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「な、ぜ、ここに...?」

「ステラ、貴女がまた、体調を崩したのではないかと、心配した。いったい何があった?誰かに、夜会に出るなと言われたか?」
ヴェイル殿下の目から少しずつ棘が薄れ、憂いの色が浮かぶ。
恐怖から抜け出した私は、震える唇から何とか言葉を発した。


「そ、そんな、事は、あ、ありえません!私が、自分の意思で、参加しなかったのです。私は、夜会に参加出来るような身ではありませんから。」

「ステラ...、貴女がどんな立場であれ、アデライード陛下が許可を出していただろう?それに、貴女は間違いなく貴族の令嬢だ。違うか?それとも、義父殿の騎士爵は誇るものではないと?」

「違います!義父の功績は、素晴らしいものです!悪いのは、私!私のような者に、華やかな場所は似合わないのです!」


義理の父は、平民から剣一本で騎士爵を得た英雄のように凄い人。でも、暇さえあれば、近所の子供達に剣術を教えている優しい人でもあるのだ。そんな方の誇りを、私が否定出来るわけがない。

私は、大声を上げて、激しく首を振った。


「はぁ、貴女は卑屈過ぎる。なぜ、自分を大切にしてやらない?もう少し自分を受け入れてやってもいいだろうに。ステラ、貴女の努力も研鑽も、皆が認めているんだぞ。それを貴女自身が拒絶してどうする。いつまでそうやって生きていくつもりだ?」


大切にする?
受け入れる?
私を? 
こんな醜い出来損ないの自分を?
どうやって?

思わず、私の口からは、乾いた笑い声が漏れ出た。



「ずっと...、俺は、ステラが来るのを待っていた。俺はただ、貴女が俺の選んだドレスを着て、夜会を楽しんで欲しかっただけなんだ。」


そんなの...、そんなの無理よ。
何も知らないくせに、勝手な事言わないで!

でも、そう思っていても、言葉が口から出て行ってくれない。
私は、下を向いて唇を強く噛んだ。



そこへ、バタバタと複数の足音が近付いてきた。


「団長!駄目です!」

ニルセン様が、私とヴェイル殿下の間に立ち塞がる。その隙に、メルデン様が、部屋で固まっていた騎士を無理矢理外へ連れ出した。


「ニルセン、邪魔だ。どけ。」

「...団長、落ち着いて下さい。これ以上は、バレリーさんも無理です。明日、改めて時間を作りましょう。」

ニルセン様の必死の説得に、ヴェイル殿下は益々怒りを募らせていく。
二人が言い争いを始める中、私はポツリと声を漏らした。


「...無理、なんです。」

「何が...、無理なんだ?」
小さな小さな私の呟きを聞き逃さなかったヴェイル殿下が、感情を抑えた平坦な声で問う。


「...私は、着飾っても、駄目なんです...。」
私は、前開きの侍女服のボタンに、そっと指を掛けた。




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