205 / 308
5-12
しおりを挟む
それからは毎日大変だった。
まずは司祭達との顔合わせ。
ティリウス聖王国の聖職者達は家名がない分、家門を覚える必要がないのは助かった。
でも上位聖職者の数がとにかく多い。なるべく早く人の名前は覚えないと。
そして作法の授業。
聖王国は宗教国家のため、アーレント王国とは作法が違う。
これは少しずつ体に染み込ませるしかない。
これからは毎日が勉強だ。
「聖女様、こちらはいかがでしょう?」
聖王国の政務部門が集まる中央教会の西棟、その中にある私専用の執務室で、アイゼン司祭が大量の布とデザイン画を広げている。
布の説明から始まった聖女のお披露目会用のドレス選びは、もうかれこれ数時間が経っていた。
私はあまりドレスや宝飾品には詳しくない。正直、派手でなければどれでもいいかな。
「リルメリア様、こちらの伝統的な衣装はどうでしょう?良くお似合いになると思いますよ。」
落ち着いた雰囲気のノルンは、いつもとは別人だ。
厳格なアイゼン司祭に育てられたノルンは、今でも彼に頭が上がらないらしい。そのため普段はなるべく猫を被っているそうだ。
「そうね。それにしようかしら。」
「では、そちらでご用意致します。して、聖女様、招待国はお決まりになりましたか?」
聖女のお披露目のための晩餐会。そしてその後に続く、お茶会や夜会。
私はそれに招く客を選ばなければならなかった。
レーグ様が全ての国の教会に聖女誕生の通達を出してから、沢山の祝言と贈り物が私の元に届けられた。ぜひ私と会いたいという文言と共に。
それを思い出すと、気分が重い。
「やりたくないなら、やらなくてもいいんじゃない?」
シロが前足で私の膝を突つく。
「なりません、神獣様!これは全ての者に神の奇跡を示すための儀式なのです。」
やる気に満ちたアイゼン司祭に、ノルンとシロが諦めた目を向けていた。
「アイゼン司祭、最初の晩餐会は招待客を限定して行います。その後の会は、少しずつ増やす方向で調整してください。」
アーレント王国を出る前に参加した夜会での辛い経験は、今でも思い出したくはない。貴族と来賓の私を蔑むような目は、前に進もうとする私の足を竦ませる。
でも私はそんな人達に、本当の聖女が誰であったのかを見せつける。
あの人達には、しっかりと後悔してもらうために。
「大丈夫ですよ、リルメリア様。ほら、来ました!」
私の仄暗い感情に気付いたノルンが、持ち前の明るさで、私をドアの方へ促す。
すると直ぐに、入室の許可を求める声が聞こえた。
「「お嬢様!」」
ドアが開くのと同時に駆け寄ってきたラナとネル。
温かな2人の腕の中で、私は喜びと安堵に包まれた。
「メリアお嬢様、お会いしたかったです。」
聞こえた声に顔を上げると、見慣れた制服が見えた。
まずは司祭達との顔合わせ。
ティリウス聖王国の聖職者達は家名がない分、家門を覚える必要がないのは助かった。
でも上位聖職者の数がとにかく多い。なるべく早く人の名前は覚えないと。
そして作法の授業。
聖王国は宗教国家のため、アーレント王国とは作法が違う。
これは少しずつ体に染み込ませるしかない。
これからは毎日が勉強だ。
「聖女様、こちらはいかがでしょう?」
聖王国の政務部門が集まる中央教会の西棟、その中にある私専用の執務室で、アイゼン司祭が大量の布とデザイン画を広げている。
布の説明から始まった聖女のお披露目会用のドレス選びは、もうかれこれ数時間が経っていた。
私はあまりドレスや宝飾品には詳しくない。正直、派手でなければどれでもいいかな。
「リルメリア様、こちらの伝統的な衣装はどうでしょう?良くお似合いになると思いますよ。」
落ち着いた雰囲気のノルンは、いつもとは別人だ。
厳格なアイゼン司祭に育てられたノルンは、今でも彼に頭が上がらないらしい。そのため普段はなるべく猫を被っているそうだ。
「そうね。それにしようかしら。」
「では、そちらでご用意致します。して、聖女様、招待国はお決まりになりましたか?」
聖女のお披露目のための晩餐会。そしてその後に続く、お茶会や夜会。
私はそれに招く客を選ばなければならなかった。
レーグ様が全ての国の教会に聖女誕生の通達を出してから、沢山の祝言と贈り物が私の元に届けられた。ぜひ私と会いたいという文言と共に。
それを思い出すと、気分が重い。
「やりたくないなら、やらなくてもいいんじゃない?」
シロが前足で私の膝を突つく。
「なりません、神獣様!これは全ての者に神の奇跡を示すための儀式なのです。」
やる気に満ちたアイゼン司祭に、ノルンとシロが諦めた目を向けていた。
「アイゼン司祭、最初の晩餐会は招待客を限定して行います。その後の会は、少しずつ増やす方向で調整してください。」
