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「何だ、いたのか、神の下僕共。ステラを置いて逃げ出したのかと思ったぞ?」
拘束されているのに、魔物の王はケラケラと楽しそうに笑っている。
そこへ、緑の長い髪を揺らめかせた長身の女性が立ちはだかった。
「私達が、易々と犠牲者を出すわけがないだろう。ヴェイル殿の番は、勇敢にもお前を誘き出す囮になってくれたのだ。お前は、まんまと敵のど真ん中にやって来たのだよ。」
綺麗な人…。
この方が、樹人族の異能者。
その女性の髪には、樹人族の特徴とも言える色鮮やかな花が咲き、衣服から覗く浅黒い肌には、蔦のような模様が描かれていた。
凛々しく杖を構える樹人族の女性から目を離し、視線を周りに向けると、いつの間にか、多種多様な種族が、魔物の王を取り囲んでいた。
姫様が世界に危機を伝えて、ここに集まった神より選ばれし異能者達。
彼らは、それぞれの武器を手に、魔物の王と対峙していた。
圧倒的な強者達を前に、私は息をするのも忘れて、彼らの迫力に魅入っていた。
その内の一人が、一歩前に出る。
その方のことを、姫様はフェイと呼んでいた。居並ぶ異能者達の中で、一際体が大きく、その眼光は鋭い。
フェイ様は、持っていた大剣を地面に突き刺し、右手を魔物の王に向けた。
「余裕だな。では、お前が私達を侮っている内に、拘束させてもらおう!」
フェイ様が、前に出した右手を握りしめると、魔物の王を拘束していた光の檻が狭まり、直接体に巻き付いた。
身動きが取れなくなった魔物の王は、その場に膝を突く。それに続いて、異能者達が、容赦なく拘束魔法を重ね掛けしていった。
「さすがの魔物の王でも、この人数の異能者を相手にするのは、分が悪かったみたいだな。このまま、無に帰してやる。」
拘束魔法をかけていた異能者達が、フェイ様の合図に頷いたその時、俯いていた魔物の王から笑い声が聞こえてきた。
「ああ、やはりこの世界は、不快で、鬱陶しくて、忌まわしい。全てが、目障りだ。そうだろう、ステラ?お前もそう思うだろう?呪わしいだろう?なあ、ステラ?」
拘束魔法の隙間から、闇に沈む黒い目が私を捉えた。
さあ、ステラ、おいで。
お前は、こちら側だろう?
お前の願いを叶えられるのは、我だけだ。
さあ、さあ、さあ…。
突然、頭の中に、魔物の王の声がこだました。その声は、耳を塞いでも消えてくれない。すると、私の体から体温が消え、足から力が抜けていった。
怖くて、寒くて。でも、私の体は、少しも抗おうとしてくれない。
限界を迎えた体がふらついたその時、感じ慣れた体温が、しっかりと私を包み込んでくれた。
「やめろ。俺のステラの心に触れるな。」
ヴェイル様の腕に抱き留められ、私の体に熱が戻る。私は、詰めていた息をゆっくり吐き出した。
「もう、大丈夫だ。」
「はい。」
感謝を込めて、ヴェイル様に微笑むと、彼の顔にも少しだけ安堵が浮かぶ。
「ヴェイル様、ありがとうございます。もう、だい、…。」
大丈夫と、伝えるつもりだった。
ヴェイル様に、いつまでも庇ってもらうわけにはいかないから。
足手纏いには、なりたくなかったから。
でも、私の口から出たのは、言葉ではなく、鉄錆臭い吐息だけだった。
拘束されているのに、魔物の王はケラケラと楽しそうに笑っている。
そこへ、緑の長い髪を揺らめかせた長身の女性が立ちはだかった。
「私達が、易々と犠牲者を出すわけがないだろう。ヴェイル殿の番は、勇敢にもお前を誘き出す囮になってくれたのだ。お前は、まんまと敵のど真ん中にやって来たのだよ。」
綺麗な人…。
この方が、樹人族の異能者。
その女性の髪には、樹人族の特徴とも言える色鮮やかな花が咲き、衣服から覗く浅黒い肌には、蔦のような模様が描かれていた。
凛々しく杖を構える樹人族の女性から目を離し、視線を周りに向けると、いつの間にか、多種多様な種族が、魔物の王を取り囲んでいた。
姫様が世界に危機を伝えて、ここに集まった神より選ばれし異能者達。
彼らは、それぞれの武器を手に、魔物の王と対峙していた。
圧倒的な強者達を前に、私は息をするのも忘れて、彼らの迫力に魅入っていた。
その内の一人が、一歩前に出る。
その方のことを、姫様はフェイと呼んでいた。居並ぶ異能者達の中で、一際体が大きく、その眼光は鋭い。
フェイ様は、持っていた大剣を地面に突き刺し、右手を魔物の王に向けた。
「余裕だな。では、お前が私達を侮っている内に、拘束させてもらおう!」
フェイ様が、前に出した右手を握りしめると、魔物の王を拘束していた光の檻が狭まり、直接体に巻き付いた。
身動きが取れなくなった魔物の王は、その場に膝を突く。それに続いて、異能者達が、容赦なく拘束魔法を重ね掛けしていった。
「さすがの魔物の王でも、この人数の異能者を相手にするのは、分が悪かったみたいだな。このまま、無に帰してやる。」
拘束魔法をかけていた異能者達が、フェイ様の合図に頷いたその時、俯いていた魔物の王から笑い声が聞こえてきた。
「ああ、やはりこの世界は、不快で、鬱陶しくて、忌まわしい。全てが、目障りだ。そうだろう、ステラ?お前もそう思うだろう?呪わしいだろう?なあ、ステラ?」
拘束魔法の隙間から、闇に沈む黒い目が私を捉えた。
さあ、ステラ、おいで。
お前は、こちら側だろう?
お前の願いを叶えられるのは、我だけだ。
さあ、さあ、さあ…。
突然、頭の中に、魔物の王の声がこだました。その声は、耳を塞いでも消えてくれない。すると、私の体から体温が消え、足から力が抜けていった。
怖くて、寒くて。でも、私の体は、少しも抗おうとしてくれない。
限界を迎えた体がふらついたその時、感じ慣れた体温が、しっかりと私を包み込んでくれた。
「やめろ。俺のステラの心に触れるな。」
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「もう、大丈夫だ。」
「はい。」
感謝を込めて、ヴェイル様に微笑むと、彼の顔にも少しだけ安堵が浮かぶ。
「ヴェイル様、ありがとうございます。もう、だい、…。」
大丈夫と、伝えるつもりだった。
ヴェイル様に、いつまでも庇ってもらうわけにはいかないから。
足手纏いには、なりたくなかったから。
でも、私の口から出たのは、言葉ではなく、鉄錆臭い吐息だけだった。
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