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ダリア様が、怒りを込めた魔法を手当たり次第に何度も放つ。彼女の周りには、的を外れた火柱がいくつも上がっていた。そこから立ち込める煙が、妖精達の光を掻き消していった。

それでも、妖精達は、次々にダリア様へ向かう。
私は動かない体で、妖精とダリア様の戦いを、ただ静かに見守り続けた。


やがて、数で勝る妖精達が、ダリア様の魔法を押し返し始める。
それと同時に、濁った空気も段々と浄化されていった。


晴れた視界の先で、岩に背を預けるアルバス様の姿が見えた。
薄ら開けた彼の目と視線が合う。アルバス様の顔には、安堵が浮かんでいた。

またその近くに、ルーイ先生を背負って、こちらに向かってくるゲイツの姿もあった。
その背で、ルーイ先生が軽く手を上げている。


良かった...。

私は無意識に、ウィルの頭に体を寄せた。



「大丈夫だよ。」

「うん。大丈夫。」

「心配いらないよ。」

「さあ、これで最後!」


ダリア様の下から離れた一部の妖精達が、私の聖弓を運んできた。

私の腕の中に、フワリと聖弓が落ちる。
すると、それに触れた場所から温かな魔力が、私の体に流れ込んできた。
冷え切っていた指の先に、感覚が戻ってくる。胸に手を当てると、底を突いていた私の魔力が、半分程戻ってきていた。


これなら、私も戦える。


私は丁寧にウィルの体を地面に横たえて、妖精と戦うダリア様の方へ、足を踏み出した。


「頑張って。」
私の背中を、妖精の励ましの一声が押してくれた。



ダリア様との距離が、とても長く感じる。
聖弓から貰った魔力で体は軽いのに、足だけは重い。

でも、私はダリア様の下へ行かなきゃいけない。
逃げられない運命なら、自分の手で終わらせる。

かつての聖人や聖女達も、こんな気持ちで、世界の抵抗と戦ったのかしら。

彼らに何があったのかは、分からない。
でも、今は少しだけ、彼らの気持ちが分かる気がする。


私は重い足をただ前に動かして、妖精達の光の中を歩いた。


「ああああ、ああー!」
ダリア様が髪を掻き乱し、暴れながら魔法を放つ。
けれど、彼女の魔法は最早弱々しく、私の所まで届かない。近くで見たダリア様の真紅の羽は、燻んでいるように見えた。


「ダリア様、終わりにしましょう。今回の神と世界の戦いは、私達の勝ちです。」

私の覚悟に応えた聖弓が、姿を変える。
右手に握られているそれは、元の姿に戻り、刃に鋭い光を湛えていた。





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