アーレント王国を出る前に参加した夜会での辛い経験は、今でも思い出したくはない。貴族と来賓の私を蔑むような目は、前に進もうとする私の足を竦ませる。
でも私はそんな人達に、本当の聖女が誰であったのかを見せつける。
あの人達には、しっかりと後悔してもらうために。
「大丈夫ですよ、リルメリア様。ほら、来ました!」
私の仄暗い感情に気付いたノルンが、持ち前の明るさで、私をドアの方へ促す。
すると直ぐに、入室の許可を求める声が聞こえた。
「「お嬢様!」」
ドアが開くのと同時に駆け寄ってきたラナとネル。
温かな2人の腕の中で、私は喜びと安堵に包まれた。
「メリアお嬢様、お会いしたかったです。」
聞こえた声に顔を上げると、見慣れた制服が見えた。
3
お気に入りに追加
440
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
あくまで聖女ですので、以後お見知り置きを
和泉杏咲
ファンタジー
2023年3月12日 HOTランキング(女性向け)1位
2023年3月13日 ファンタジーランキング 1位
ありがとうございました……(涙)
妹への復讐のために自殺して怨霊になりたかっただけなのに、なぜか二度目の人生では聖女として修行させられています。
「あいつらを呪い殺すには怨霊になるしかないわ」
「とりあえず聖女になりなさいよ」
「だが断る」
「………………」
アンジェリカはかつて、ソレイユ王国の王子妃だった。
だが、アンジェリカが嫁いだ第1王子ルイには側室がいた。
彼女の名前はアリエル。アンジェリカの腹違いの妹だった。
常に妹と比べられ、惨めな思いをしていたアンジェリカは、唯一王子の妃に選ばれ、民に尽くすことで生きがいを感じていた。
ところが、そんなアンジェリカをアリエルは決して見逃してくれやしなかったのだ。
アリエルがルイの子供を妊娠した直後、アンジェリカとのお茶会が原因でアリエルが流産してしまった。
「王の血を受け継ぐものを殺したものは、例え誰であろうと処刑する」
そのため、アンジェリカやお茶会の準備をした大事な侍女のコレット、そしてアンジェリカを庇った実の母親が絞首刑となってしまった。
目の前で大切な人の命を奪われたアンジェリカ。とうとう自分の番になった時、アリエルの真の企てに気づいた。
アリエルは自分が正妃になるために、わざと自分で毒を飲んで流産し、アンジェリカが処刑されるように動いたのだった。
真実に気づいたアンジェリカは、その場で叫ぶ。
「あなたなんかにこれ以上、私の命を自由になんかさせない!!」
生きている間は、他人の意のままに操られた。
死ぬ時くらいは、自分の意思で死にたい。
生まれる時には、場所も家族も選べないのだから……!
そう考えたアンジェリカは、自らの舌を噛み切り、自害を選ぶのだった。
ところが、そんなアンジェリカに自らを「神」と名乗る美しい男が手を差し伸べる。
「君には次の神になってもらわないと困る。もう一度生き直して、ちゃんと寿命をまっとうしてきてほしい」
「だが断る」
実は、アンジェリカが自害をしたもう1つの理由は、怨霊となり自分たちを絶望に陥れたアリエル達を呪い殺すことだった……。
「とりあえず、今から無理やりに生き返らせるから、聖女にでもなればいいよ。きっと君の望み以上のことが叶うかもよ」
嫌がるアンジェリカを神が無理やり生き返らせたことで、アンジェリカの人生は王子に嫁ぐ少し前まで戻ってしまった。
こうして、アンジェリカは渋々第2の人生を歩まされることになったのだが、そこでアンジェリカは「あくまで聖女として」大きな第1歩を踏み出していく。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
異世界転生令嬢、出奔する
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です)
アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。
高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。
自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。
魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。
この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる!
外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる