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「もう目を開けて大丈夫だよ。」
ウィルの声に、こわばっていた体から力が抜ける。
先程感じた浮遊感はもう感じられなかった。
「無事で良かった。これがリルの居場所を教えてくれたんだよ。」
ウィルが私の胸元のペンダントを指差した。
「助けに来てくれてありがとう、ウィル。」
「心配したよ。見つけられて良かった。」
ウィルは私をもう一度強く抱きしめた。
ウィルの背に手を回して、ふと我に帰る。
あれ?ちょっと待って、私今何してるの?
私の体が一気に真っ赤に染まる。
「ウィ、ウィル!?」
「リル?どうかした?具合悪い?」
「大丈夫!大丈夫なんだけどね。ちょっとね。あのね。」
なんて言ったらいいのか分からないけれど、とにかく恥ずかしい。
挙動不審な私を見て、ウィルは声を出して笑いはじめた。
「ちょっと、ウィル酷い!」
「だって、リルすごい表情変わるんだもん。フフ。ごめんちょっと待って。」
ウィルは私を抱きしめたまま、横を向いて笑い続けている。
すごい腹正しい。私はウィルを睨みつけた。
「ごめんね、リル。そんなに怒らないで。最近のリル、僕によそよそしかったでしょ。だからいつものリルに戻ってくれて嬉しいんだよ。」
最近の私の態度がウィルを困らせていたんだろうか。私の怒りの感情が急激に萎んでいく。
「ごめんなさい、ウィル。私ね、リリーさんと仲良くしてるウィルを見ていたら嫌な気持ちになっちゃって。自分でもよく分からないんだけど、ウィルの顔を見て話せなくなっちゃったの。」
私は今までの態度をウィルに謝罪する。
「本当に!?」
ウィルは私の両肩を掴むと、顔を覗き込んできた。
さっきまで笑っていたウィルの豹変に私はビックリして何も出来ない。
「やっと僕を意識してくれたのか?でもリルだからあんまり期待も出来ないし、」
ウィルが下を向いてぶつぶつ言っている。
本当にウィルの行動が分からない。
「あの、ここってどこなのかな?さっきまでいた所と違うよね?」
私は、変な行動をとっているウィルに恐る恐る声を掛けた。
「ここは、本邸の裏庭。さっきまでリルがいた所は薬草園の隣の森の中だよ。」
「え?さっき感じたのってやっぱり転移魔法?ウィルって転移魔法使えたの?」
「ああ、あれはルーイ先生の転移魔法だよ。リルに何かあった時のためにって、これを渡されたんだ。」
ウィルの手には色を失った魔鉱石があった。
「この魔鉱石で転移魔法を使えるようにしてくれたんだ。まだ近距離しか飛べないのと、予め運べる人が限定されるって制限があるらしいけど。」
私は魔鉱石を受取り、月に翳してまじまじと観察する。けれど、夜だから暗くてよく見えない。あとで魔法の痕跡を探ってみよう。
それにしてもさすがは、主席宮廷魔法士様。帰ったらちゃんとお礼を言わないと。
「リルは人だけじゃなくて、妖精も惹きつけちゃったね。」
「やっぱりあの光の玉は妖精なの?」
「僕も初めて見たけど、妖精で間違いないと思うよ。ラフィールの花畑にいたしね。」
「あの白く光ってた花がラフィール?」
「そうだよ。昼間に太陽の光を吸収して夜に光るんだ。浄化の作用があるんだよ。」
「じゃあ私は妖精に誘われたのね。でもどうしてあそこにいたのか、よく覚えていないの。」
あの時は夢を見ていたような不思議な感覚だった。でも記憶は曖昧でどうやってあの場に行ったのか自分でも分からない。
「大丈夫だよ。また攫われても僕が助けに行くから。」
「ありがとう、ウィル。」
「帰ろう。みんなも心配してる。」
私は差し出されたウィルの手を取って、邸へと歩き出した。
この手の温もりが帰って来たのだと安心させてくれた。
ウィルの声に、こわばっていた体から力が抜ける。
先程感じた浮遊感はもう感じられなかった。
「無事で良かった。これがリルの居場所を教えてくれたんだよ。」
ウィルが私の胸元のペンダントを指差した。
「助けに来てくれてありがとう、ウィル。」
「心配したよ。見つけられて良かった。」
ウィルは私をもう一度強く抱きしめた。
ウィルの背に手を回して、ふと我に帰る。
あれ?ちょっと待って、私今何してるの?
