんはなるべく人と関わらないようにする人だから、きっと自分に好意がある人や、過剰に興味を示す人にはあからさまに距離をとるだろう。
大いに興味を持ち、強烈に好意を持っていることを察知されたら、脱兎のごとく逃げられてしまう。
だから私の気持ちをまだ悟らせる訳にはいかないのだ。
かと言って、待っているだけだと一生関わることがないまま終わってしまう。
私から行動しなければ近付けない。
逃げられない程度に近付く、今はその絶妙な距離感を探っている所だ。
「一花さん、俺は準備出来たよ。」
「私も。じゃあ、行こうか。」
ボディーバッグを斜めに掛けると立ち上がり、裏口へ向かう海くんの後を着いて行く。
一緒に帰れるってわかっていたら、もう少し可愛い格好で来たのに…。
オーバーサイズのビッグTシャツにスキニーパンツという、部屋着よりはましなくらいのコーデ。
それにスニーカーとキャップ。
暗がりなら男に間違われてもおかしくない。
海くんは男のような女を連れて歩くことを恥ずかしく思わないだろうか。
「一花さん…。」
「なに?」
裏口のドアノブを握ったままで海くんが振り向く。
「俺と外歩くの恥ずかしくないの?」
「え?」
耳に届く言葉を理解するのに時間を要した。
海くんもそんなことを考えるんだ。
「…。恥ずかしかったら誘わないでしょう?海くんと話したいって思ったから誘ったんだよ。全然恥ずかしくないよ。」
当然のことを答える。
私が恥ずかしいと思われることに気を取られ、恥ずかしいと思うことなんて考えてもいなかった。
「そっか、良かった…。じゃあ、行こうか。」
私の答えに安心したように呟き、海くんは扉を開け外に出た。
続いて出て来る私のために扉を押さえていてくれている。
極端に人を遠ざけるのに、こういうことを自然にしてくれるところが好き。
お礼を言いながら通り過ぎる時に表情を伺うと、長い髪の隙間からチラッと見える耳が赤く色づいていた。
海くんも私と二人きりになる状況を意識してくれているのだろうか。
戸惑ったような態度を見せられると期待してしまう。
家に着くまでの20分で、海くんが私をどう思っているのか、今後の為に少し探ってみよう。
「んー…。」
ポキポキと小気味良い音が肩や背中から耳に届く。
今日も一日頑張った。
着替えも済ませ後は帰るだけの状態で、なかなか腰を上げられずにいる。
「一花さん、疲れてるの?」
背後から海くんの声がし、ガバッと身を起こす。
会いた過ぎて幻聴でも聞いているのかと思ったが、振り向けばちゃんと海くんの姿が目の前にあった。
「え?海くん?今日入ってないよね?」
気持ち悪くニヤけそうになる顔を必死に取り繕いつつ、なるべく自然に振る舞う。
「昨日ユニフォーム持って帰るの忘れてて…。洗わないと明日着るのないから取りに寄った。」
今日は会えないと思っていた分喜びが大きい。
無駄にグダグダしていて良かった。
海くんは休憩室奥へ向かうと、ロッカーからユニフォームを取り出した。
ろくに畳まず無造作にリュックに放り込んでいる。
几帳面そうに見えてちょっとズボラなところが可愛い。
そして白い項がちょっとエロい。
後ろから抱きついて項に舌を這わせながら、耳後ろの匂いを肺いっぱいに吸い込みたい。
海くんはどんなことをされるのが好きなんだろう?
きっとまだ誰にもされていないだろうことを私が沢山してあげたい。
ジャッと勢いよく海くんがリュックのジッパーを閉める音で我に返る。
海くんには誠実に接するって決めたばかりなのに。
欲求不満が過ぎるな。
不埒な妄想は止めよう。
現実的に真面目に適度なコミュニケーションを図ろう。
そう自分に言い聞かせて正攻法で接触を図る。
「海くん、すぐ帰るの?」
「うん。洗濯しなきゃ。」
「そっか…。」
ロッカーの中を軽く整理しながら支度している海くんを見詰める。
これから自分が口にすることを脳内で速やかにシミュレーションして鼓動が高鳴った。
「あのさ、良ければ一緒に帰らない?」
海くんはピッタと動きを止めるとこちらを見た。
「…。俺は良いけど…。」
「ホント?じゃあ準備出来たら一緒に帰ろう?」
余りの嬉しさに自然と満面の笑みになる。
海くんは涼しい顔で頷くとロッカーに視線を戻した。
この温度差。
それでも拒否されなかっただけ良しとしよう。
「そう言えば、一花さんてどの辺に住んでるの?…あ、いや、別に家を知りたいとかじゃないけどね…。」
出た、海くんの一歩近づいてきて三歩くらい下がるやつ。
いつも距離を取られるのは寂しいが、この控えめな感じが意地らしくてまた可愛いところでもある。
「一緒に帰ろって言ったの私なのに、家知られたくないとか言わないから、普通に聞いてよ。」
笑いながら軽く言う。
「布和市との境の方だから歩きでここから15分くらい。海くんは?」
「俺も布和の方。」
実は知っている。
知っているからこそ誘った。
海くんがこの店に入って間もない頃、自宅の近所にあるアパートに入って行くところを見かけたことがあった。
まだ好きになる前の話で、決してストーカーした訳ではない。
「んじゃ、結構ご近所さんなのかもね。一緒に帰れるね。」
我ながら白々しいと思う。
海くんはなるべく人と関わらないようにする人だから、きっと自分に好意がある人や、過剰に興味を示す人にはあからさまに距離をとるだろう。
大いに興味を持ち、強烈に好意を持っていることを察知されたら、脱兎のごとく逃げられてしまう。
だから私の気持ちをまだ悟らせる訳にはいかないのだ。
かと言って、待っているだけだと一生関わることがないまま終わってしまう。
私から行動しなければ近付けない。
逃げられない程度に近付く、今はその絶妙な距離感を探っている所だ。
「一花さん、俺は準備出来たよ。」
「私も。じゃあ、行こうか。」
ボディーバッグを斜めに掛けると立ち上がり、裏口へ向かう海くんの後を着いて行く。
一緒に帰れるってわかっていたら、もう少し可愛い格好で来たのに…。
オーバーサイズのビッグTシャツにスキニーパンツという、部屋着よりはましなくらいのコーデ。
それにスニーカーとキャップ。
暗がりなら男に間違われてもおかしくない。
海くんは男のような女を連れて歩くことを恥ずかしく思わないだろうか。
「一花さん…。」
「なに?」
裏口のドアノブを握ったままで海くんが振り向く。
「俺と外歩くの恥ずかしくないの?」
「え?」
耳に届く言葉を理解するのに時間を要した。
海くんもそんなことを考えるんだ。
「…。恥ずかしかったら誘わないでしょう?海くんと話したいって思ったから誘ったんだよ。全然恥ずかしくないよ。」
当然のことを答える。
私が恥ずかしいと思われることに気を取られ、恥ずかしいと思うことなんて考えてもいなかった。
「そっか、良かった…。じゃあ、行こうか。」
私の答えに安心したように呟き、海くんは扉を開け外に出た。
続いて出て来る私のために扉を押さえていてくれている。
極端に人を遠ざけるのに、こういうことを自然にしてくれるところが好き。
お礼を言いながら通り過ぎる時に表情を伺うと、長い髪の隙間からチラッと見える耳が赤く色づいていた。
海くんも私と二人きりになる状況を意識してくれているのだろうか。
戸惑ったような態度を見せられると期待してしまう。
家に着くまでの20分で、海くんが私をどう思っているのか、今後の為に少し探ってみよう。
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