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「アルト嬢、顔色が悪いですが大丈夫ですか?」
「ええ、この町が素敵で毎日出掛けていたせいかしら。でも大丈夫です。リークロン領の民のためにも頑張りますね!」
怪しまれないためにも、リークロン卿の前では、いつも通りの私を演じる。
齎された報告を聞いて、昨夜私はまともに眠ることが出来なかった。
覚悟はしていた結果だった。でも大丈夫だとどこかで思っていた。
顔色の悪さを隠すようにメイクをしてもらったけれど、誤魔化せなかったようだ。
みんなの心配そうな視線が申し訳ない。
馬車から降り、舗装された小道をしばらく歩く。すると王都の教会にも引けを取らない立派な教会が見えてきた。
「凄いですね。森の中なのに。」
「はい、我が家の自慢でもあります。この地には、かつて聖人がおいでになったのですよ。」
リークロン卿が鼻高々に語り始めた。
「え?聖人ですか?初代国王陛下のお父様の?」
「いえ、その前の聖人です。」
どういう事?この国ができる前のことなのに。
「なぜそんな事を知っている?王家にも記録はないぞ。」
アルバス様も今の発言に疑問を持ったのだろう。少し声に棘がある。
「この場所にはいくつかの資料が残っていたのです。調査を終えた後、陛下に報告するつもりでした。」
そんな大事な報告をリークロン卿は、悪びれる様子もなく飄々と告げた。
「さあ、中へどうぞ。」
リークロン卿の笑顔がどこか薄ら寒い。
私達は教会の中へ入ると、広い礼拝堂をゆっくりと歩いた。何かが違う、そんな違和感に恐怖が足元から這い上がってくる。
私の不安に気付いたアルバス様が、私に手を差し出した。まるで励ますように。
私はその温かな手を取ると、ここで待つ護衛のみんなに声を掛けた。
「行ってきます。」
その言葉は自然と私の足を前に踏み出させてくれた。
私とアルバス様がひんやりした地下へ降りると、そこにもネリテンス領の教会と同様、大きな扉があった。
でもその扉には無数の傷跡が刻まれていた。
「この傷は何でしょう?爪痕のようですが。」
「ああ、でもそんな報告は受けていない。」
アルバス様が持つ聖火が入ったランプに反応したのか、その扉はゆっくりと消えていった。
「なぜだ?私はまだ何も。」
アルバス様は眉間に皺を寄せてランプを見ている。
私もアルバス様の横でランプの不具合を探っていると、ふわっとした甘い香りが鼻に届いた。その香りに誘われ、顔を向けると、驚愕の光景に私は声を失う。
私が感じていた違和感の正体がそこにあった。
どうして...
「ア、アルバス様!」
私はアルバス様の腕を掴んで、何とか声を出す。
階段から石畳が続くその部屋は、真っ白な花が咲き乱れていた。壁や天井にまで蔦が伝い、花が覆っている。
窓一つない地下の部屋で、その花は風に舞うように揺れていた。
「聖火が!」
アルバス様が部屋に駆け入ると聖火台と思える場所へ近付く。
そこにあるべき聖火は無く、その台さえも花に覆われていた。
「綺麗でしょう、アルト嬢?」
急に現れた気配に、私はその場から飛び退いた。
「ええ、この町が素敵で毎日出掛けていたせいかしら。でも大丈夫です。リークロン領の民のためにも頑張りますね!」
怪しまれないためにも、リークロン卿の前では、いつも通りの私を演じる。
齎された報告を聞いて、昨夜私はまともに眠ることが出来なかった。
覚悟はしていた結果だった。でも大丈夫だとどこかで思っていた。
顔色の悪さを隠すようにメイクをしてもらったけれど、誤魔化せなかったようだ。
みんなの心配そうな視線が申し訳ない。
馬車から降り、舗装された小道をしばらく歩く。すると王都の教会にも引けを取らない立派な教会が見えてきた。
「凄いですね。森の中なのに。」
「はい、我が家の自慢でもあります。この地には、かつて聖人がおいでになったのですよ。」
リークロン卿が鼻高々に語り始めた。
「え?聖人ですか?初代国王陛下のお父様の?」
「いえ、その前の聖人です。」
どういう事?この国ができる前のことなのに。
「なぜそんな事を知っている?王家にも記録はないぞ。」
アルバス様も今の発言に疑問を持ったのだろう。少し声に棘がある。
「この場所にはいくつかの資料が残っていたのです。調査を終えた後、陛下に報告するつもりでした。」
そんな大事な報告をリークロン卿は、悪びれる様子もなく飄々と告げた。
「さあ、中へどうぞ。」
リークロン卿の笑顔がどこか薄ら寒い。
私達は教会の中へ入ると、広い礼拝堂をゆっくりと歩いた。何かが違う、そんな違和感に恐怖が足元から這い上がってくる。
私の不安に気付いたアルバス様が、私に手を差し出した。まるで励ますように。
私はその温かな手を取ると、ここで待つ護衛のみんなに声を掛けた。
「行ってきます。」
その言葉は自然と私の足を前に踏み出させてくれた。
私とアルバス様がひんやりした地下へ降りると、そこにもネリテンス領の教会と同様、大きな扉があった。
でもその扉には無数の傷跡が刻まれていた。
「この傷は何でしょう?爪痕のようですが。」
「ああ、でもそんな報告は受けていない。」
アルバス様が持つ聖火が入ったランプに反応したのか、その扉はゆっくりと消えていった。
「なぜだ?私はまだ何も。」
アルバス様は眉間に皺を寄せてランプを見ている。
私もアルバス様の横でランプの不具合を探っていると、ふわっとした甘い香りが鼻に届いた。その香りに誘われ、顔を向けると、驚愕の光景に私は声を失う。
私が感じていた違和感の正体がそこにあった。
どうして...
「ア、アルバス様!」
私はアルバス様の腕を掴んで、何とか声を出す。
階段から石畳が続くその部屋は、真っ白な花が咲き乱れていた。壁や天井にまで蔦が伝い、花が覆っている。
窓一つない地下の部屋で、その花は風に舞うように揺れていた。
「聖火が!」
アルバス様が部屋に駆け入ると聖火台と思える場所へ近付く。
そこにあるべき聖火は無く、その台さえも花に覆われていた。
「綺麗でしょう、アルト嬢?」
急に現れた気配に、私はその場から飛び退いた。
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