私の体が一気に真っ赤に染まる。
「ウィ、ウィル!?」
「リル?どうかした?具合悪い?」
「大丈夫!大丈夫なんだけどね。ちょっとね。あのね。」
なんて言ったらいいのか分からないけれど、とにかく恥ずかしい。
挙動不審な私を見て、ウィルは声を出して笑いはじめた。
「ちょっと、ウィル酷い!」
「だって、リルすごい表情変わるんだもん。フフ。ごめんちょっと待って。」
ウィルは私を抱きしめたまま、横を向いて笑い続けている。
すごい腹正しい。私はウィルを睨みつけた。
「ごめんね、リル。そんなに怒らないで。最近のリル、僕によそよそしかったでしょ。だからいつものリルに戻ってくれて嬉しいんだよ。」
最近の私の態度がウィルを困らせていたんだろうか。私の怒りの感情が急激に萎んでいく。
「ごめんなさい、ウィル。私ね、リリーさんと仲良くしてるウィルを見ていたら嫌な気持ちになっちゃって。自分でもよく分からないんだけど、ウィルの顔を見て話せなくなっちゃったの。」
私は今までの態度をウィルに謝罪する。
「本当に!?」
ウィルは私の両肩を掴むと、顔を覗き込んできた。
さっきまで笑っていたウィルの豹変に私はビックリして何も出来ない。
「やっと僕を意識してくれたのか?でもリルだからあんまり期待も出来ないし、」
ウィルが下を向いてぶつぶつ言っている。
本当にウィルの行動が分からない。
「あの、ここってどこなのかな?さっきまでいた所と違うよね?」
私は、変な行動をとっているウィルに恐る恐る声を掛けた。
「ここは、本邸の裏庭。さっきまでリルがいた所は薬草園の隣の森の中だよ。」
「え?さっき感じたのってやっぱり転移魔法?ウィルって転移魔法使えたの?」
「ああ、あれはルーイ先生の転移魔法だよ。リルに何かあった時のためにって、これを渡されたんだ。」
ウィルの手には色を失った魔鉱石があった。
「この魔鉱石で転移魔法を使えるようにしてくれたんだ。まだ近距離しか飛べないのと、予め運べる人が限定されるって制限があるらしいけど。」
私は魔鉱石を受取り、月に翳してまじまじと観察する。けれど、夜だから暗くてよく見えない。あとで魔法の痕跡を探ってみよう。
それにしてもさすがは、主席宮廷魔法士様。帰ったらちゃんとお礼を言わないと。
「リルは人だけじゃなくて、妖精も惹きつけちゃったね。」
「やっぱりあの光の玉は妖精なの?」
「僕も初めて見たけど、妖精で間違いないと思うよ。ラフィールの花畑にいたしね。」
「あの白く光ってた花がラフィール?」
「そうだよ。昼間に太陽の光を吸収して夜に光るんだ。浄化の作用があるんだよ。」
「じゃあ私は妖精に誘われたのね。でもどうしてあそこにいたのか、よく覚えていないの。」
あの時は夢を見ていたような不思議な感覚だった。でも記憶は曖昧でどうやってあの場に行ったのか自分でも分からない。
「大丈夫だよ。また攫われても僕が助けに行くから。」
「ありがとう、ウィル。」
「帰ろう。みんなも心配してる。」
私は差し出されたウィルの手を取って、邸へと歩き出した。
この手の温もりが帰って来たのだと安心させてくれた。
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