下剋上を始めます。これは私の復讐のお話

4-1

「ただいまー。」

「お姉ちゃん、お帰り。今日は仕事終わるの早いね。あっ！それケーキ？やったぁー！」

「あんたさー、今日クリスマスだよ？こんな日までゲーム？お父さんとお母さんは？」

家に帰ると高校生の妹がジャージ姿でリビングのソファに寝そべっていた。


「お父さんとお母さんはデートに行った。お姉ちゃんも彼氏どうしたよ？振られたか？」

おい、妹。


「他の女とイチャイチャしてたから捨ててきた。」
あー嫌な事思い出しちゃったじゃん！


「やっぱ、現実の男はダメだね。私はこれぐらいの完璧イケメンじゃなきゃ無理。」
妹がテレビの画面を指差す。
そこには1人の女の子を囲んで微笑んでいるイケメン達がいた。


「私はこの王子一推し！でもなー、このヒロインの性格がなー。いっつも受け身でさ。ヒーローがいないと何にも出来ないんだよね。凄いイライラする。」

「じゃあ何でやってんのよ？」

「イケメン見たいからー。」

「出かけろよ、女子高生。」



いいの？行っちゃっても。
違うか、行っちゃったのはお姉ちゃんか...

ソファ越しに話していた妹が、いつの間にか私の正面に立っている。
今にも泣きそうな悲しい顔をして。

テレビもソファも消えて、私は真っ白な空間に立っていた。
忘れていた不安が、一気に私の中に帰ってくる。



何で？どうして？
どうなったの？
私はどうしたらいいの？


私は床に蹲って耳を塞いだ。


何も見たくない。
何も聞きたくない。
何も知りなくない。





「本当に？」
声が聞こえた。大きい声ではないのに、凄くはっきりと。


「本当に？こんなに頑張ってきたのに、全部捨てちゃうの？いいの？なくなっちゃうよ？」

どうして？どうしてこの声が聞こえるの？
自分の心音が、やけに大きく聞こえる。


私はゆっくり顔を上げた。

そこには、『私』がいた。

癖のない真っ直ぐな黒髪を一つに束ねた、仕事帰りのいつもの『私』が。


「リルメリア、貴女はいつだって誰かのために頑張ってきた。ずっとずっと。それはこれからも変わらない。そうでしょ？」


「リルメリア？リルメリアって、私は...」


ああ、そうか。私はもう大河理花じゃない。
私は、理花はもう、死んだんだ。

リルメリアと理花の悲しい記憶が、私を蝕んでいく。


辛い。
痛い。
怖い。



「ねえ、リルメリア。貴女はこんな所で止まる子じゃないでしょ？辛くても悲しくても貴女は進む。地面を這ってでも、手足が擦り切れても貴女は進む。」


「なんで？どうしてそんな辛い事しなきゃいけないの？もういいじゃない。」

顔を伏せて耳を塞ぐと、温かい腕に抱き締められる。


「でも、進むでしょ？私達はこの先へ。」

『私』が泣いている。そして私も同じ涙を流す。


「「戻ろう。」」
私達の声が、想いが、その時初めて重なった。