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木曜日のスイッチ。
擽ったさと快感。
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ここが人通りの殆ど無いプール棟で本当に良かった。
乱れた制服の女生徒。
暴れる彼女を無理矢理抑え込む男。
今この状況を誰かに見られでもしたら…。
俺の教師生活、牽いては人生そのものが終わりを告げるところであった。
それにしても困った事になった。
最初は本当に純粋に助けなければと必死で見えていなかったが…。
彼女を起こそうと見下ろす形で身体を密着させた時、第二ボタン辺りまで外されたシャツから、程よい大きさの胸が揺れているのが見えた。
暴れながら後ろへ倒れ込む時なんて、スカートが大きく捲れ上がり、太腿が殆ど露出していたし、胸にのしかかってきた瞬間なんて、今までに嗅いだ事の無い程の良い匂いが鼻腔に流れ込んできた。
理性が跡形もなく消え失せるところだった。
一方的に恋をしてから1年。
しかしここに務め出してからはまだたったの2ヶ月。
彼女が俺の存在を「山崎先生」として認識したのは恐らくここ最近の事だろう。
ここに勤めだしてからはチラチラと盗み見る事はあったが、アクシデントとはいえ身体に触れ向き合って言葉を交わすのは初めての事だ。
心臓が破れそうに高鳴る。
「山崎先生…。担当していない生徒も覚えてるんですか?」
乱れているシャツを簡単に整えながら口を開く細谷咲。
「さっき、私の名前知ってたから…。」
サーッと血の気が引いていく。
しまった。
そう言えば名前を口走ってしまった様な気がする。
その表情から不快感や非難の色は今のところ読み取れないが、気持ちの悪い思いをさせてやしないかと不安が襲う。
美術を選択してもいないのに、週2回しか学校に来ない非常勤教師なんかが自分の存在を知っていたとしたら…。
普通に警戒するだろう。
平静を装いつつ何か最もらしい事を返さなくては。
「ああ、君の恋人…立花君が僕の授業とってるんですけどね。授業中によく君の事をお友達に自慢してるんですよ。画像とか見せながら。それで僕も覚えてしまいました。」
「え?亜樹がですか?自慢?」
「はい。」
「そう…ですか…。良い事も言ってるんだ…。」
細谷咲は恥ずかしそうに頬を染めて俯いた。
彼氏が与り知らないところで自分を自慢していると聞かされれば、女子は皆そんな反応をするものなのだろう。
俺の話を疑う様子はない。
良かった。
現に嘘は吐いていない。
実際に立花亜樹は選択美術を取っているし、その際いつも彼女の事を周囲に自慢している。
『顔もスタイルもぼちぼちだけどやってる時の反応は今までの女の中で一番可愛い』や、『絶対に拒まないで何でもしてくれる』等と、兎に角下品極まりないものなので、内容はとても本人の耳に入れられるものではないが…。
最初にその手の会話を耳にした時は心底呆れたものだ。
その後すぐ、こんな奴の恋人はどんな子だろうと興味本位で覗き込んだ彼のスマホの中に、自分がひっそりと片想いしている少女の姿を見捕えた時は衝動的に死にたくなったけどな。
その時に細谷咲という名前も知った。
それと同時にもう一つの情報も得た。
細谷咲は極度の擽ったがりらしいと。
これもまた立花亜樹が授業そっちのけで吹聴していたから耳に入ってきた。
『身体が敏感過ぎてやってる最中に擽ったがって萎える』と。
そう聞いた時は「お前のテクニックの問題だろう。ガキがセックスを語るな。」と思ったものだが、先程の彼女の反応を見るに、あながち大袈裟に盛られた話でもないのかもしれないとも思った。
きっと彼女は何か大きな問題を抱えているのだろう。
俺だったら周囲に言いふらしたりせず、ただ力になるのにな。
そう思うと、思わず口を開いてしまった。
「細谷さん。」
真っ直ぐに向き合い俺は彼女に問い掛けた。
自然にウェーブしている長めの前髪。
その隙間から奥二重の優しげな目がこちらを見ている。
薄い唇にスっと通った鼻筋。
髭なんて一回も生えた事無さそうに透明感のある肌。
生成色の綿のシャツに、腿ぐらいまで丈のあるグレーのカーディガンを羽織り、そこから上に伸びる細い首が華奢な顔を支えている。
男くささが一切ない。
