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 ウィルの腕の中で気持ちを落ち着かせた私は、恐る恐る顔を上げる。

「何もかもあなたのせいよ。あなたが来なければ、私はウィルフレイ様と結婚してこの薬草園の女主人になれたのに。」
リリーさんのか細い声が私達の耳に届く。
地面に座り込んでいたリリーさんの目はどこか虚ろだった。

「リリー、リルがいなくてもそれはないよ。僕はね、マリード夫人がやっていたことを知ってるんだ。君も一緒にやっていたでしょ?」
リリーさんの肩がビクリと跳ねる。

「でもね、僕はケイルの父上に対する忠誠心に免じて黙認していたんだよ。」

「ウィルフレイ様、いったい何のことですか?」
黙って下を向いていたマリード所長が顔を上げてウィルに問う。

「君の妻と娘はね、薬草園の予算を横領していたんだ。自分達の都合の良い味方を作るためにね。大方、リリーが僕の妻になれば横領がバレても問題ないと思っていたんだろうね。」

「そんなまさか。」

「家族が大事なのは分かるけど、盲目過ぎたね。娘に騙されてリングドン家にとって大切な客人に危害を加えるなんて。もう処分は免れないよ。」

マリード所長は崩れ落ちるようにその場に座り込んでしまった。

「お、お父様。」

「君も覚悟してね。」
リリーさんは絶望に震えながら最後までウィルを見つめていた。



「リルメリア!」
必死の形相で駆け寄ってきたデルが私の腕を掴んだ。

「デル!」

「リルメリア、良かった!出られたんだな。怪我はしてないか?無事なんだな?」

「うん。大丈夫だよ。色々手伝ってくれてありがとう、デル。」
デルとリーン先生を私の我儘に巻き込んでしまった。ちゃんと謝罪とお礼を伝えないと。

「デル、君にはリルを止めて欲しかったよ。」
ウィルがデルに掴まれた私の腕を引き寄せた。

「申し訳ありません、ウィルフレイ様。でも俺はリルメリアの味方でありたいので、今後も同じ事をすると思います。」
一歩下がったデルと目線が合う。私はその真剣な眼差しから目を逸らすことが出来なかった。

「リル。とりあえず本邸へ帰ろうか。母上に報告もあるしね。」
不穏な空気を放つウィルに、私の背筋が震える。私は無意識に首を縦に振っていた。




「お帰りなさい、ウィル。ちゃんとお姫様を助け出したのね!やだ!素敵!」
リングドン家の本邸に着くとドアから飛び出して来たアンネ夫人に抱きしめられた。

「はあ、母上。」
ウィルは遠い目で夫人を見ている。

「ウィルったら、リルメリアさんのこと心配で心配で護衛も振り切って帰ってきちゃったのよ!流石よね!私もこうしちゃいられないわ。これは本にしなくちゃ!リルメリアさん、後で詳しくお話聞かせてね!」
チュッと私の額に口付けを落として夫人は侍女と共に小走りで邸に戻っていった。

「母上!本って何ですか⁈リル、母上を止めてくるから部屋に戻ってて!」
ウィルはそう言い残すと夫人を追いかけていった。

「お嬢様、お部屋にお茶を用意いたしますね。」
今の遣り取りを見ても通常通りの侍女に続いて、私は部屋に戻った。







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