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14話 影を見つめる
しおりを挟むそれからはルイスの仕事について歩く毎日だった。
初めはルイスのお父様のこともあり、領民の方には冷たくあしらわれることも多かったが、何度も足を運ぶことで心を開いてくれる方も増えてきた。
それに加えて、農地の整備以外にも診療所を立てたり、インフラを整えるなどターナー邸にいた頃勉強していた知識を惜しみなく使い、田舎のがらんとしていた頃より少しずつ活気を取り戻してきた。
季節は変わり、秋。
朝晩の冷え込みが激しくなり、日中もコートなしでは出かけるのが厳しくなってきた。
今日は久しぶりにルイスと二人でロンドンの街へ出掛けている。
紅葉の赤色や黄色が、絵の具のチューブから絞り出したままの鮮やかさを見せてくれる。
「綺麗ね。」
「そうだね、最近はサラにも忙しい思いをさせてすまなかった。今日は仕事のことは忘れてゆっくり買い物でもしようか。」
ウインドウを見ながら歩いていると急に強い力で引っ張られる。
「きゃああっ!!」
「大丈夫かっ!?」
ルイスの力強い腕に抱かれて、転ばずに済んだようだ。
「ええ、それより…」
気づくと鞄が無くなっていた。ひったくりだ。
「どうしましょう…」
困っていると、スコットランドヤードが駆けつける。
「どうされましたかっ!」
「鞄を取られてしまって…」
そう言うと2、3人で犯人を追いかけていった。
しばらく待つと、ヤード達が犯人を捕まえて戻ってきた。
「まあ…」
犯人は男の子だった。5、6歳くらいだろうか。
布切れと呼んだ方が正しいまでのボロボロの服から覗く手足は、その生活を容易に想像させるほどに細かった。
「貴族様の荷物を奪っておいて、タダで済むと思っているのか!」
首根っこを掴まれた男の子は悪びれるそぶりもなく、私とルイスを睨んでいた。
それを見て、ヤードの男は殴ろうとその子に降りかかる。
「待って!!」
つい声が出た。
「坊や、どうしてこんなことをしたのか教えてくれる?」
しゃがみ込んで、目線を合わせようとしてもそっぽを向かれてしまった。
「話してくれたら、私たち力になれるかもしれない。」
そう言うと、やっとこちらを見てくれた。
「母ちゃんが…病気なんだ。薬が必要なんだけど、買えない。飯だってもう3日も食べてないんだ!」
小さな肩を震わせて、絞り出すような声で男の子が言った。
30秒ほど沈黙が続く。
「これを君にあげましょう。」
私は身につけていたネックレスを外して男の子に差し出した。
「えっ…」
「これを質屋で売れば、お母様の薬としばらくの食事代にならないかしら?」
男の子がネックレスを受け取ると、ヤードが怒鳴ってきた。
「何をされてるのですか!!」
「こら!!返せ!このクソガキっ!」
無理やりネックレスを奪おうとする。
「やめなさい!!」
私の声にヤードの手が止まる。
「私がいいと言ったんです。もう結構ですから、仕事に戻ってください。」
「でも…」
しつこく食い下がるヤードを睨むと、バツが悪そうに去っていった。
「この鞄は返してもらっていいかしら?」
「あっ…うん。」
男の子が鞄を差し出す。
「ありがとう…」
消え入りそうな声で呟くと、あっという間に男の子は行ってしまった。
「大丈夫か、サラ。」
ルイスが心配そうに私の顔を覗き込む。
「ネックレス、良かったのかい?」
「いいのよ、他にもあるんだから。」
ぱんぱんっとドレスの裾を払う。
「ねえルイス、私思いついたことがあるの。」
「なんだい?」
「あの子たちのために、学校を建ててあげられないかしら。」
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