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私を取り巻いていた生徒達は、波が引くように私から遠ざかった。
さっきまであれだけ騒いでいたのに、今は誰の声も聞こえない。


「何だ...その魔法は...いや、魔法なのか?魔法陣すらなかったぞ。」
声がした方に振り向くと、ダンディーラー様が驚愕の表情で私を見ていた。

私は首を傾げたまま口角を上げた。
意趣返しのつもりで、少しだけバカにするように。


「フフ、この魔法、とっても便利なんですよ?何でも跡形もなく消せるから。ほら。」
私は手のひらが、よく見えるように開いてみせた。
すると生徒達から軽い悲鳴が上がる。

あら、完全に怖がらせてしまったみたい。これでもう近寄ってこなければいいのだけど。


「リル...」
やっと声を発したウィルに向き合うと、ウィルの瞳は絶望の色に染まっていた。

なぜ?
なぜ今更貴方がそんな顔をするの?
私を苦しめてきたのは貴方じゃない。


「どうして...」
声にならない小さな声が、私の口から漏れる。 



「ウィルフレイ様!」
私がウィルに手を伸ばしかけたその時、ダリア様が私とウィルの間に割り込むように、ウィルに抱きついた。


「ウィルフレイ様!私、怖いです。リルメリア様は嫌です。お願い助けて...」 
震えながらウィルに縋り付くダリア様の存在が私の中に諦めを齎す。

私は、ウィルから目を逸らすとドアへと向かった。
集まっていた生徒達は、次々に私に道を譲る。


さようなら


誰にも届かない言葉を、私はこの研究室に残した。







「リル?」

「あっ、はい。ごめんなさい、お父様。」

「大丈夫かい?」

「はい、私は大丈夫です。」

「ねえ、リル。貴女はやっぱり待っていてもいいのよ?私達に任せなさい。ちゃんと貴女の分まで蹴散らしてくるわ。」

「いいえ、お父様、お母様。私も行きます。」

「嫌なものを見るかもしれないよ?」

「はい、もう気にしません。」
ウィルへの気持ちは、あのペンダントと共に消してきた。
だから最後にこの結末を見届けたい。


私は机の上に置かれた王宮夜会の招待状に目を向ける。

来週に開かれる聖王国の使者達を歓迎する夜会。そこで世界各国に向けて聖女のお披露目をするそうだ。
今の王都には、招待を受けた他国の王族や大使が続々とやって来ている。
けれど、今だに聖王国はダリア様を聖女だと認めていない。
このまま本当にダリア様は聖女になれるのだろうか。私には、どうしてもそうは思えない。


「こんなギリギリで招待状を送ってくるなんて。王家はアルト家を随分と舐めてるよね。」
お父様は王家の家紋が刻印された招待状を、摘み上げてヒラヒラと振る。


「リル、第二王子には返事をした?」

「はい、アルバス様にはお断りの手紙を送りました。」
私はアルバス様からの手紙を思い出して、暗い気持ちになった。





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