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「お父様、お母様、只今戻りました。」
「お帰り、リル。お疲れ様。」
王都のアルト邸に帰宅した私を両親と使用人達が温かく迎えてくれた。
王都への旅路はウィルとリングドン夫妻も一緒だった。
アルト家の人員に、リングドン家の随行者が加わった復路は、予想以上に大人数での移動となった。その為、移動には時間も労力もかかった。けれど、先々の町でウィルと過ごせたのは楽しかった。
リングドン夫妻も私を家族のように扱ってくれた。
幸せな時間を過ごしながら、私は無事に我が屋へと帰ってきた。
「リル、本当にお疲れ様。よく頑張ったね。」
「ええ、流石は私達の子だわ。」
「でもちょっとお転婆が過ぎたかな?」
「あの、はい。ごめんなさい。」
お父様の執務室で、私はリングドン領での出来事を報告していた。
お父様の手には分厚い報告書が握られてる。私はジト目でお父様の背後に控えるヘンリーを見た。
「魔法薬か。中々面白い物を作ったね。これはディレイル君に頑張ってもらおうかな。ギルドと連携すれば、早い内に発表出来るかもしれないね。」
「それは良かったです。」
「ただね。問題はこっちの魔法薬なんだ。これはリルにしか作れないんだよね?」
お父様は妖精と作った薬を摘み上げて、まじまじと観察している。
「リル、これは保留!」
「そうなりますよね。」
「ヘンリー、この薬は全て保留にしといて。厳重にね!」
我が家にある厳重管理の保留物保管庫。通称保留部屋。
ここには私が作った、まだ世に出せないものが保管されている。
そしてまた増やしてしまった。
「はあ。私はね、リルにはお説教が必要かなと思うんだけど。それよりも優先すべき件が出来ちゃったんだよね。」
急に頭を抱えたお父様の肩に、お母様が優しく触れる。
「うふふ。リル良かったわね。」
お母様が取り出した手紙にはリングドン家の家紋があった。
「リル、まだ考え直せるよ。私はまだ、リルに婚約者は早いと思うんだ。」
「あらあら、でも良い縁だと思うわよ。評判も良い子なのでしょう?」
「いや、あれはどちらかと言えば...」
「でもこの先、リルを守ってくれる人は必要よ?リルの才能をいつまでも隠し通せる訳ではないでしょう?」
「それは...」
「寂しいのは分かるけれど、子爵家の三男なら婿に貰っちゃえばいいじゃない。リルがお嫁に行かなくて済むわよ。」
駄々を捏ねるお父様をお母様が優しく諭す。お母様頑張って!
「あとはリルの気持ち次第じゃないかしら?ねえ、リル?」
「お父様、私、ウィルがいいです。」
「リル...」
「私は、お父様とお母様のような素敵な夫婦になりたいんです。」
私は今にも泣き出しそうなお父様にあざとくお願いした。
お父様は崩れるようにぐったりと俯く。
「分かった。彼の求婚を受け入れよう。」
「おめでとう、リル。ふふ、ウィルフレイ君に会えるのが楽しみだわ。」
「味方になってくれてありがとうございます、お母様。」
「ふふ。だって彼から丁寧に手紙を貰ってしまったんだもの。これじゃあ受け入れない訳にはいかないでしょう?」
お母様はもう1通の手紙を私に見せてくれた。
それは、ウィルからお母様に宛てた、お願いの手紙だった。
「あいつ!」
俯いているお父様から、聞いたこともない低い声が唸るように響いた。
「お帰り、リル。お疲れ様。」
王都のアルト邸に帰宅した私を両親と使用人達が温かく迎えてくれた。
王都への旅路はウィルとリングドン夫妻も一緒だった。
アルト家の人員に、リングドン家の随行者が加わった復路は、予想以上に大人数での移動となった。その為、移動には時間も労力もかかった。けれど、先々の町でウィルと過ごせたのは楽しかった。
リングドン夫妻も私を家族のように扱ってくれた。
幸せな時間を過ごしながら、私は無事に我が屋へと帰ってきた。
「リル、本当にお疲れ様。よく頑張ったね。」
「ええ、流石は私達の子だわ。」
「でもちょっとお転婆が過ぎたかな?」
「あの、はい。ごめんなさい。」
お父様の執務室で、私はリングドン領での出来事を報告していた。
お父様の手には分厚い報告書が握られてる。私はジト目でお父様の背後に控えるヘンリーを見た。
「魔法薬か。中々面白い物を作ったね。これはディレイル君に頑張ってもらおうかな。ギルドと連携すれば、早い内に発表出来るかもしれないね。」
「それは良かったです。」
「ただね。問題はこっちの魔法薬なんだ。これはリルにしか作れないんだよね?」
お父様は妖精と作った薬を摘み上げて、まじまじと観察している。
「リル、これは保留!」
「そうなりますよね。」
「ヘンリー、この薬は全て保留にしといて。厳重にね!」
我が家にある厳重管理の保留物保管庫。通称保留部屋。
ここには私が作った、まだ世に出せないものが保管されている。
そしてまた増やしてしまった。
「はあ。私はね、リルにはお説教が必要かなと思うんだけど。それよりも優先すべき件が出来ちゃったんだよね。」
急に頭を抱えたお父様の肩に、お母様が優しく触れる。
「うふふ。リル良かったわね。」
お母様が取り出した手紙にはリングドン家の家紋があった。
「リル、まだ考え直せるよ。私はまだ、リルに婚約者は早いと思うんだ。」
「あらあら、でも良い縁だと思うわよ。評判も良い子なのでしょう?」
「いや、あれはどちらかと言えば...」
「でもこの先、リルを守ってくれる人は必要よ?リルの才能をいつまでも隠し通せる訳ではないでしょう?」
「それは...」
「寂しいのは分かるけれど、子爵家の三男なら婿に貰っちゃえばいいじゃない。リルがお嫁に行かなくて済むわよ。」
駄々を捏ねるお父様をお母様が優しく諭す。お母様頑張って!
「あとはリルの気持ち次第じゃないかしら?ねえ、リル?」
「お父様、私、ウィルがいいです。」
「リル...」
「私は、お父様とお母様のような素敵な夫婦になりたいんです。」
私は今にも泣き出しそうなお父様にあざとくお願いした。
お父様は崩れるようにぐったりと俯く。
「分かった。彼の求婚を受け入れよう。」
「おめでとう、リル。ふふ、ウィルフレイ君に会えるのが楽しみだわ。」
「味方になってくれてありがとうございます、お母様。」
「ふふ。だって彼から丁寧に手紙を貰ってしまったんだもの。これじゃあ受け入れない訳にはいかないでしょう?」
お母様はもう1通の手紙を私に見せてくれた。
それは、ウィルからお母様に宛てた、お願いの手紙だった。
「あいつ!」
俯いているお父様から、聞いたこともない低い声が唸るように響いた。
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