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ピシリと破裂音が響き、目の前に浮かぶクリスタルに傷が入る。
「リルちゃん、下がって。嫌な感じがする。」
「は、はい。」
動揺する私の横で、ルーイ先生は静かに杖を構え、警戒を強めていた。
「リル!上だ!」
ウィルの声が聞こえた瞬間、ルーイ先生に強く腕を引かれる。空間が歪み、転移魔法が発動したと気付いた時には、私達は東屋から離れた所にいた。
するとすぐに東屋に向かって、天井のクリスタルが降り注ぐ。
既の所で、巨大なクリスタルが今まで私達がいた東屋を押し潰していた。
「いったい、何が...?」
クリスタルが落ちた天井には、ぽっかりと大きな穴が開いていた。
「ああ、アハハ、キャハハハ!」
ガラガラと瓦礫が崩れ落ちる中、女性の甲高い笑い声が聞こえた。
何かが来る。
悍ましい程、冷たく黒い何かが。
崩れた天井から流れてくる魔力に、酷く気分が悪い。そして、息苦しい。
「アハハ、ああ、アハハハ!」
一際大きな笑い声が響き渡ると、天井の穴から泥のような影がこぼれ落ちた。
その影が嫌な音を立てて裂け始め、中から細っそりとした人の手が現れる。手は亀裂を更にこじ開け、体を外へ出そうと不気味にもがいていた。
「アハハ、キャハハハ!」
亀裂から時より聞こえる楽しそうな笑い声に、私の体が一層の拒絶反応を起こす。
やがて大きく裂けた影から、真っ赤なドレスの裾が覗いた。そして、ゆっくりと三対の純白の羽を持った天使が、その姿を表した。
天使は光を孕んだ美しい羽を大きく広げ、悠然と宙を舞う。
崩壊した岸壁を背景に、大地に降り立つ天使の姿は、まるで世界を救いに来た神の使いのようだった。
でも、気持ち悪い。
あの存在全てが、私には不快だ。
「やっと。やっとよー!やっと私に会いに来てくれた!アハハ!私、ずっと貴方を待ってたの!だって、私の王子様なんだもの!」
天使は、うっとりとその真紅の瞳をウィルに向けて笑っている。
ああ、不快な理由が分かった。
私が大嫌いな瞳が、そこにあったからだ。
「ダリア様...。」
「あら?あら?あら?そこにいるのは、負け犬じゃない?私のウィルフレイ様に会いに来たの?アハハハ!残念だけど、彼は私のよ?」
ダリア様が笑う度に漏れ出る魔力が、近くの植物を枯らして行く。
あの魔力は何?
以前のダリア様の魔力じゃない。属性すらない、全てが混じり合っているような、気持ち悪い魔力だ。
「ダリア様、随分お変わりになりましたね。」
「アハハ、そうでしょ?ありがとう。そうよね!私、変わったわ!アハハ、あれもこれも全て、お前のせいね。お前が私の邪魔をしたから、私はお父様に捨てられた。ああ、アハハ、全部お前が悪いのよ?だから全部壊すの!壊して最初からやり直すのー!」
ダリア様が広げた羽から魔力が溢れる。
それは刃物のような風を生み出し、私達を襲った。
「やめろ、ダリア!」
「まあ、お兄様もいたの?大嫌いなお兄様、お父様達のように呪ってあげる!キャハハハ!ああ、楽しい!ウィルフレイも楽しいでしょ?私と会えて嬉しいでしょ?ずっとずっと一緒にいましょうね、私の王子様!」
ダリア様が、ウィルに向かってその腕を伸ばした。
「リルちゃん、下がって。嫌な感じがする。」
「は、はい。」
動揺する私の横で、ルーイ先生は静かに杖を構え、警戒を強めていた。
「リル!上だ!」
ウィルの声が聞こえた瞬間、ルーイ先生に強く腕を引かれる。空間が歪み、転移魔法が発動したと気付いた時には、私達は東屋から離れた所にいた。
するとすぐに東屋に向かって、天井のクリスタルが降り注ぐ。
既の所で、巨大なクリスタルが今まで私達がいた東屋を押し潰していた。
「いったい、何が...?」
クリスタルが落ちた天井には、ぽっかりと大きな穴が開いていた。
「ああ、アハハ、キャハハハ!」
ガラガラと瓦礫が崩れ落ちる中、女性の甲高い笑い声が聞こえた。
何かが来る。
悍ましい程、冷たく黒い何かが。
崩れた天井から流れてくる魔力に、酷く気分が悪い。そして、息苦しい。
「アハハ、ああ、アハハハ!」
一際大きな笑い声が響き渡ると、天井の穴から泥のような影がこぼれ落ちた。
その影が嫌な音を立てて裂け始め、中から細っそりとした人の手が現れる。手は亀裂を更にこじ開け、体を外へ出そうと不気味にもがいていた。
「アハハ、キャハハハ!」
亀裂から時より聞こえる楽しそうな笑い声に、私の体が一層の拒絶反応を起こす。
やがて大きく裂けた影から、真っ赤なドレスの裾が覗いた。そして、ゆっくりと三対の純白の羽を持った天使が、その姿を表した。
天使は光を孕んだ美しい羽を大きく広げ、悠然と宙を舞う。
崩壊した岸壁を背景に、大地に降り立つ天使の姿は、まるで世界を救いに来た神の使いのようだった。
でも、気持ち悪い。
あの存在全てが、私には不快だ。
「やっと。やっとよー!やっと私に会いに来てくれた!アハハ!私、ずっと貴方を待ってたの!だって、私の王子様なんだもの!」
天使は、うっとりとその真紅の瞳をウィルに向けて笑っている。
ああ、不快な理由が分かった。
私が大嫌いな瞳が、そこにあったからだ。
「ダリア様...。」
「あら?あら?あら?そこにいるのは、負け犬じゃない?私のウィルフレイ様に会いに来たの?アハハハ!残念だけど、彼は私のよ?」
ダリア様が笑う度に漏れ出る魔力が、近くの植物を枯らして行く。
あの魔力は何?
以前のダリア様の魔力じゃない。属性すらない、全てが混じり合っているような、気持ち悪い魔力だ。
「ダリア様、随分お変わりになりましたね。」
「アハハ、そうでしょ?ありがとう。そうよね!私、変わったわ!アハハ、あれもこれも全て、お前のせいね。お前が私の邪魔をしたから、私はお父様に捨てられた。ああ、アハハ、全部お前が悪いのよ?だから全部壊すの!壊して最初からやり直すのー!」
ダリア様が広げた羽から魔力が溢れる。
それは刃物のような風を生み出し、私達を襲った。
「やめろ、ダリア!」
「まあ、お兄様もいたの?大嫌いなお兄様、お父様達のように呪ってあげる!キャハハハ!ああ、楽しい!ウィルフレイも楽しいでしょ?私と会えて嬉しいでしょ?ずっとずっと一緒にいましょうね、私の王子様!」
ダリア様が、ウィルに向かってその腕を伸ばした。
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