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アズバンド王家の家紋が入った豪華な馬車が、堂々と王宮の正門から出発していった。
その周りを魔法士ギルドの魔法士と、アルト商会が抱える傭兵が強固に囲う。
その馬車は、元バレント公女ベイルリーンを乗せて、アーレント王国ディナータ侯爵領へ向かう。
アズバンド王族がした残虐な行いが知れ渡った今、その家紋が書かれた馬車が自領に入ったと知ったら、侯爵家はどうするかしら。
最近のディナータ領の運営は、上手くいっていないと聞いた。必死でダリア様に媚を売っているようだけれど、此の所、ダリア様は以前のように聖火をばら撒いてはいない。
聖火を融通してもらえない侯爵家では、魔物対策に費用が嵩み、財政を圧迫しているようだ。
まあ、アルト商会がアーレント王国に対して、商品を割増料金で売りつけているからなのだけど。
ルーイ先生も、魔法士の派遣は断ったみたいだし。
きっと色々と大変なことになっているのでしょうね。
これからそこへ、態々目立たせてベイルリーン様を送る。
地に落ちたバレント公族とアズバンド王族との繋がりを堂々と見せられたら、数少ない侯爵家の取引先もすぐに手を引くでしょうね。
ふふ、リノアーノ様はちゃんと思い知ってくれるかしら。楽しみ!
「ご機嫌ですね。」
「ええ、色々と上手くいきそうなの。」
「それは良かった。最近の女神様は、お疲れのようでしたから。あ、そうでした!魔法士ギルドから連絡がありまして...。」
「リルちゃーん!」
「クッ、早すぎるだろ。」
先程まで笑い合っていたゲイツが、苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
「リルちゃん!リルちゃん!良い子紹介してくれてありがとー!魔眼持ちなんて、初めて見たよ。僕、感動しちゃった!」
大はしゃぎで飛び込んできたルーイ先生が、私の両手を掴んで振り回す。
「やめろ!女神様に触れるな!貴方が触れると汚れてしまうんですよ!」
ゲイツが私からルーイ先生を引き剥がすと、虫ケラを見るような目で威嚇する。
「ちょっと!愛弟子愛でて何が悪いのさ!邪魔しないでよ!」
「ダメです。近寄らないで下さい。」
「もー、リルちゃーん!コイツ何とかしてー!」
この二人って、何でこんなに仲が悪いんだろう。ちょっと面倒くさいです。
仕方なく二人を宥めようと足を向けると、そっと手を引かれた。
「ん?カイン?」
「あ、あのさ。俺、魔法士ギルドで頑張るから。」
モジモジとしていたカインが、しっかりと顔を上げて宣言する。
「うん。ルーイ先生は凄い魔法士だから大丈夫だよ。これからよろしくね、カイン。」
覚悟を決めたカインは、どこか大人びて見えた。これからの彼の成長が楽しみだ。
ふと、その後ろで、頭を下げて小さくなっている子達が目に入る。
「ああ、その子達もスカウトしちゃった!将来有望な子達だよー!」
ルーイ先生が自慢げに子供達を紹介すると、その中にいたエリンが、勢い良く頭を下げる。
「聖女様、ごめんなさい!」
「うん。エリン、自分ではどうする事も出来ないことを責めちゃダメよ。生まれは誰にも選べないの。みんなも約束よ?」
「「はい!」」
涙目で頷くエリンの頭を優しく撫でた。きっとこれからは、弱い立場の子の力になってくれるだろう。
「俺も、早く凄い魔法士になるから...。」
隣に来たカインが私の袖を引くと、僅かに体が傾く。すると、私の頬に柔らかな感触と温かな吐息が掛かった。
え?キス?
