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20話 始めたこと
しおりを挟むルイスのいない生活が始まった。
朝は一人で朝食を食べる。
仕事も基本一人だし、美味しいお菓子も一人で食べた。
「奥さま、旦那様が残されていた仕事、片づいちゃいましたね。」
メイドのクレアが、暇そうに窓の外を眺める私を見て言った。
「そうね…。なんか、することなくて…張り切ってたらもう片づいちゃったわ。」
数日前と比べて、がらんとした書斎をぐるりと見渡す。
「そうですねぇ…パーティーでも開かれますか?」
「嫌よ、パーティーなんて。気疲れするだけだもの。」
「そうですか…」
うーんとクレアの顔にシワがよる。
「そうだ、刺繍など縫い物はいかがですか?」
「ぬ、縫い物!?」
クレアの提案に驚いてどもる。
「ええ、ご夫人の中でも趣味にされてる方多いそうですよ。」
「無理よ、したことないんだもの。」
「大丈夫ですよ、初めはみんなしたことないんですから。」
「えぇ…」
そんな女らしいことしたことないし…
「ね、奥さま。やってみましょうよ。」
クレアが迫ってくる。
「旦那さまになにか作ってあげてはいかがですか?帰ってきて奥さまからの手作りのプレゼントなんて、大変喜ばれると思いますよ。」
クレアの言葉にぴくりと耳が反応した。
「そうねえ…やることないし、少しくらいならやってみましょか。」
「そうこなくては!では急いで用意してきますね!」
なぜかクレアが一番楽しそうだった。
◇◇◇
ルイスが出て、一週間が経った。
ルイスからは毎日手紙が送られてくる。私もその手紙に毎日欠かさず返事を書いた。
「奥さま、だいぶ様になってきましたね。」
クレアはほとんどつきっきりで刺繍を教えてくれる。
「ええ、思ってたより簡単だったわ。」
身構えていたほど難しいこともなく、なんとか人並みにはできる程度になってきた。
「ルイスには言ってないのよ。」
縫いかけの赤い薔薇を見ながら、クレアに話しかける。
「刺繍のことですか?」
「ええ、帰ってきたら驚かそうと思って。」
子供みたいな自分の発言に少し恥ずかしくなる。
「旦那さま、喜ばれるといいですね。」
人なつこい笑顔でクレアが言う。
「喜んでくれるかしら。」
「きっと喜ばれますよ。好きな人から贈り物、ましてや手作りなんて嬉しくない人はおりません。」
好きな人…
その言葉の響きがなんだかくすぐったいような照れくさいような感じがした。
「奥さまったら、乗馬も狩りもまるで殿方のようにこなされるから初めはびっくりしました。」
「ふふ、お父様について回ってたら自然と覚えちゃったのよ。こんな女の子らしいことしたことなかったわ。」
そういえば、女らしいことなんてしたことなかったなぁ…
気づけばいつもそこら中駆け回ってたし、乗馬や狩りの方が楽しかったから。
ふと今までの自分を思い出す。
「わんぱくな方だと思いました。」
「本当ね。ルイスもよくこんな私を好きになってくれたわ。」
自分で言って改めてルイスの愛の深さを感じた。
ルイスを想って毎日いそいそと手を進める。
ちくちくと縫い進めていくうちにルイスに会いたい気持ちは膨れていく。
しかし、あれだけ送られてきた手紙が日を追うごとに3日に一回、一週間に一回とどんどん減ってきた。
忙しいのね、きっと…。
多忙であるだろうルイスの身を案じて、手紙の催促はしなかった。
しかし、ある日の手紙を境にパタリと手紙が届くことがなくなった。
その手紙の内容には…
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