55 / 163
2-8
しおりを挟む
ああ、行っちゃった...。
太陽が完全に上り、ジリジリとした暑さを感じる昼前、サウザリンド王国の面々に見送られて、サージェント王国の使節団は国へと帰っていった。
家族と離ればなれになってしまったような寂しさと不安に包まれ、私は、彼らが消えた魔法陣からいつまでも目が離せなかった。
そんな私の肩に、大きな手が乗る。
「大丈夫だよ、ステラ。治療が終われば、すぐに帰れるから。それに、あの魔法陣があれば、いつでもみんなに会える。だから、そんな悲しい顔しちゃ駄目だよ。」
ゼイン先生は、にっこり笑うと、私の頭を撫で始めた。その時、ふと、壁際にいるヴェイル殿下の姿が私の目に写る。
ヴェイル殿下に、あんな醜い傷を見せてしまった。別に、わざわざこんな傷を見せなくても、夜会の件なんて、誤魔化せたのだ。
でも、気付いたら、衝動的に体が動いていた。
多分、私は、ヴェイル殿下の言葉に反発したんだと思う。そんな自分が恥ずかしくって、情けない。
冷静になった後、私は慌ててヴェイル殿下に手紙を書いた。直接会って、謝りたい旨を伝えるために。
謝罪に訪れた時、ヴェイル殿下は、私を怒ってはいなかった。高価なドレスを贈った挙句、八つ当たりで返されたというのに。それどころか、配慮に欠けていたと、膝を突いて謝罪してきたのだ。
ヴェイル殿下は、どうしてこんなに優しいのだろう。
正直、少し困る。私の心臓が落ち着かなくて。
「じゃあ、これからの説明もあるし、部屋を変えようか。殿下も宜しいですか?」
ぼうっとしていると、ゼイン先生に話しかけられた。反応の鈍い私の代わりに、ヴェイル殿下が了承の返事を返す。そして、殿下は私達のために、扉を開けてくれた。
「ステラ、大丈夫か?」
ゼイン先生に続いて、広い廊下に出ると、突然、ヴェイル殿下に話しかけられた。
私は、何の事を問われたのか分からず、首を傾げる。
「いや、その、先程泣きそうになっていたから...。」
「あ、はい。少し不安になってしまって...。子供みたいで恥ずかしいです。」
「貴女は今回、初めての外国訪問だったのだろう?不安に思うのは当たり前だ。気にする事はない。辛かったら遠慮なく誰かを頼れ。いいな?」
「はい、ありがとう、ございます。」
ヴェイル殿下の気遣いは嬉しい。でも、今はなんだか居た堪れなくて、ぎこちなくお礼の言葉を口に出す。すると、ヴェイル殿下が困ったような顔をしていた。
「ああ、俺の言い方の問題か...。」
突然、ヴェイル殿下は足を止めると、綺麗に結ばれた自分の黒髪を掻き乱し始めた。
その様子をオロオロと見ている間に、ゼイン先生はどんどん先に行ってしまう。
先生を呼び戻そうと、声が喉から出かかった時、ヴェイル殿下の手が私の手を優しく掴んだ。
そして、そのまま彼の腕に導かれ、エスコートの型に収まる。
私がポカンとしていると、ヴェイル殿下はゆっくり歩き出した。
「国際会議が終わって、あれだけ賑やかだった王宮も随分寂しくなった。だから、ステラ、人恋しい俺のために、話し相手になってくれないか?治療と仕事の合間の短い間で構わない。報酬として、美味い茶と菓子も用意しよう。どうだ?」
突然、変な行動を取ったと思ったら、今度は真面目な顔で突拍子もない事を言われた。だからだろうか。私の中にあった不安がかき消え、笑いが込み上げてくる。
「ふふ、それは、魅力的な報酬ですね。ぜひ、私で良ければ、話し相手に雇って下さい。」
「ああ、よろしく頼む。」
前を向いたヴェイル殿下の顔は、少し赤くなっていた気がする。
太陽が完全に上り、ジリジリとした暑さを感じる昼前、サウザリンド王国の面々に見送られて、サージェント王国の使節団は国へと帰っていった。
家族と離ればなれになってしまったような寂しさと不安に包まれ、私は、彼らが消えた魔法陣からいつまでも目が離せなかった。
