上 下
93 / 308

3-6

しおりを挟む
 朝からずっと頭が痛い。
こめかみを押しているとウィルがサロンに入ってきた。

「リル、大丈夫?体調があまり良くないって聞いたよ?行くのやめる?」

「ありがとう、ウィル。大丈夫よ。」
今日は聖火祭の最終日、王宮夜会の参加は貴族の義務だ。この程度の頭痛で欠席する訳にはいかない。

「昨日は最後までエスコート出来なくてごめんね。」

「大丈夫よ。ねえ、ウィル。少しだけ肩を貸してくれないかしら?」

「うん。おいで。」
私はウィルの肩に頭を寄せる。

「まだ少し時間があるから眠るといいよ。」

「ありがとう。」
私は安心する体温を感じながらゆっくりと目を閉じた。








「あの、私。ごめんなさい。こんなつもりじゃなかったの。でもウィル様が...」

「えっと、貴女は?」
私の前に1人の少女が震えながら俯いている。
泣いているのだろうか。

「ウィル様が私のこと好きになってくれたの。だからごめんなさい。」

「ウィルが?貴女何を言っているの?」

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」

「ちょっと...」
少女の手が私の腕に触れる。
顔を上げた少女の特徴的な真紅の瞳が私を射抜いた。





「リル、リル!」

眩しい。
目を開けるとウィルの焦った顔が近くにあった。

「大丈夫⁈うなされてた。」
ウィルが私の額を撫でる。私はその優しい温もりに無意識に擦り寄った。

「夢を見ていたみたい。」
でも覚えていない。嫌な夢だった気がする。

「やっぱり夜会に行くのやめる?」

「ありがとう、心配してくれて。でも大丈夫よ。無理はしないわ。」

「分かった。ずっと側にいるから、辛くなったらすぐに言うんだよ。」

「ええ、約束する。」
私は悪夢を振り払うように、もう一度瞳を閉じた。




 初めて参加した王宮の夜会は、その全てが煌びやかで美しかった。
細部に渡る装飾だけでなく、参加者や給仕に至る全てのものが計算され、この空間が完成していた。

「素敵...」

「そう?眩しいだけじゃない?この中でリルが1番綺麗だと思うよ。」

嬉しいけれど、私より貴方の方が綺麗だと思う。
さっきから周りの視線がすごい。私がここを離れたら、あっという間にウィルは美しい花に囲まれるだろうな。

私はウィルを上から下まで眺めた。
今日のウィルの正装は私とお揃いだ。お互い黒を基調とした大人っぽいデザイン。
鮮やかな色のドレスを纏う人達の中に、敢えて、シックなペアのデザインで目立つ作戦だ。

今回のこの服もお母様とアンネお義母様がドレス工房に入り浸って考えたものだった。

私のドレスには装飾は少ないものの、金糸をふんだんに使って刺繍が施されている。そして、ウィルの胸元には私の瞳と同じ、複雑な色合いのオニキスが輝いていた。
ウィルは黒が良く似合う。
この服のデザインは私よりウィルの方が似合っているんだろうな。
少しだけ敗北感を味わっていると、ウィルに顔を覗き込まれた。



「リル。リルの考えている事は何となく分かるけど、間違いだよ。皆んなが見ているのは、君だ。まあ、離れるつもりはないから大丈夫だけどね。もう失敗はしないよ。」

「ウィル、失敗なんてした?」

「うん。前回大失敗したよ。」

「そう?」

会話の途中で会場が一気に静まり返る。
私達も壇上に向かって頭を下げた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です) アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

あくまで聖女ですので、以後お見知り置きを

和泉杏咲
ファンタジー
2023年3月12日 HOTランキング(女性向け)1位 2023年3月13日 ファンタジーランキング 1位  ありがとうございました……(涙) 妹への復讐のために自殺して怨霊になりたかっただけなのに、なぜか二度目の人生では聖女として修行させられています。 「あいつらを呪い殺すには怨霊になるしかないわ」 「とりあえず聖女になりなさいよ」 「だが断る」 「………………」 アンジェリカはかつて、ソレイユ王国の王子妃だった。 だが、アンジェリカが嫁いだ第1王子ルイには側室がいた。 彼女の名前はアリエル。アンジェリカの腹違いの妹だった。 常に妹と比べられ、惨めな思いをしていたアンジェリカは、唯一王子の妃に選ばれ、民に尽くすことで生きがいを感じていた。 ところが、そんなアンジェリカをアリエルは決して見逃してくれやしなかったのだ。 アリエルがルイの子供を妊娠した直後、アンジェリカとのお茶会が原因でアリエルが流産してしまった。 「王の血を受け継ぐものを殺したものは、例え誰であろうと処刑する」 そのため、アンジェリカやお茶会の準備をした大事な侍女のコレット、そしてアンジェリカを庇った実の母親が絞首刑となってしまった。 目の前で大切な人の命を奪われたアンジェリカ。とうとう自分の番になった時、アリエルの真の企てに気づいた。 アリエルは自分が正妃になるために、わざと自分で毒を飲んで流産し、アンジェリカが処刑されるように動いたのだった。 真実に気づいたアンジェリカは、その場で叫ぶ。 「あなたなんかにこれ以上、私の命を自由になんかさせない!!」 生きている間は、他人の意のままに操られた。 死ぬ時くらいは、自分の意思で死にたい。 生まれる時には、場所も家族も選べないのだから……! そう考えたアンジェリカは、自らの舌を噛み切り、自害を選ぶのだった。 ところが、そんなアンジェリカに自らを「神」と名乗る美しい男が手を差し伸べる。 「君には次の神になってもらわないと困る。もう一度生き直して、ちゃんと寿命をまっとうしてきてほしい」 「だが断る」 実は、アンジェリカが自害をしたもう1つの理由は、怨霊となり自分たちを絶望に陥れたアリエル達を呪い殺すことだった……。 「とりあえず、今から無理やりに生き返らせるから、聖女にでもなればいいよ。きっと君の望み以上のことが叶うかもよ」 嫌がるアンジェリカを神が無理やり生き返らせたことで、アンジェリカの人生は王子に嫁ぐ少し前まで戻ってしまった。 こうして、アンジェリカは渋々第2の人生を歩まされることになったのだが、そこでアンジェリカは「あくまで聖女として」大きな第1歩を踏み出していく。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...