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南部に位置するニセン王国は常夏の国。色鮮やかな動植物と快活な人々が暮らす大国だ。この地域特有の薬草が育つため、アルト商会を通じて私も定期的に取引している。
朗らかな国王夫妻との関係は良好で、ニセン王国とは友好的な国交が続いていた。ただ、ちょっと情熱的すぎる王子達には辟易しているけど。



会談の日より数日早く入国した私達は、今こちらの国に移り住んでいるレブロン家の方々とゆっくり話す機会を得ていた。
最近益々綺麗になったティーナは、母親の母国が合っているのか、楽しい毎日を送っているようだ。婚約者が出来たと、はにかみながら教えてくれた。


幸せそうなレブロン家に滞在した後、ニセンの王宮でアルバス様と会うことになっている。
私は少しだけ早鐘を打つ胸を押さえながら、会談が行われるサロンへ足を向けた。









「聖女様におかれましては、我が国の不義理、誠に申し訳ありません。遅ればせながら、アーレント王家を代表して謝罪致します。」
部屋のドアが開くと、アルバス様が床に膝を突いて深く頭を下げていた。

私はその光景に、グッと堪える。


「アーレント王家の謝罪は受け取れません。」

私の平坦な言葉に、アルバス様の肩が一瞬揺れた。


「でも、久しぶりに会えた友人が元気そうで良かったです。どうかこの時間は、以前のようにお話し下さい。」
アルバス様の前にしゃがむと、私は彼の手を取って立たせた。


三年ぶりに見たアルバス様は、大人の男性になっていた。細身だった体は鍛えられた体付きに変わり、身長も見上げる程に伸びていた。
でも美しい深海の瞳は変わっていない。
その瞳と目が合うと、彼の顔が僅かに歪んだ。


「会いたかったよ、貴女に。でも私の我儘は貴女を困らせると分かっていたから、いつか会える日を只々願っていた。」
涙を堪えたアルバス様の瞳に、私は思わず手を伸ばす。その手にアルバス様は頬を寄せた。

潤んだ瞳の横、眉から頬にかけて薄らと傷が見える。首にも痛々しい傷跡が覗いていた。
アーレントに行ったルーイ先生が、アルバス様は辺境で頑張っていると言っていた。
彼はこの三年を、どう生きてきたのだろう。
それは私が目を背けていた部分でもあった。




「すまない。取り乱してしまった。改めてリルメリア嬢、久しぶりだね。私もまた貴女とこうして話せて嬉しいよ。元気だったかい?」


「はい、色々ありましたけどね。」

穏やかな会話をしていると、アルバス様の顔が、ふと真剣な表情に変わった。


「本当は貴女とこのまま会話を楽しみたいのだけどね。私はアーレントの第二王子、民を見捨てることは出来ない。だから聖女の貴女に取引をお願いしたい。どうか辺境の民を魔物から救ってくれないだろうか?」

「アルバス様、聖王国の聖女として、私はアーレント王国と対等な取引をするつもりはありません。」

「分かっているよ。だから私は、貴女に差し出せるものは何でも差し出そう。」


「そうですか...。」
私は一度瞳を閉じて、軽く息を吸った。








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