そんな私の肩に、大きな手が乗る。
「大丈夫だよ、ステラ。治療が終われば、すぐに帰れるから。それに、あの魔法陣があれば、いつでもみんなに会える。だから、そんな悲しい顔しちゃ駄目だよ。」
ゼイン先生は、にっこり笑うと、私の頭を撫で始めた。その時、ふと、壁際にいるヴェイル殿下の姿が私の目に写る。
ヴェイル殿下に、あんな醜い傷を見せてしまった。別に、わざわざこんな傷を見せなくても、夜会の件なんて、誤魔化せたのだ。
でも、気付いたら、衝動的に体が動いていた。
多分、私は、ヴェイル殿下の言葉に反発したんだと思う。そんな自分が恥ずかしくって、情けない。
冷静になった後、私は慌ててヴェイル殿下に手紙を書いた。直接会って、謝りたい旨を伝えるために。
謝罪に訪れた時、ヴェイル殿下は、私を怒ってはいなかった。高価なドレスを贈った挙句、八つ当たりで返されたというのに。それどころか、配慮に欠けていたと、膝を突いて謝罪してきたのだ。
ヴェイル殿下は、どうしてこんなに優しいのだろう。
正直、少し困る。私の心臓が落ち着かなくて。
「じゃあ、これからの説明もあるし、部屋を変えようか。殿下も宜しいですか?」
ぼうっとしていると、ゼイン先生に話しかけられた。反応の鈍い私の代わりに、ヴェイル殿下が了承の返事を返す。そして、殿下は私達のために、扉を開けてくれた。
「ステラ、大丈夫か?」
ゼイン先生に続いて、広い廊下に出ると、突然、ヴェイル殿下に話しかけられた。
私は、何の事を問われたのか分からず、首を傾げる。
「いや、その、先程泣きそうになっていたから...。」
「あ、はい。少し不安になってしまって...。子供みたいで恥ずかしいです。」
「貴女は今回、初めての外国訪問だったのだろう?不安に思うのは当たり前だ。気にする事はない。辛かったら遠慮なく誰かを頼れ。いいな?」
「はい、ありがとう、ございます。」
ヴェイル殿下の気遣いは嬉しい。でも、今はなんだか居た堪れなくて、ぎこちなくお礼の言葉を口に出す。すると、ヴェイル殿下が困ったような顔をしていた。
「ああ、俺の言い方の問題か...。」
突然、ヴェイル殿下は足を止めると、綺麗に結ばれた自分の黒髪を掻き乱し始めた。
その様子をオロオロと見ている間に、ゼイン先生はどんどん先に行ってしまう。
先生を呼び戻そうと、声が喉から出かかった時、ヴェイル殿下の手が私の手を優しく掴んだ。
そして、そのまま彼の腕に導かれ、エスコートの型に収まる。
私がポカンとしていると、ヴェイル殿下はゆっくり歩き出した。
「国際会議が終わって、あれだけ賑やかだった王宮も随分寂しくなった。だから、ステラ、人恋しい俺のために、話し相手になってくれないか?治療と仕事の合間の短い間で構わない。報酬として、美味い茶と菓子も用意しよう。どうだ?」
突然、変な行動を取ったと思ったら、今度は真面目な顔で突拍子もない事を言われた。だからだろうか。私の中にあった不安がかき消え、笑いが込み上げてくる。
「ふふ、それは、魅力的な報酬ですね。ぜひ、私で良ければ、話し相手に雇って下さい。」
「ああ、よろしく頼む。」
前を向いたヴェイル殿下の顔は、少し赤くなっていた気がする。
181
お気に入りに追加
671
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
『番』という存在
彗
恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。
*基本的に1日1話ずつの投稿です。
(カイン視点だけ2話投稿となります。)
書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。
***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる