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神殿の中央部にある聖堂の中で、姫様は石畳の床に膝を突き、神に祈りを捧げていた。床まで広がった姫様の美しい金の髪が、天窓から降り注ぐ光を浴びて、淡く輝いている。
そんな姫様を、この地に降臨した神を模したとされる白磁の像が、静かに見下ろしていた。
「姫様…。」
壊してはいけないような荘厳な空気が漂う中、私の小さな呟きを拾った姫様が、ゆっくりとこちらに振り返った。
「とうとうこの日が来たわ。魔物の王が、その姿を地上に現した。」
姫様は、覚悟を決めた表情で、端的に、けれど、はっきりとその短い言葉を告げた。
「…はい。」
私の心臓が、ドクンと大きな音を立てて跳ねる。覚悟していたことなのに。
辛うじて足の震えは耐えているけど、指先はどんどん血の気を失っていった。
そんな私の体に、トンっと、ヴェイル様の温かな体が当たる。
視線を落とした先には、ヴェイル様の力強い黄金の瞳があった。
大丈夫。
私には、ヴェイル様がいるもの。
だから、大丈夫。
私は、背筋を伸ばして姫様に向き直った。
「魔物の王は、私達がいるこの地に向かって来ているのですか?」
「それはまだね。今のアイツは、魔の毒気の中から動いていないの。」
魔物の王が動いていないのなら、まだ私達に気付いていないのかしら?
私は、ヴェイル様とお揃いの魔力封じの魔石に触れた。
「それで、ヤツは今どこにいるんだ?」
ヴェイル様の質問に、難しい顔をした姫様が、溜息を吐きながら答えた。
「ガイナイル山脈の中央、バルフレア山の火口よ。」
「チッ。よりにもよってあそこか!近付ける者が限られる。異能者でも長時間はきついぞ?どうする?」
「分かっているわ。でも、魔物の王が今、どんな状態にあるのか確認する必要があるのよ。」
「クソッ!厄介だな。」
物々しい二人の会話に入れず、オロオロしながら様子を伺っていると、ヴェイル様と姫様が、状況を噛み砕いて説明してくれた。
「ガイナイル山脈は、中央のバルフレア山に近付く程、地が荒れている。火口から定期的に、毒の霧が吹き出すからだ。そのせいで、山脈に住む山の民でも、バルフレア山には近付けない。」
「最近、その毒の霧が、一段と増したと山の民から報告があったの。それで魔道式無人機を使ってバルフレア山を調査したら、火口にアイツの姿を見つけたのよ。」
「山の毒霧自体が、魔の力で生み出されていた可能性があるな。あの毒は、自然界で発生したにしては強力過ぎる。何しろ、人に幻覚を見せ、精神を崩壊させる毒だからな。」
「そ、そんな危険な毒…。ヴェイル様!お願いです!行かないで!さすがのヴェイル様だって…。」
ヴェイル様だって、そんな毒はきっと耐えられない。
ヴェイル様が死ぬぐらいなら、私は自分の命を差し出すわ。
私は涙を堪えながら、ヴェイル様の背に触れた。
「ステラ、安心して。あんな場所に貴重な異能者を行かせるようなことはしないから。でも、どうしようかしら…。」
俯き気味に考え込んでしまった姫様を見て、ヴェイル様が、仕方ないと溜息混じりに呟く。
「毒に強い一族に心当たりがある。そこに協力を仰ごう。」
そう言うと、ヴェイル様は伸び上がって、私の目尻をペロリと舐めた。
そんな姫様を、この地に降臨した神を模したとされる白磁の像が、静かに見下ろしていた。
「姫様…。」
壊してはいけないような荘厳な空気が漂う中、私の小さな呟きを拾った姫様が、ゆっくりとこちらに振り返った。
「とうとうこの日が来たわ。魔物の王が、その姿を地上に現した。」
姫様は、覚悟を決めた表情で、端的に、けれど、はっきりとその短い言葉を告げた。
「…はい。」
私の心臓が、ドクンと大きな音を立てて跳ねる。覚悟していたことなのに。
辛うじて足の震えは耐えているけど、指先はどんどん血の気を失っていった。
そんな私の体に、トンっと、ヴェイル様の温かな体が当たる。
視線を落とした先には、ヴェイル様の力強い黄金の瞳があった。
大丈夫。
私には、ヴェイル様がいるもの。
だから、大丈夫。
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「魔物の王は、私達がいるこの地に向かって来ているのですか?」
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魔物の王が動いていないのなら、まだ私達に気付いていないのかしら?
私は、ヴェイル様とお揃いの魔力封じの魔石に触れた。
「それで、ヤツは今どこにいるんだ?」
ヴェイル様の質問に、難しい顔をした姫様が、溜息を吐きながら答えた。
「ガイナイル山脈の中央、バルフレア山の火口よ。」
「チッ。よりにもよってあそこか!近付ける者が限られる。異能者でも長時間はきついぞ?どうする?」
「分かっているわ。でも、魔物の王が今、どんな状態にあるのか確認する必要があるのよ。」
「クソッ!厄介だな。」
物々しい二人の会話に入れず、オロオロしながら様子を伺っていると、ヴェイル様と姫様が、状況を噛み砕いて説明してくれた。
「ガイナイル山脈は、中央のバルフレア山に近付く程、地が荒れている。火口から定期的に、毒の霧が吹き出すからだ。そのせいで、山脈に住む山の民でも、バルフレア山には近付けない。」
「最近、その毒の霧が、一段と増したと山の民から報告があったの。それで魔道式無人機を使ってバルフレア山を調査したら、火口にアイツの姿を見つけたのよ。」
「山の毒霧自体が、魔の力で生み出されていた可能性があるな。あの毒は、自然界で発生したにしては強力過ぎる。何しろ、人に幻覚を見せ、精神を崩壊させる毒だからな。」
「そ、そんな危険な毒…。ヴェイル様!お願いです!行かないで!さすがのヴェイル様だって…。」
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「ステラ、安心して。あんな場所に貴重な異能者を行かせるようなことはしないから。でも、どうしようかしら…。」
俯き気味に考え込んでしまった姫様を見て、ヴェイル様が、仕方ないと溜息混じりに呟く。
「毒に強い一族に心当たりがある。そこに協力を仰ごう。」
そう言うと、ヴェイル様は伸び上がって、私の目尻をペロリと舐めた。
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