なのに微かに届いた香りや、細長く節張った指、飛び出した喉仏など要所要所に男性の色気があり、私はずっとドキドキしていた。
本来、こういう塩顔好きじゃないんだけどな…。
カーテンを通してぼんやりとした光を背に、こちらを見詰める山崎先生。
淡い逆光で薄く影を落とす表情の中に、いつか見た先生の絵が思い出される。
山崎先生と言う人を認識する以前に、私は先生の絵を2回見た。
そのどちらもが優しくて寂しい物だった。
強く人を元気付ける図々しさや、そっと語り掛けてくる様な気の利いた分かり易さはなく、酷く受け身な作品だとも思った。
自己主張はない。
だけどその中に明確な想いが確実にあって…。
何の根拠も無いけれど私には分かった。
これを描いた人がどんな人なのか。
何を思って描いているのかが。
先生の作品が凄いのか、私と先生が何処かで繋がっているのかは分からない。
けれど、芸術の事なんて何一つ分からない筈なのに、私にとって先生の作品は特別な物になった。
そして今、ぼんやりと光に溶け込んで消えてしまいそうな先生を前に、その時の気持ちを思い出していた。
子供の自分なんかよりもしっかりしている成人男性にこんな事を思うのはお門違いなのかもしれないけれど、「儚げだな」と感じる。
繊細で優しくて。
きっと私の悩みもくだらないと一蹴せずに聞いてくれるだろう。
そんな気がした。
「ちょっと踏み込んだ事を聞きますが…。細谷さんて擽ったがりですよね?それも極度の…。」
「…え。」
ボーッと先生の絵の事を考えている場合ではなかった。
急に確信を突かれ私は黙り込む。
「もしかして、細谷さんはここで自分の身体をどうにかしようとしていたんじゃないですか?一人で。」
余りにも的確な推理。
動揺して相変わらず言葉に詰まってしまうが。
隠しても仕方ない様に思えた。
実際に見られてしまった行動の言い訳もしたい。
それにやっぱり先生には、話しても大丈夫だと思える不思議な安心感があって。
何処かで本当は誰かに聞いて欲しいって気持ちもあったのかもしれない。
「すっごくアホらしい事だって自覚はあるんですけど…。」
私はそう前置きし、一呼吸置いてからぶっちゃけた。
「擽ったさを快感に変えたいんです。」
先生は私の言葉を聞くとその涼し気な目をゆっくりと見開いていった。
乱れた制服の女生徒。
暴れる彼女を無理矢理抑え込む男。
今この状況を誰かに見られでもしたら…。
俺の教師生活、牽いては人生そのものが終わりを告げるところであった。
それにしても困った事になった。
最初は本当に純粋に助けなければと必死で見えていなかったが…。
彼女を起こそうと見下ろす形で身体を密着させた時、第二ボタン辺りまで外されたシャツから、程よい大きさの胸が揺れているのが見えた。
暴れながら後ろへ倒れ込む時なんて、スカートが大きく捲れ上がり、太腿が殆ど露出していたし、胸にのしかかってきた瞬間なんて、今までに嗅いだ事の無い程の良い匂いが鼻腔に流れ込んできた。
理性が跡形もなく消え失せるところだった。
一方的に恋をしてから1年。
しかしここに務め出してからはまだたったの2ヶ月。
彼女が俺の存在を「山崎先生」として認識したのは恐らくここ最近の事だろう。
ここに勤めだしてからはチラチラと盗み見る事はあったが、アクシデントとはいえ身体に触れ向き合って言葉を交わすのは初めての事だ。
心臓が破れそうに高鳴る。
「山崎先生…。担当していない生徒も覚えてるんですか?」
乱れているシャツを簡単に整えながら口を開く細谷咲。
「さっき、私の名前知ってたから…。」
サーッと血の気が引いていく。
しまった。
そう言えば名前を口走ってしまった様な気がする。
その表情から不快感や非難の色は今のところ読み取れないが、気持ちの悪い思いをさせてやしないかと不安が襲う。
美術を選択してもいないのに、週2回しか学校に来ない非常勤教師なんかが自分の存在を知っていたとしたら…。
普通に警戒するだろう。
平静を装いつつ何か最もらしい事を返さなくては。
「ああ、君の恋人…立花君が僕の授業とってるんですけどね。授業中によく君の事をお友達に自慢してるんですよ。画像とか見せながら。それで僕も覚えてしまいました。」
「え?亜樹がですか?自慢?」
「はい。」
「そう…ですか…。良い事も言ってるんだ…。」
細谷咲は恥ずかしそうに頬を染めて俯いた。
