上 下
48 / 308

2-35

しおりを挟む
「デル、今のはどうだった?」

「前のよりは良くなってるけど、回復速度はまだ遅いな。薬草を買えてみるか?」

「うーん。でも薬草同士の相性もあるんだよね?これ以上の組み合わせってあるのかな?」

 私とデルは実験室に籠って回復薬の研究に没頭していた。
リーン先生がリングドン子爵に話を通してくれたおかげで、この期間のデルの仕事は免除になった。

「あー。ストックしてた薬草がなくなってきたな。ちょっと取りに行ってくる。」

「あっ本当だね。私も手伝うよ?」

「いや、俺だけで大丈夫だ。ちょっと待っててくれ。」

「ありがとう。よろしくね。」

 デルの魔法のセンスは予想以上だった。薬の効能を上げるために、精製過程で水と光の融合魔法を使った。デルは自身が特化してる属性とは言え、感覚を掴むとすぐに出来るようになった。元々無意識的に水魔法に光属性の魔力を混ぜて薬草の手入れをしていたのだろう。
そして今は、回復効果が出る時間を短縮するため、高濃度の魔力を注ぎ込むことに挑戦している。しかしまだ満足のいく結果は出ていない。


トントン

「リル、今大丈夫?入ってもいい?」
ノック音が響いた後、ウィルがドアの隙間から顔を出した。

「うん。ウィル、お仕事は?今は休憩中?」
最近私は忙しさを言い訳にしてウィルとゆっくり話をしていなかった。
息抜きにウィルを休憩に誘おうと私はドアの方へと歩き出す。しかし、ドアの隙間から見えた光景に私の足が止まった。
ウィルの横には彼の腕を掴んだリリーさんがいた。

「ウィルフレイ様、リルメリア様の邪魔になってしまいますよ。」

「ごめんね、忙しかったかな?」  

「えっと、今はちょっと忙しいかな。」
私はウィルの側にいるリリーさんをこれ以上見ていたくなくて、咄嗟に嘘をついてしまった。
こんな気持ちになる自分がよく分からない。

「そっか。あんまり無理しないでね。晩餐は一緒に取ろう。」

「ウィルフレイ様、戻って休憩しましょう。私お茶を入れますね。」
リリーさんはウィルを引っ張るようにしてドアを閉めてしまった。



 最近私の中に生まれたモヤモヤした感情の所為でウィルと上手く向き合えない。
ウィルも子爵に頼まれた薬の製作で忙しいようだ。
私の中の感情が苛立っているのが分かる。でも上手くコントロールが出来ない。

「はあ。」
私はため息を吐いて、実験室を出た。
このままここにいても何も出来ない。
私は薬草を取りに行ったデルを追いかけることにした。





 室内から外に出ると森の近くだからか少しだけひんやりとした空気を感じた。
少し辺りを見回してみてもデルは見当たらなかった。
私は何となしに薬草園の小道を歩き出した。




「こっちだよ。」
微かに声が出て聞こえた。

「こっち、こっち」

「いいもの見せてあげる。」

「だからおいで。」

「おいで、おいで。」

声の先、行ってはいけないと分かっていても、私は抗うことが出来なかった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です) アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞〜癒し系ほっこりファンタジー賞〜受賞作品】 2022/7/29発売❣️ 2022/12/5【WEB版完結】2023/7/29【番外編開始】 ​───────『自分はイージアス城のまかない担当なだけです』。 いつからか、いつ来たかはわからない、イージアス城に在籍しているとある下位料理人。男のようで女、女のようで男に見えるその存在は、イージアス国のイージアス城にある厨房で……日夜、まかない料理を作っていた。 近衛騎士から、王女、王妃。はてには、国王の疲れた胃袋を優しく包み込んでくれる珍味の数々。 その名は、イツキ。 聞き慣れない名前の彼か彼女かわからない人間は、日々王宮の贅沢料理とは違う胃袋を落ち着かせてくれる、素朴な料理を振る舞ってくれるのだった。 *少し特殊なまかない料理が出てきます。作者の実体験によるものです。 *日本と同じようで違う異世界で料理を作ります。なので、麺類や出汁も似通っています。

処理中です...