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「はあ、なんだかダンジョンにいた時より疲れた。」
私は逃げ込んだ中庭の片隅で、溜息を吐いた。
今の私の感覚は、純粋にこの世界の常識に順応出来るものではない。
それがたまに、私を苦しめていた。
ちょっと虚しい。
自分で自分を追い込んでいるみたいで。
少し前までの私は、もっと自由にやっていたような気がする。
でも、好きに結婚相手を選べって何!?
あんな素敵な人達に失礼よ。
彼らにだって、選ぶ権利はあるでしょう?
純粋な好意を彼らから感じたことはある。私だって気付いていたわ。
でも...、私は...。
「私、これからどうしたらいいのかな?」
日が落ち始めた空に、私の漏らした声が上っていく。
「好きにしたら、いいんじゃないかなぁー?」
誰の気配も感じられない日が翳った庭に、はっきりと声が聞こえた。
でも姿は、どこにも見えない。
「シロ?」
「うん!まだ、ちょっと色々と途中でねぇー。僕も中途半端な状態なんだぁー。でも、リルメリアちゃんに言われた通り、アランティウスのアカウントを奪うことにしたよ!それにしても、君がいた世界の子達は、凄いねぇー!ゲームと偽っているとはいえ、神のシステムにガンガン戦いを挑んでるよぉー!」
クスクスと楽しそうなシロの笑い声が響く。
「では、もうすぐ神の座に帰れそうですね、シロ。」
「うん!なるべく早く帰るから、もうちょっと待っててぇー!だからリルメリアちゃんは、好きなように生きて。失敗したら、神に戻った僕が、何でも手助けしてあげるから!」
神の手助け!?
なんてチート!
「ふふ、それなら大丈夫ですね。」
ふふ、何だか悩んでいたのが馬鹿らしい。
だって私の人生には、神様の後ろ盾が出来たのだから。
「リルメリアちゃん!君の人生が、楽しく愛溢れるものであることを願っているよぉー。またね!」
待ってるね、シロ。
フワリと風が吹くと、少しだけ空気が冷たくなった。いつの間にか、日も完全に落ち、空には星が輝いている。
その中で一番輝く星に、私は手を伸ばした。
「リル、見つけた。」
ガサリと土を踏む音が聞こえ、私は後ろを振り返る。
「寒くなってきたから、部屋に戻ろう。」
優しい声で、ウィルが私を呼んだ。
私はウィルの下へゆっくり進むと、少しだけ距離を開けて止まった。
「ウィル、私、貴方が好き。好きじゃないって必死に思おうとしたのに、駄目だった。忘れようとしたのに、貴方はずっと私の中にいたわ。」
「リル、私はずっと変わらず、君が好きだよ。初めて出会ったあの日、天使のような君に心の全てを奪われたんだ。」
「ふふ、おかしい。私も初めて貴方を見た時、天使が舞い降りたのかと思ったわ。」
私の中で、可愛らしかった幼いウィルの姿と、今のウィルが重なる。
「私、ずっとウィルと一緒にいたい。でも...。」
私は、一歩後ろに下がった。
「今は、駄目なの。結婚は出来ない。私、やりたい事が沢山あるの。私、理花が出来なかったことを、この世界でやり切ってみたいの。」
「...そう。でも、私は諦めないし、ただ君を待つ事はしない。リルがどこに行こうと何をしようと、私は君の側にいるよ。」
「ま、待って!シルヴァンフォード領は、どうするの!?」
「うーん。公爵位は、リルのために手に入れた地位だからね。必要なくなれば、然るべき者の手に委ねるよ。私には、リルだけでいい。」
ウィルはそっと距離を詰めると、私を包み込むように抱きしめた。
ウィルの安心する匂いに、私の決意が揺れる。
でも...。
「私...、ずっと結婚なんてしないかもしれないわ。いつまでも世界を飛び回っているかも。ウィルもいつか、そんな生活に嫌気が差すかもしれないでしょう?それでも側にいてくれるの?」
「もちろんだよ。絶対に君を離さない。愛してるよ、リル。」
涙で濡れる私の頬に、ウィルは優しい口付けを繰り返す。そして、それは私の唇にも落ちた。
「私も愛してる。」
私は、段々激しくなる口付けの合間に、精一杯の思いを伝えた。
私は逃げ込んだ中庭の片隅で、溜息を吐いた。
今の私の感覚は、純粋にこの世界の常識に順応出来るものではない。
それがたまに、私を苦しめていた。
ちょっと虚しい。
自分で自分を追い込んでいるみたいで。
少し前までの私は、もっと自由にやっていたような気がする。
でも、好きに結婚相手を選べって何!?
