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 アーレント王国の王都の木々が緑から黄色に変わり始め、可愛い実を付けだした。長雨の続いた晩夏から秋に入る頃、国王陛下から国民へ向けて聖火の分火が告知された。
そして同時に招火の儀の使節団の一員も発表された。




「ご機嫌よう、リルメリアさん。浄化の乙女に選ばれた貴女に神の祝福がありますように。」

「ありがとうございます、レイラ夫人。レブロン公爵家には多大なご支援を頂き、感謝申し上げます。」

「あらあら、いいのよ。娘の大切なお友達だもの。」

私とレイラ夫人の会話をお茶会参加者達が、遠巻きに窺っている。

国王陛下の発表直後は予想通り、婚約者のいる私が第2王子と招火の儀を行うことに反対する声が上がっていた。
そこでレブロン公爵家には、私の後ろ盾になってもらった。それ以来、あからさまに批判してくる人は減った。
それでもまだ公の場は気が重い。

こちらに近付いてくる集団を横目に、私は小さく溜息を吐いた。


「ご機嫌いかがですか?レブロン夫人、アルト嬢。」

「ディナータ侯爵夫人、ネルバ子爵夫人、久しぶりね。令嬢達も素敵なレディになったわね。」

「ふふ、ありがとうございます。私達もご一緒しても?私の娘のリノアーノが、ぜひアルト嬢とお話ししたいみたいで。」
ディナータ侯爵夫人の隣にいる黒髪の妖艶な美女と目が合った。

「あら、そうなの?でも、リルメリアさんの紹介はまた今度でいいかしら?先約があるのよ。」

「それは残念ですわ。婚約者がいながら、王族にまで手を出す恥知らずの令嬢に、ご忠告申し上げようと思いましたのに。」
今まで黙っていたネルバ子爵夫人が、声を張り上げて周りの注目を集める。

「あら、そんな事言っては駄目よ。」
ディナータ侯爵夫人は、ネルバ子爵夫人を諌めながらも令嬢と共に笑っている。
周りからも騒めきの中に笑い声が聞こえた。穏やかなお茶会が一瞬で、私への中傷の場に変わった。

「はあ、貴女達。」
怒りを抑えた声で呟いたレイラ夫人の肩に手を置いて、私は首を横に振る。
そしてゆっくり立ち上がって、腰を落とし頭を下げた。

「初めまして、ディナータ侯爵夫人、ネルバ子爵夫人。私はこの度、アルト商会副会長として第2王子殿下と共に招火の儀に参加することとなりました。まだ私には至らない点が多々あるとは思いますが、この国の平穏のため、精一杯頑張ろうと思います。」
私は、にっこり笑って余裕の態度を示す。この程度なんともない。

「副会長?」
リノアーノ嬢が怪訝な顔で私を見た。

「ええ、ディナータ領では魔物対策に我が商会の結界魔道具をご利用頂いておりますよね?ネルバ領でも度々回復薬を購入いただいております。その魔道具も魔法薬も私が開発致しました。今は招火の儀に合わせて、新たなインフラ事業の開発を行っておりますの。それは間違いなく人々の生活をより良く変えていくでしょう。皆様もアルト商会の発表をお楽しみに。」

お茶会参加者が一様に手を止め、こちらに注目している。
私は周りの人達に向けてにっこりと微笑む。私の前にいる4人に、貴女達なんて眼中にないと伝わるように。


「ふふ、レブロン家もアルト商会の新事業に出資しているのよ。若き副会長の素晴らしい才能は我がレブロン公爵家が保証するわ。」
レイラ夫人の言葉に会場が一気にざわついた。

「あら?貴女達はそんなアルト商会を敵に回すのね。」
レイラ夫人の呟きに、顔色を失ったディナータ侯爵夫人とネルバ子爵夫人は、令嬢を連れて早足にその場を離れて行った。










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