上 下
142 / 163

3-38

しおりを挟む
空間を切り裂き、影の中から現れたミシャは、私達を揶揄うかのように幼い私の姿で現れたものの、姿を消す前より、大分疲弊しているようだった。
いつもある余裕が、今は感じられないのだ。


「忌々しい。青炎の異能に核の一つを潰されるとは。」
ミシャは、怒りを隠す事なく、影から闇の力を溢れさせている。その力が、大地を黒く汚していた。


「魔物の王!お前の不細工なペットは、皆、死んだぞ!さあ、次は、お前の番だ!長きに渡る人類と魔物の戦いに決着をつけよう!」

「お前如きが、我と同等のように振る舞うとはな。ああ、腹立たしい。憎らしい。だが、まあ、いいだろう。青炎の異能者よ、お前は、我がこの手で殺してやろう。フローラの仕置きには丁度良い。お前達は、絶望の中で、苦痛に喘ぎながら死んでいけ!」

ミシャが、ニヤリと口角を上げたのと同時に、ヴェイル様が、剣を抜いて斬りかかる。
その速度が速すぎて、私の目では追えない。ヴェイル様の長剣が、光の軌跡を残しながら何度もミシャに迫った。
そんな中、十歳の少女の姿をしたミシャは、簡易なワンピースの裾を翻し、ヴェイル様の剣筋を避けていた。
暫く、ヴェイル様の攻撃が続いていると、ミシャが頭上に手を翳し、影を集め始めた。その影の塊が、一本の大剣へと姿を変える。そして、次の瞬間には、身の丈以上のそれを、ミシャが振り回し始めた。

ヴェイル様の青炎の剣とミシャの影の剣が、派手にぶつかり、その度に赤い火花を散らす。
その威力は、ぶつかり合う度に激しくなっていった。

その時、ミシャの剣が、ヴェイル様の額を掠った。けれど、ヴェイル様は、何も気にせず地を駆ける。額から流れた血は、ミシャに向かって駆け抜けるヴェイル様の速度に負け、後方に散っていった。

一撃斬り結ぶ度に、一つまた一つと、お互い傷を負っていく。
どちらも致命傷にはならない小傷が増えていく中、先にミシャが動いた。
ミシャが空中に放った大剣が、影に戻って散り散りに四方へ散り、その姿を短剣に変えたのだ。そして、その無数の短剣が、ヴェイル様を狙う。
避ける空間など与えてはくれない残酷な攻撃に、私の足は思わず、ヴェイル様に向かっていた。


「ヴェイル様!」

必死に駆けたところで、私の足では間に合わない。それでも、駆けずにはいられなかった。


駄目!
やめて!

手を伸ばした先に見えたヴェイル様の横顔には、私の心情に反して、余裕の笑みが浮かんでいた。


「油断したな、魔物の王!」

ヴェイル様は、ミシャに向かって青炎を纏った剣を振り下ろした。
青の大火が、ミシャの放った短剣を焼き尽くし、ミシャをも呑み込む。その威力に、湖の水が一気に蒸発し、辺りを霧が包んだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...