あんな素敵な人達に失礼よ。
彼らにだって、選ぶ権利はあるでしょう?
純粋な好意を彼らから感じたことはある。私だって気付いていたわ。
でも...、私は...。
「私、これからどうしたらいいのかな?」
日が落ち始めた空に、私の漏らした声が上っていく。
「好きにしたら、いいんじゃないかなぁー?」
誰の気配も感じられない日が翳った庭に、はっきりと声が聞こえた。
でも姿は、どこにも見えない。
「シロ?」
「うん!まだ、ちょっと色々と途中でねぇー。僕も中途半端な状態なんだぁー。でも、リルメリアちゃんに言われた通り、アランティウスのアカウントを奪うことにしたよ!それにしても、君がいた世界の子達は、凄いねぇー!ゲームと偽っているとはいえ、神のシステムにガンガン戦いを挑んでるよぉー!」
クスクスと楽しそうなシロの笑い声が響く。
「では、もうすぐ神の座に帰れそうですね、シロ。」
「うん!なるべく早く帰るから、もうちょっと待っててぇー!だからリルメリアちゃんは、好きなように生きて。失敗したら、神に戻った僕が、何でも手助けしてあげるから!」
神の手助け!?
なんてチート!
「ふふ、それなら大丈夫ですね。」
ふふ、何だか悩んでいたのが馬鹿らしい。
だって私の人生には、神様の後ろ盾が出来たのだから。
「リルメリアちゃん!君の人生が、楽しく愛溢れるものであることを願っているよぉー。またね!」
待ってるね、シロ。
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その中で一番輝く星に、私は手を伸ばした。
「リル、見つけた。」
ガサリと土を踏む音が聞こえ、私は後ろを振り返る。
「寒くなってきたから、部屋に戻ろう。」
優しい声で、ウィルが私を呼んだ。
私はウィルの下へゆっくり進むと、少しだけ距離を開けて止まった。
「ウィル、私、貴方が好き。好きじゃないって必死に思おうとしたのに、駄目だった。忘れようとしたのに、貴方はずっと私の中にいたわ。」
「リル、私はずっと変わらず、君が好きだよ。初めて出会ったあの日、天使のような君に心の全てを奪われたんだ。」
「ふふ、おかしい。私も初めて貴方を見た時、天使が舞い降りたのかと思ったわ。」
私の中で、可愛らしかった幼いウィルの姿と、今のウィルが重なる。
「私、ずっとウィルと一緒にいたい。でも...。」
私は、一歩後ろに下がった。
「今は、駄目なの。結婚は出来ない。私、やりたい事が沢山あるの。私、理花が出来なかったことを、この世界でやり切ってみたいの。」
「...そう。でも、私は諦めないし、ただ君を待つ事はしない。リルがどこに行こうと何をしようと、私は君の側にいるよ。」
「ま、待って!シルヴァンフォード領は、どうするの!?」
「うーん。公爵位は、リルのために手に入れた地位だからね。必要なくなれば、然るべき者の手に委ねるよ。私には、リルだけでいい。」
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でも...。
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「もちろんだよ。絶対に君を離さない。愛してるよ、リル。」
涙で濡れる私の頬に、ウィルは優しい口付けを繰り返す。そして、それは私の唇にも落ちた。
「私も愛してる。」
私は、段々激しくなる口付けの合間に、精一杯の思いを伝えた。
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