「ちゃんと待ってろよ!」
私がポカンとしている内に、カインが笑いながら駆け出していく。
その後を、なぜか怒ったルーイ先生とゲイツが追いかけて行った。
「メリアお嬢様、隙だらけですよ。気をつけて下さいね。」
いつの間にかライが、ハンカチでゴシゴシと私の頬を拭いていた。
その周りを魔法士ギルドの魔法士と、アルト商会が抱える傭兵が強固に囲う。
その馬車は、元バレント公女ベイルリーンを乗せて、アーレント王国ディナータ侯爵領へ向かう。
アズバンド王族がした残虐な行いが知れ渡った今、その家紋が書かれた馬車が自領に入ったと知ったら、侯爵家はどうするかしら。
最近のディナータ領の運営は、上手くいっていないと聞いた。必死でダリア様に媚を売っているようだけれど、此の所、ダリア様は以前のように聖火をばら撒いてはいない。
聖火を融通してもらえない侯爵家では、魔物対策に費用が嵩み、財政を圧迫しているようだ。
まあ、アルト商会がアーレント王国に対して、商品を割増料金で売りつけているからなのだけど。
ルーイ先生も、魔法士の派遣は断ったみたいだし。
きっと色々と大変なことになっているのでしょうね。
これからそこへ、態々目立たせてベイルリーン様を送る。
地に落ちたバレント公族とアズバンド王族との繋がりを堂々と見せられたら、数少ない侯爵家の取引先もすぐに手を引くでしょうね。
ふふ、リノアーノ様はちゃんと思い知ってくれるかしら。楽しみ!
「ご機嫌ですね。」
「ええ、色々と上手くいきそうなの。」
「それは良かった。最近の女神様は、お疲れのようでしたから。あ、そうでした!魔法士ギルドから連絡がありまして...。」
「リルちゃーん!」
「クッ、早すぎるだろ。」
先程まで笑い合っていたゲイツが、苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
「リルちゃん!リルちゃん!良い子紹介してくれてありがとー!魔眼持ちなんて、初めて見たよ。僕、感動しちゃった!」
大はしゃぎで飛び込んできたルーイ先生が、私の両手を掴んで振り回す。
「やめろ!女神様に触れるな!貴方が触れると汚れてしまうんですよ!」
ゲイツが私からルーイ先生を引き剥がすと、虫ケラを見るような目で威嚇する。
「ちょっと!愛弟子愛でて何が悪いのさ!邪魔しないでよ!」
「ダメです。近寄らないで下さい。」
「もー、リルちゃーん!コイツ何とかしてー!」
この二人って、何でこんなに仲が悪いんだろう。ちょっと面倒くさいです。
仕方なく二人を宥めようと足を向けると、そっと手を引かれた。
「ん?カイン?」
「あ、あのさ。俺、魔法士ギルドで頑張るから。」
モジモジとしていたカインが、しっかりと顔を上げて宣言する。
「うん。ルーイ先生は凄い魔法士だから大丈夫だよ。これからよろしくね、カイン。」
覚悟を決めたカインは、どこか大人びて見えた。これからの彼の成長が楽しみだ。
ふと、その後ろで、頭を下げて小さくなっている子達が目に入る。
「ああ、その子達もスカウトしちゃった!将来有望な子達だよー!」
ルーイ先生が自慢げに子供達を紹介すると、その中にいたエリンが、勢い良く頭を下げる。
「聖女様、ごめんなさい!」
「うん。エリン、自分ではどうする事も出来ないことを責めちゃダメよ。生まれは誰にも選べないの。みんなも約束よ?」
「「はい!」」
涙目で頷くエリンの頭を優しく撫でた。きっとこれからは、弱い立場の子の力になってくれるだろう。
「俺も、早く凄い魔法士になるから...。」
隣に来たカインが私の袖を引くと、僅かに体が傾く。すると、私の頬に柔らかな感触と温かな吐息が掛かった。
え?キス?
「ちゃんと待ってろよ!」
私がポカンとしている内に、カインが笑いながら駆け出していく。
その後を、なぜか怒ったルーイ先生とゲイツが追いかけて行った。
「メリアお嬢様、隙だらけですよ。気をつけて下さいね。」
いつの間にかライが、ハンカチでゴシゴシと私の頬を拭いていた。
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