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最終話
しおりを挟む「聡明な妻がいたからです、ヘレフォード伯爵。あなたは女だからと耳を傾けていなかったが、その凝り固まった考えは改めた方がいい。
自分のためにも、もっと周りの話は聞いた方がいいですよ。」
ルイスはそう言い放った。
「ヘレフォード邸は伯爵家ですよね?高価な彫刻や宝石がたくさんあったのを覚えています。夫人のお召し物もたくさんの宝石がついています。それを売れば今すぐ生活に困るようなことはありません。どうかそれで頑張ってください。応援しています。」
そう言って腕を掴んでいるエレナから一歩離れた。
「サラ…俺が悪かった。」
さっきからずっと黙って座っていたデレクが立ち上がった。
「ジェラルド公爵の言う通りだ。お前は優秀な女だ。もっとはやく気づくべきだった。愚かな俺を許してほしい。」
「もう、過ぎたことですから…」
デレクの馴れ馴れしい態度にルイスが若干いらついているのがわかった。
「この女とは別れるよ、離婚だ。そして俺ともう一度婚約…いや結婚してくれ。」
デレクの言葉にその場にいた全員が固まる。
「エレナは愛嬌だけだ。俺の仕事には全く興味なしで、金を湯水のように使ってドレスや宝石を買い集めてる。
それに比べてサラはいつも仕事を手伝ってくれて、何より金のかからない女だ。頼む、もう一度俺とやり直してくれ。」
デレクが何を言っているか分かるけど、解らない。
必死に理解しようと頭をフル回転させる。
「サラは私の妻だ。ふざけたことを言うのはやめてもらいたい。」
ルイスが私とデレクの間に入って言った。
「うるさい!サラが本当に愛しているのは俺のはずだ。俺のことが忘れられないくせに!」
デレクをドンっと押し退ける。
「何言ってるのよ!?離婚!?ふざけんじゃないわよ!」
エレナがデレクに掴みかかろうとした時、
パンッ
と大きな音が響いた。
気づけば私の右手はデレクの頬を思いっきりぶっていた。
「私はサラ・ジェラルドです。
私が愛しているのは夫のルイス・ジェラルドただ一人です。
これ以上私と私の夫を侮辱するのであれば容赦しません。今すぐお帰りください。
そして二度と私たちの前に現れないでください。」
それだけ伝えて私はそっぽを向いて部屋を出ようとした。
「下手に出ていれば…女のくせに調子に乗るな!!!」
ついに限界を迎えたデレクが私に向かって大きく右腕を振りかぶった。
殴られるっ…!!
そう思った瞬間、ルイスが私を庇うように立ちはだかる。
「あっ…」
デレクの右腕は、ルイスに掴まれていた。
「こんなことをして、どうなるかよくご存知のはずだ。」
そう言うとルイスは大声で屋敷の使用人たちを呼び、デレクとエレナを強制的に屋敷から追い出した。
「このことは然るべきところに報告しますので。二度と関わらないでいただきたい。」
ルイスがピシャリと玄関を閉めた。
「サラ!!」
と、同時に慌てて私を抱きしめる。
「大丈夫か!?怪我はなかったか!?」
心配そうに私を見つめる。
「私は大丈夫。それこそルイスは?」
「平気だよ、これくらい。」
ニコッと笑うルイスに安心して、肩の力が抜ける。
◇◇◇
それから日々が過ぎていった。
産まれたのは男の子で跡継ぎができたことにみんな喜んでくれた。
デレク達はあれから何度か社交界の場で出会うことはあったが2、3回ほどしてから一切顔を見なくなった。
話も聞かなくなったので今どこで何をしているか全くわからない。
ジェラルド家はあれからどんどん学校を大きくし、学校を卒業した子供やその親が働けるようにと幾つもの会社をたてた。
経営も順調そうで、ルイスは忙しそうではあるが子供と私のことを第一に考えてくれる。
ルイスと一緒に庭を走り回る息子を見て、幸せな日常を噛み締める。
「愛してるわ、ルイス。」
聞こえるか聞こえないかくらいでぼそっと呟いた。
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