彼氏が与り知らないところで自分を自慢していると聞かされれば、女子は皆そんな反応をするものなのだろう。
俺の話を疑う様子はない。
良かった。
現に嘘は吐いていない。
実際に立花亜樹は選択美術を取っているし、その際いつも彼女の事を周囲に自慢している。
『顔もスタイルもぼちぼちだけどやってる時の反応は今までの女の中で一番可愛い』や、『絶対に拒まないで何でもしてくれる』等と、兎に角下品極まりないものなので、内容はとても本人の耳に入れられるものではないが…。
最初にその手の会話を耳にした時は心底呆れたものだ。
その後すぐ、こんな奴の恋人はどんな子だろうと興味本位で覗き込んだ彼のスマホの中に、自分がひっそりと片想いしている少女の姿を見捕えた時は衝動的に死にたくなったけどな。
その時に細谷咲という名前も知った。
それと同時にもう一つの情報も得た。
細谷咲は極度の擽ったがりらしいと。
これもまた立花亜樹が授業そっちのけで吹聴していたから耳に入ってきた。
『身体が敏感過ぎてやってる最中に擽ったがって萎える』と。
そう聞いた時は「お前のテクニックの問題だろう。ガキがセックスを語るな。」と思ったものだが、先程の彼女の反応を見るに、あながち大袈裟に盛られた話でもないのかもしれないとも思った。
きっと彼女は何か大きな問題を抱えているのだろう。
俺だったら周囲に言いふらしたりせず、ただ力になるのにな。
そう思うと、思わず口を開いてしまった。
「細谷さん。」
真っ直ぐに向き合い俺は彼女に問い掛けた。
自然にウェーブしている長めの前髪。
その隙間から奥二重の優しげな目がこちらを見ている。
薄い唇にスっと通った鼻筋。
髭なんて一回も生えた事無さそうに透明感のある肌。
生成色の綿のシャツに、腿ぐらいまで丈のあるグレーのカーディガンを羽織り、そこから上に伸びる細い首が華奢な顔を支えている。
男くささが一切ない。
なのに微かに届いた香りや、細長く節張った指、飛び出した喉仏など要所要所に男性の色気があり、私はずっとドキドキしていた。
本来、こういう塩顔好きじゃないんだけどな…。
カーテンを通してぼんやりとした光を背に、こちらを見詰める山崎先生。
淡い逆光で薄く影を落とす表情の中に、いつか見た先生の絵が思い出される。
山崎先生と言う人を認識する以前に、私は先生の絵を2回見た。
そのどちらもが優しくて寂しい物だった。
強く人を元気付ける図々しさや、そっと語り掛けてくる様な気の利いた分かり易さはなく、酷く受け身な作品だとも思った。
自己主張はない。
だけどその中に明確な想いが確実にあって…。
何の根拠も無いけれど私には分かった。
これを描いた人がどんな人なのか。
何を思って描いているのかが。
先生の作品が凄いのか、私と先生が何処かで繋がっているのかは分からない。
けれど、芸術の事なんて何一つ分からない筈なのに、私にとって先生の作品は特別な物になった。
そして今、ぼんやりと光に溶け込んで消えてしまいそうな先生を前に、その時の気持ちを思い出していた。
子供の自分なんかよりもしっかりしている成人男性にこんな事を思うのはお門違いなのかもしれないけれど、「儚げだな」と感じる。
繊細で優しくて。
きっと私の悩みもくだらないと一蹴せずに聞いてくれるだろう。
そんな気がした。
「ちょっと踏み込んだ事を聞きますが…。細谷さんて擽ったがりですよね?それも極度の…。」
「…え。」
ボーッと先生の絵の事を考えている場合ではなかった。
急に確信を突かれ私は黙り込む。
「もしかして、細谷さんはここで自分の身体をどうにかしようとしていたんじゃないですか?一人で。」
余りにも的確な推理。
動揺して相変わらず言葉に詰まってしまうが。
隠しても仕方ない様に思えた。
実際に見られてしまった行動の言い訳もしたい。
それにやっぱり先生には、話しても大丈夫だと思える不思議な安心感があって。
何処かで本当は誰かに聞いて欲しいって気持ちもあったのかもしれない。
「すっごくアホらしい事だって自覚はあるんですけど…。」
私はそう前置きし、一呼吸置いてからぶっちゃけた。
「擽ったさを快感に変えたいんです。」
先生は私の言葉を聞くとその涼し気な目をゆっくりと見開いていった。
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