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第1章 パワーショベルウィザード

1.〈 06 〉

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 まだ放心状態でいるアタシ。この固いチェアのせいでお尻も痛い。
 デジタルフォトフレームで〈PageOn〉を操作して、短編形式の小説を表示させる。これはちゃんと読める。結合処理しなかったからね。
 力技で1つにまとめた連載作品についても、いくつか選んで確かめる。どれにも異常は見つからない。
 これで猪野さんのプログラムの有罪が確定。なにが〈正常終了〉だ、ざけんな!

「救われたのは、せいぜい200作品……、この大災害でも、そやつらだけは方舟状態ってか? ははは、と笑ったところで楽しくもない」

 パソコンを終了させる。デジタルフォトフレームもシャットダウン。
 このままアタシの心臓も活動停止……、とそこまではさすがにねえ。ていうか、死んでたまるか!
 悲劇をもたらしたUSBメモリが目につく。バキッと真っ2つにしてやりたい気分だけど、力も出てこない。こいつ自体が悪いわけじゃない。だから引っこ抜いてハンドバッグに入れる。
 立ちあがりデジタルフォトフレームも持ち、自分の部屋へ置きに行く。

「さあて、風呂だな」

 脱衣所へ行き、服を脱ぎながらため息をつく。
 アタシって今まで、1番いいと認定してる下着を選んだ日は、どうしてだかイヤなことがあるよなあ? 特に今日のは最悪だったわ。やっぱりアタシは薄幸の絶世美女なのね……。

 お風呂を終えて、いつものくつろぎスタイルでリビングへ行く。
 お父さんがいて、テレビは『日曜洋画ショー』をやっている。今夜のは、アタシとトンコが観たやつのシリーズ第1作。

「お帰り~」
「おお正子、デートはどうだった?」
「デートじゃないし! ていうか外メシに行くのに、なんでアタシだけ置いてけぼりにすんのよ!」
「7時過ぎるまでは待ってたんだ」
「電話とかメールとかあるでしょ?」
「以前デート中のお前にかけたら『そんな用事ぐらいで連絡してこないでよ!』とかいって怒ったことあっただろ?」

 あったわ。1番いい下着の日だったからよく覚えてる。

「そういう日もあるけど、でも今日は違ったの! そもそもなんでデートだって決めつけてんの?」
「お前、出かけるとき『デートじゃない』とはいわなかったんだろ? 正男が『姉ちゃん気合い入れてたから、たぶん夜中までは帰らないよ』とか話してたぞ。吾郎君と一緒じゃなかったのか?」

 あのバカ正男め! あやつにはタップリとお仕置きが必要だ。
 ていうか、吾郎のやつなんかもう半年前に終わってんのよ!

「吾郎じゃないもん。トンコと映画観てた」
「中学のときの友だちだな? ここへもよく遊びにきたものだ。そうかあ、あの礼儀正しい子は今も元気か?」
「あ、あんなやつ、死んじゃえばいいのよ! もう絶交よ!!」
「おいおい、ケンカしたのか? お前が悪いんじゃないのか?」
「違うもん! 悪いのは……、くっ、うぅぅ……」
「正子どうしたんだ!?」

 アタシは、今のどう仕様もない苛立ちを八つあたりで発散して、そうしてただ甘えてるだけ……。
 お父さんがティッシュを3連続取りで重ねて、アタシの顔を覗き込みながら手渡してくれる。

「ずずっ、ぐぢゅずずずぅぅ~~~ん!」
「…………」
「お父さんごめん……、ありがと」
「ああ」

 こんな優しさを持つお父さんがいてくれるから、アタシはこれからもずっと生きて行ける。ていうか、死んでたまるか!

「お父さんあのね、アタシ人生最大の失敗をやらかしちゃったの」
「なっ、お、お前、まさか妊娠したのか!? 吾郎君の子か?」
「違う違う!!」

 してたら今のアタシ、お腹ポッコリになってますから!

「ふぅ~、驚かすなよ。違うのなら、どうしたというのだ?」
「アタシが集めてきたWEB小説、ほとんどダメにしちゃったの。ファイルがおかしくなって、もう読めないの……」
「なんだそんなことか。正子が『人生最大の失敗』なんていうから、とんでもない事態だと思って心配したぞ。冗談だったか~」
「ぬぁ!?」
「そのWEB小説というのは、素人連中が暇つぶしで書いてる自己満足の作品なんだろう? どれもこれも読むに堪えないアホらしい文章の?」
「バカッ!! お父さん知らないくせに!」
「なっ……」

 こんな偏見を持つお父さんがいなくても、アタシはこれからもずっと生きて行ける。ていうか、死んでたまるか!
 ここまでコキおろされて黙ってるわけにはいかないので、アタシは父を前にして、WEB小説のよさ、大勢の作者さんがどれだけ懸命に書いているかということ、書籍化されたりアニメになったりする作品もあること、これからの新しい可能性、あれやこれやと熱く語った。

「すまなかったな。父さんの知識と考えが浅かったよ」
「じゃあお父さんもWEB小説読んだらいいよ。アタシがお勧めの作品教えてあげるから。ね?」
「いやあ、それは遠慮しておく」
「どうしてよ?」
「なあ正子、5年ほど前の正月に父さんが古いアニメの話題で正男と話してたとき、お前がいった言葉、まだ覚えているか?」
「あっ……」

 アニメのロボット兵器の種類や、それを操縦する軍人だとか必殺技だとかを、お父さんが正男に熱く語っていたときのことだ。アタシ1人が除け者にされてるみたいで、つい「お父さん、いい歳して幼稚だね。そんな戦争ロボットのなにがいいのよ」といったのだ。

「覚えてるな?」
「うん……、ごめんなさい」
「人それぞれ価値観は違うから、自分の趣味を押しつけるのはよくないってことだ」
「わかった」
「それならいい」

 2人でしばらくテレビを観ていた。ちょっとぎこちない心地がするものの、安心感のある雰囲気だ。
 テレビのこちら側の沈黙に耐え切れないのか、お父さんが口を開いた。

「しかしこの映画もなんだな、『全米が感動した』とかいうけど、全米って、ちょっと感動し過ぎてやしないか?」
「ぷぷっ……」
「なんだ?」
「別になんでもない」
「お前『お父さんがこのNY市警みたいな顔立ちをしてたらいいのになあ~』とか、思ってるのか?」
「あははは、笑わせないでよ~」

 お父さん気を使ってくれてる。やっぱり優しいね。

「俺は日本人の両親から生まれた日本人だから、こういう顔なんだ。このNY市警みたいにはなれないぞ」
「わかってるって、ぷぷ」
「気持ちも落ち着いたな?」
「うん、ありがと。長生きしてね」
「急にしおらしいじゃないか、不気味だぞ」
「もうお父さん!」
「はははは」

 そしてCMになり、お父さんが「さあて、風呂だな」と立ちあがる。

「ラスト観ないの?」
「父さんは今までに5回観たんだ」
「ふうん」

 心配してしばらく横にいてくれたのか。
 そんな優しい父はお風呂へ行ったことだし、歯磨きすませて2階へあがることにする。この映画アタシだって4回目だし、ラストシーンはもういい。
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