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先日、私は聖都の中央にあるエルジェス教会で、集まった市民に手を振った後、各国の教会に赴任している司祭達と会談を持った。
そして今、馬車の窓から手を振りながら聖都を一周している。
そんな中、つくづく思った。私は目立つことが好きではないと。
連日、笑顔を作り続けたせいで、表情筋が痛い。今の私の笑顔は、酷く引き攣っていると思う。
もう、お披露目なんて2度とやりたくない!
精神を削られながら、なんとか私室に戻って来ると、ラナとネルが準備万端で待ち構えていた。
休憩もなく、着替えさせられたドレスは、お茶会用の可愛らしい純白のドレス。
このドレスは、透ける程薄い布を幾重にも重ねたことで、裾がふんわりと広がる。
結い上げた髪には、色とりどりの小花を散らしてもらった。
「はあ、素敵です、リルメリア様。私の主人は花の妖精ですね。」
「ふふ、ありがとう、ローズ。今日はよろしくね。じゃあ行きましょうか。」
ローズのエスコートで、教会の回廊を進む。
これから向かう南棟の庭園は、幅広いお客様を招待するため、本日は開放している。
女性限定ではあるけれど、身分を証明出来れば誰でも参加可能にした。
さあ、どんなお客様がいらっしゃるかしら?
庭園に近付くと、賑やかな喋り声が聞こえてきた。
私の到着に気付いた警備の聖騎士達が、こちらに向かって一斉に頭を下げた。
喋り声が止み、静まり返った中を、私は純白の聖騎士を連れて歩く。
周りを観察しながらゆっくり歩いていると、白のドレスを着た令嬢の姿がチラホラと見えた。私はローズに小声で、その令嬢達を調べるよう頼んだ。
「皆さん、今日はお茶会のご参加ありがとうございます。ぜひ楽しんでいって下さいね。」
私は、ティーナとレイラ夫人、そしてニセン王妃のクリスティーヌ様と同じ席に着いた。
周りでは出方を見つつ、牽制し合っている様子が窺えた。
そんな中、私達は穏やかに会話を楽しむ。暫くすると、少しずつ私の元へ挨拶に来る人達が増えていった。
「ご機嫌よう、聖女様。私はロクサン王国アファー伯爵の妻、アネインと申します。この子は娘のイーネでございます。」
さあ、来たわね。先ずは1人目。
私は白のドレスを着た令嬢に視線を向ける。
「イーネでございます。聖女様、私は光魔法が得意なのです。ぜひ、私を聖女様の側近にして下さい。」
「ふふ、この子ったら、もうお側に付く気満々ですのよ。でも、イーネの血筋は申し分ないですし、聖女様のご都合が宜しければ明日にでも...」
「本当に、気が早いのね。勘違いしちゃったのかしら?」
私は自らの言葉で、夫人の話を遮る。夫人の顔が、見る見る内に赤く染まっていった。
「イーネ様、貴女の光魔法で広範囲の浄化は出来る?回復魔法は?あら、その程度も出来ないの?」
先程まで自信満々だったイーネ様は、唇を震わせ声を失っている。
私はネルを近くに呼び寄せると、そっと彼女のエプロンの裾を持ち上げた。
そして今、馬車の窓から手を振りながら聖都を一周している。
そんな中、つくづく思った。私は目立つことが好きではないと。
連日、笑顔を作り続けたせいで、表情筋が痛い。今の私の笑顔は、酷く引き攣っていると思う。
もう、お披露目なんて2度とやりたくない!
精神を削られながら、なんとか私室に戻って来ると、ラナとネルが準備万端で待ち構えていた。
休憩もなく、着替えさせられたドレスは、お茶会用の可愛らしい純白のドレス。
このドレスは、透ける程薄い布を幾重にも重ねたことで、裾がふんわりと広がる。
結い上げた髪には、色とりどりの小花を散らしてもらった。
「はあ、素敵です、リルメリア様。私の主人は花の妖精ですね。」
「ふふ、ありがとう、ローズ。今日はよろしくね。じゃあ行きましょうか。」
ローズのエスコートで、教会の回廊を進む。
これから向かう南棟の庭園は、幅広いお客様を招待するため、本日は開放している。
女性限定ではあるけれど、身分を証明出来れば誰でも参加可能にした。
さあ、どんなお客様がいらっしゃるかしら?
庭園に近付くと、賑やかな喋り声が聞こえてきた。
私の到着に気付いた警備の聖騎士達が、こちらに向かって一斉に頭を下げた。
喋り声が止み、静まり返った中を、私は純白の聖騎士を連れて歩く。
周りを観察しながらゆっくり歩いていると、白のドレスを着た令嬢の姿がチラホラと見えた。私はローズに小声で、その令嬢達を調べるよう頼んだ。
「皆さん、今日はお茶会のご参加ありがとうございます。ぜひ楽しんでいって下さいね。」
私は、ティーナとレイラ夫人、そしてニセン王妃のクリスティーヌ様と同じ席に着いた。
周りでは出方を見つつ、牽制し合っている様子が窺えた。
そんな中、私達は穏やかに会話を楽しむ。暫くすると、少しずつ私の元へ挨拶に来る人達が増えていった。
「ご機嫌よう、聖女様。私はロクサン王国アファー伯爵の妻、アネインと申します。この子は娘のイーネでございます。」
さあ、来たわね。先ずは1人目。
私は白のドレスを着た令嬢に視線を向ける。
「イーネでございます。聖女様、私は光魔法が得意なのです。ぜひ、私を聖女様の側近にして下さい。」
「ふふ、この子ったら、もうお側に付く気満々ですのよ。でも、イーネの血筋は申し分ないですし、聖女様のご都合が宜しければ明日にでも...」
「本当に、気が早いのね。勘違いしちゃったのかしら?」
私は自らの言葉で、夫人の話を遮る。夫人の顔が、見る見る内に赤く染まっていった。
「イーネ様、貴女の光魔法で広範囲の浄化は出来る?回復魔法は?あら、その程度も出来ないの?」
先程まで自信満々だったイーネ様は、唇を震わせ声を失っている。
私はネルを近くに呼び寄せると、そっと彼女のエプロンの裾を持ち上げた。
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